十七之剣 「テナ」

 エレムの小屋の中は、古風な雰囲気を醸し出しています。奥の方には暖炉があり、炎が激しく燃え盛っている。床を見てみると、絨毯がしかれ、その上にはテーブルと一つの椅子が置かれています。まさに、婆さんのお家という感じでしょうか。

 椅子が一つということは、エレムひとりで過ごしているのか。

 と、思いきや、小屋の中から物音がするぞ。一体、何奴?


「な、なんだ!?」


 ソラは、突然の物音が鳴り響き、驚いた様子を見せる。その直後、エレムの方に、光輝きながら近づいてきた。

 このホタルのような光。もしや......。


「何、こいつ。もしかして、森の中にいた奴」


 やはり、妖精だ。背中の羽を動かしながら、宙を優雅に舞っている。


「そうじゃ。あの少年じゃ」


「へぇー、こいつがね」


 妖精は、ソラの目の前まで飛ぶと彼の顔をじっくり見る。


「どうも」


 ソラが、そう言うと、妖精はそっぽを向く。まさにツンデレキャラの典型。発言にも、とげがありそうだ。


「こいつ、臭うんだけど。くさいくさい。三年間、放置し続けて、腐ってんじゃないの」


 こ、この野郎!!


 おっと、この妖精、相当、毒舌だ。初対面の相手にここまで、嫌みを吐くとはただ者ではありません。日頃、温厚なソラも、苛立ちを覚えている。


「よさんか。そういうテナも、この男の手当てを手伝っておったじゃろ」


「ふん、別に手伝ってないわよ!!」


「まあ、それはさておき、ソラ、お前に渡すものがある。ちょっと待っておれ」


 エレムは、そう言うと、俺たち二人を残して一人で扉を開け、隣の部屋に歩いていきます。

 彼女が姿を消し、部屋の中にはソラとテナの二人だけになっている。これが、彼氏と彼女の関係なら盛り上がったかもしれないが、今回は、初対面どうし。しかも、テナはかなりの毒舌キャラで、人見知りなところがあります。にじみ出るような、気まずい雰囲気が醸し出されている。

 無音。何も、響いてこない。お互い、一言も発することなく、時間だけが進んでいます。

 遅い。エレムが戻ってくるのが遅い。なかなか、隣の部屋から出てきません。

 気まずい雰囲気の中、ソラは、テナの顔を見て様子を窺う。テナも、ソラの顔を見て、お互い目が合います。


「な、なによ!!」


 テナが、ソラと目が合いあわてている。顔も赤らめています。目が合っただけで、これほどのオーバーリアクション。驚きです。


「いや、さっき、エレムが言ってたけど、俺のこと手当てしてくれたんだな。ありがとよ。手当てしてくれて」


「お礼なら、私じゃなくてエレムに言うのね。エレムは、あなたが眠り続けていた三年間、毎日、自分の魔力を与え続けていたのよ。雨が降った日もあった。雪が降った日もあったし、嵐が吹き荒れた時もあったけど、それでもあなたの元に行っていたわ」


「エレムの婆さんが、俺のことを、そこまで......」


「絶対、感謝の言葉言いなさいよ。私じゃなくてエレムに!!」


「ああ、言うよ。エレムの婆さんに必ず。それにしても、婆さん遅いな」


 心配になり、ソラはエレムのところに行こうとした時です。小屋の扉がいきなり開く。


「大変だ!!妖精の森に、魔族たちが現れた!!」


 魔族という言葉を耳にし、ソラは急に険しい顔になる。


「魔族、どうしてここまで?」


「分からない。でも、魔族たちは村の近くまで来ているらしい。このままだと、村まで来る。早く逃げないとみんなやられてしまうよ!!」


 一瞬、感じた魔族の魔力は気のせいではなかったのか。


 ソラは、目をつむり周りの魔力を感じとります。魔力を感じとることはソラにとって、最も得意とすることです。


 地上にいる妖精たちの魔力が一つずつ、ものすごい速さで消えていく。魔族の奴ら、絶対に許さねー。


「大変なことになってるじゃないのよ!!エレムにもこのこと伝えないと」


「ああ、そうだな」


 ソラたちは、村の妖精からの伝達を伝えようと、エレムのいる隣の部屋の扉を開け、中に入る。ですが、中に入った途端、二人とも静止し、動かない。何が起こったのか分からないといった表情を浮かべ茫然としています。


「エレムの......婆さん......」


 思わず、ソラの口から、エレムの名が漏れる。

 茫然とするソラたちの前には、床に倒れ込むエレムの姿があります。

 これは、一体ーー。

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