十八之剣 「時戻」

 ソラは、倒れ込んでいるエレムに駆け寄り、声をかける。


「大丈夫か、婆さん!!」


 だが、返事が返ってこない。相変わらず、エレムは、床に倒れ、動く気配がない。

 ソラは、もう一度、エレムに叫ぶ。


「大丈夫か、なあ、返事してくれよ!!」


「ああ、ソラか......。お前に渡したいものが......」


 返事が返ってきました。良かった!!エレムは、生きていました!!ソラも、少し安心した様子を見せている。

 彼女は顔を上げ、優しい目でソラを見つめます。


「今は、そんなこといいよ。そんなことより、俺は婆さんの体調の方が心配なんだ」


「わしの体調なら、大丈夫じゃ。といいたいところだが、実はわしには、残さた時間がわずかしかない」


「それって、どういう......」


 エレムの震える右手には、錆び付いた小さな剣が握りしめられている。右手をソラの方に伸ばし、その剣を渡そうとしています。


「剣......」


「さあ、受け取れ」


 ソラは、エレムから差し出された剣を受け取る。その際に、剣に何かがついていることに気づきます。


「おい、婆さん、剣についてるの、血じゃねーのか。手のひらも、真っ赤に染まってる」


「動揺するでない、ソラ。わしのことより、村に魔族たちが近づいておる。今のお前では、到底、太刀打ちできる相手ではない」


「知ってたのか、魔族たちがここに迫っていることを。一体いつから」


「そんなことはどうでもいいことじゃ。とにかく、今から、わしの魔力を使い、時戻しを行う」


「なんだよ、それ?」


「お前の体を三年前の状態まで巻き戻す。とにかく、ワシの両手に触れるのじゃ」


 エレムは、両手をソラの目の前に伸ばします。ですが、ソラは、その両手を握ることをためらっている。


「でも、そんなことしたら、婆さんの体がもたないんじゃ。俺には、できないよ」


「かまうな、やるのじゃ!!」


 ソラは、エレムの迸る気迫に彼女の本気を見る。

 つらい、できれば、やりたくない。ソラの中でそんな気持ちが渦巻いています。ですが、ここはエレムの意志を重んじて言うとおりにすべきと考えたのでしょうか。

 ソラは、錆び付いた剣をしまい込むと、エレムの両手に触れた。


「なあ、時戻しを行う前に一つだけ言いたいことがあるんだ。言って、大丈夫か?」


「ああ、いいぞ」


「俺を助けてくれてありがとう」


「なんだ、そんなことか」


「テナから、聞いたよ。瀕死の俺にずっと、面倒見てくれてたんだってな」


「たいしたことじゃないの」


「もしかして、今、婆さんが死にそうになっているのは、俺に魔力を与え続けたからじゃねーのか?」


「さーの」


「婆さん、嘘が下手だな。顔に答えが出てるよ。なんで、そこまでして俺を救ってくれたんだ」


「森の中で眠る、お前を初めて見たとき、なんとなくじゃが、魔族の脅威から私たちから救ってくれるような気がしたんじゃ。わしのかんはよく当たるんでの。かんを信じて、お前を助けることにした」


「そんなことで。俺のことを。俺を救えば、自分の命が削られていくって分かってただろ」


「もう、わしは十分過ぎるほど生きた。最後くらい、誰かのために命を燃やしたいと思ったのじゃよ」


「俺は......俺は、いやだ。婆さんに死んでほしくない。もういやなんだ。目の前で、大切な人が離れていくのを見るのは」


「そう、嘆くでない。なんでも抱え込む必要なんてないんじゃ。人一人が、救える命などたかがしれておる」


「でも」


「どんな命も必ず、終わりが訪れ自然に帰る。いずれ、朽ち果てた命は土となり、その土から植物が育ち、花を咲かせ、その植物を動物たちが食べて生活をしている。そうやって、命の連鎖をつないでいくのじゃ。だから、わしは、命が尽きるとしても悔いはない」


「つらいよ。俺は、婆さんに何もしてあげられていないのに」


「ばかもの、これから、するのじゃろうが!!魔族を倒し、この村を救ってもらわないと困る。救ってくれるな、ソラ?」


「うん、約束するよ」


「それでは、はじめるぞ。時間がないんでの」


 エレムは、残った魔力を全て使い、ソラに流し込む。それと同時に、ソラは神々しい光に包まれ、エレムの記憶が流れ込んできます。


 これはーー。


 光に包まれ、ソラが見たエレムの記憶とは何なのでしょうか。次回に、続きます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る