第5話

 私の生活は表面的には以前と変わりなく流れている。

とても穏便に、とても規則的に。しかし、私はその時脳梗塞に罹患していることに気付いていなかったし、鬱病の薬も飲んでいた。

それに、母親と父親の弟である叔父の面倒を見ていた。父は、嫁と派手な喧嘩をしている毎日だった。

「お前の嫁は、鬼嫁だなぁ」と、私に苦情を言ってきた。今は、その嫁も子供もいない分、気が楽である。

 本当はもっとのんびりやりたかったんだけれど、今のままで文句は言えないし、この孤貧が好きである。

孤独がなかったら、こんなくだらん小説も書けやしない。

 私には、要介護三の知らせが来ている。これからの人生を設計せざるを得ない。

未だ高血圧で不眠症である。何も変わらないけれど、私の不眠症も、九十五歳の母があの世へ行っても変わらないと思う。

この老人ホームは、自由でいい。

 嫁に子供達にも、私が一睡もできていないことを知らせてはいない。

 それを知ったとしても、私が彼らに頼む必要はない。三人の子供も、私が居なくて気楽に生活をしてると思う。

今年は次女の志歩も就職している。私の書庫の本を沢山読んでいたことは、私も知っている。

 あの頃(昭和六〇年)は夢だったんだ、と私は思った。そしてじっと仰向けになったまま息が落ち着くのを待った。

心臓が激しく活動し、素早く血液を送り出すために、肺がふりこのように膨らんだり縮んだりしていた。なぜか、ここのところ血圧が高いのだ。

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