十六之剣 「銃声」

 妖精の村の地上、洞窟から一キロ程離れた場所。


 ソラとの戦いに勝利したタナ。村から地上に上がり、森の中を歩き、森の空気を思いっきり吸い込み、吐き出す。


 私は、ソラを越した。

 今の私なら、魔族たちを倒し、魔王を倒すことも可能かもしれない。

 いや、必ず倒してみせる。


 ふと、タナは、視線を下に下げると、あることに気がつきます。


 服に切れ目が入っている......ソラ、お前、もしかして。


「うっううああう」


 タナが考え事をしていると、森のどこからか、叫び声が聞こえます。今にも消え入りそうな小さな叫びです。

 タナは、あわてて周りを見渡し、森の異変に気がつく。

 

 いつもなら、妖精たちが、飛び交い楽しげに遊んでいるはずだ。だけど、今日は見ていない。

 それどころか、森に住む動物たちの姿すら見ていない。どうなってるんだ、一体。


 とりあえず、タナは叫び声がする方向に向かってみることにします。すると、草が茂った地面に一人の妖精が倒れている。草を握りしめ、動こうとしていますが、見たところ、動けないでいるようです。


「どうした!?何があった?」


 急いで、倒れ込む妖精の元に駆け寄る。妖精の背中を見ると、あるはずの羽がなくなっています。


「羽がもがれている。なんて、ひどいことを......」


 妖精は、顔を上げて、タナの方を向くと、口元を動かし、相変わらず弱々しい小さな声で言った。


「逃げて......逃げて」


「逃げる。何から逃げるっていうんだ」


 タナは、叫んだ直後、強烈な破壊音とともに目の前の大木が粉々に砕ける。そのいきなりで砂埃が舞っており、大木を破壊した者の姿が見えません。


「つれた!!つれた!!獲物がつれたぜ!!うん......なんだ、人間か。人間なら、食い飽きたぜ」


「なっ、何者だ!!」


 その瞬間、タナは、目の前の者が発する歪で、重く、強大な魔力を感じ、本能的に背中の剣を抜き、構えていた。


 恐怖。


 タナの頭の中は、この言葉で埋め尽くされ、心臓が高なり、手が震え、額から汗が流れ落ちる。


「ああ、俺か、俺はカゲツ」


「カゲツ」


 すると、砂埃が風で吹き飛び、カゲツの姿が露わになる。その姿を見て、タナは驚愕します。


「魔族!!なんで、ここに魔族が。とりあえず、お前を倒す!!」


「えっ、なんだって?」


 タナが剣を構え、戦闘体勢に入っている一方、カゲツは耳に指を入れほじっている。

 タナは、ほんの一瞬だけ、カゲツに気を取られ、周りへの警戒をとく。その隙を見て、エンゲツが笑みを浮かべる。


 駄目だよ。周りの警戒をといちゃ......。


 ボーン。


 タナの西側、約三キロ離れた地点で銃声が鳴り響く。

 銃の先端から放たれた魔力の弾丸は、大気を切るように一直線に進み、タナの左肩の辺りに直撃します。


「なっ、もう一人、いたのか」


 銃撃を受けたタナは、なすすべなく地面に倒れ込む。地面に傷口から血液が漏れ、徐々に意識を失っていきます。


「剣士か、こいつ。さぁ、どう調理しようかなー」




 “ソラ、逃げろーー”



 ※※※


 ソラは、エレムにつれられ、一つぽつんとたっている小屋まで来ていた。小屋は、木造建築で、朱色の屋根には煙突が伸びています。エレムのようなお年寄りが住んでいそうな、いかにもそれらしい小屋です。


「ここが、わしの家じゃ。中に入ってくれ」


 エレムは、そう言うと、家の扉を開け、中に入っていく。ですが、ソラは、立ち止まり、上の方を眺めている。何か様子がおかしい。


「どうした、ソラ。入らんのか?」


 一瞬、魔族らしき気配が......。


「いや、何でもない」


 ソラは、取っ手を片手で握りしめ、下におろしながら小屋の扉を開け、中に入り鍵を閉めた。

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