第6話

 離婚して二年目に入ろうとしている。私は薬漬けの生活を送らねばならない。

今では夢の一つも見たことはない。この独居老人ホームさえあれば何とかなる。

 これは夢じゃない、と私は思った。私は夢から覚めたのだ。それも漠然と覚めたのではなく、はじかれるように覚めたのだ。これは現実なのだ。

 今の私は、ただ一言。無念の一言である。

 しかし、私は二十代から四十代まで働き続けであった。最近入所してきた関さん(私と同じ年)の動向が面白い。

それは、彼が身内に捨てられたことである。その彼は明るく元気だが上半身はギブスだらけである。

これから徐々に知ることになるだろうと思っているが、彼は己の預金通帳を持っていない、と言っている。

六月の年金日が楽しみである。アル中の郡司もそうであったが、関さんは彼とは違い、かなり常識を持っている人間である。

その彼の通帳は、奥さんの手元にあると言っている。

 でもそれらの出来事はどれも私の存在を揺動かしはしなかった。それらは音のない嵐のように私の周りを吹き過ぎていっただけだ。

 彼はそれに不信感を持っているし、細かなことを知っていることを、私は一昨日聞いた。

 猿田老人のバカさ加減を知っているし、斉藤さんの男癖の悪さも知っていて、古藤さんの狡さも知っていた。

私は、彼にあまり近寄らずにいようと思っている。いつの日か彼は奥さんとトラブルを起こすことは間違いない。

 私はそれらにタッチしないようにしたい。

 私の母がそうであったように、私はどれくらいの期間の後、発狂が始まるのか、私は不安はないが、少しは脳にダメージが来るだろう。

それは、二度目の脳梗塞であり、心筋梗塞もあながち気を許せない。私は過去において、それらを経験している。

 私にはあの母親の無口さが気になる。しかし、私の眠れないところや小心さは、母親に似ている性格である。

誰もが認めるものだ。

 そのせいで私は、いつか母親のように、精神病院へ入院させられるのではないかと、二十歳の頃から戦々恐々と思っていた。

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