第9話
その後、古橋君は、テレビに出て固定客を失っている、と聞く。恐れ入った。
もう私には二度と手に出せる場所ではない。私が引退したときにあったドトールコーヒーはコンビニになっている有様である。
私のような古ぼけた人間なぞの出る幕ではない。私が始めて持った店だけが生き残っている。
あのカウンターやイス、テーブルには、新たにニスが塗られていた。完全に妹の店になってしまっている。
相変わらず、平野氏と焼肉屋の大門は、親子で毎朝来店しているとのこと。
母親は八十を越したらしい。富士吉の長男和男君は、父親の死後精神病院へ入り、一億もの借金だけがその和男君の名義だという。
その彼は、家庭裁判に訴えられている、という。
私の知っている客の中で健在なのは平野氏だけだという。あの話好きな和服姿の林さんは、家で寝込んでいると言う。
頑健なのは、二階のタックさんぐらいらしい。あの東建の社長でさえ、自社ビルを全階貸している、という。
もう世の中は、十回転も、二十回転もしているらしい。
西新井病院でさえなくなっていた。病院が廃業なんて信じられない。
ゴム建保の安田さんは、五十歳になって失恋して電話をかけてきたという。
その頃の私は久しぶりに寄るの十時になろうという時刻に、まだ薬も飲まずこれを書いている。
私の家も崩壊しているのに、妹だけは元気で仕事をしている。彼女は出勤が朝七時で、夜の七時まで働いているらしい。
これで良かったのだ。全て、今のままで良かったのだ。
今の私は筑波の文芸サロンだけが楽しみである。あの席には、中野さんと川幅女史がいて、西野先生が講義をしている。
今の私には、あそこだけが心休まる場所である。今月は十六日である。
それまでに、私は、あと、三・四十万円を投資しておこうと思っている。約束は五月八日、午前九時である。
私は私で生きる方法を探しておかねば!と思っている。
明日は、姉と佐貫駅で待ち合わせている。彼女と会うのは嫌なのだが介護保険が要介護三までになって、それを姉に伝えなければいけない。
十時になると、私は一人ぼっち、隣の猿田氏も、玄関口に住んでいる内田さんも、もう寝ていて、私も眠剤を飲んだ。
私もそろそろベッドに入ろうと思っている。しかし、村上春樹の「ねむり」を読んでいる。
氏は若いときから不眠症だ、と言っている。
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