第3話
目に映るのは水の底。
深く深く沈んでいる。
(君にはまだやるべきことがあるっスヨ)
どこからともなく聞こえてきた。
声の主が誰なのか分からない。
だがその言葉にはなにか重大な意味がある気がした。
そして気づけば上昇していた。
(まだここで死ぬわけにはいかない)
光が見えそれに手を伸ばした。
目を覚ますと俺っちはベッドで寝ていた。
辺りを見ると横には先程助けた女性がいた。
女性は気持ちよさそうに寝ている。
起こしては申し訳ないと思い静かにベッドを降り家を出た。
外には村人がいて、俺っちの姿を見るや否や恐怖に怯えた表情をした。
やがて周りには誰もいなくなった。
しばらくじっとしているとおじいさんがやってきた。
なにかまた色々言われるのではないだろうか。
そんな不安を抱いていると、
「先程はどうも孫を助けていただきありがとうございます」
考えていたこととは真逆のことを言われた。
素直に褒められたのだ。
「いえ。あのままではお孫さんが焼かれて死んでいましたから。当然のことをしたまでで」
おじさんの顔はまるで神を見たかのような驚きぶりであった。
「まさかあなたのような魔族がこの世にいらっしゃるとは」
「え、俺っちって魔族なんですか?」
今までなんで村人が怯えていたか。なぜ魔物と言われたのか。不思議で仕方がなかったのだ。
そんな疑問が今解決しようとしていた。
「あなたのその
そこでようやく俺は自分の容姿を知った。
おじいさんが鏡を持ってきてくれた。
鏡を見ると先程おじいさんが言ったことと全く同じ姿であった。
「何も思い出せないけどこれで1つ俺っちは魔族ってことが分かった」
(とりあえずこの姿をするのはあまり良くない。隠しておこうか)
頭の中で強く念じると角は引っ込み羽は小さくなり、目の色は青色に変わり、髪の色は黒に変わった。そして5本の尻尾はみるみる小さくなり腰に巻き付けた。
もう1度鏡を見ると先程とは打って変わって別人の姿だった。
魔族とはまるで正反対の弱々しい村人の姿がそこにあった。
「よし。これで怖がられずに済む」
俺っちは家の外に出た。
魔王からはかつての残虐さと記憶が消え、人を思いやり優しさが取り柄の優しい魔族となっていた。
死後の世界では......
「あー行っちゃったなールシダスちん」
魔神王サタナスは彼とのお別れを少しばかり寂しがっていた。
「あ、そういえば1つ言い忘れていたことがあったな」
肝心なことを言い忘れる。魔神王サタナスの悪い癖である。
「転生したら記憶は綺麗さっぱり忘れちまうんだった」
魔神王は何の反省もなく死後の世界でのバカンスを楽しむのであった。
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