第2話

 私が不眠症を自覚したのは、私に彼女が出来た三〇歳過ぎだった。その彼女とラブホテルへ入っても、私は眠れなかったのである。

結婚してからも眠れない日々が続いた。

 その頃、上野で飲食店を開いた。病院に行くと、高血圧と診断されただけだった。

それがきっかけとなって眠剤を頂いた。その頃から、私は不眠症が続いた。しかし、皆には黙っていた。

二軒目の店を出し意気が最高に上がっていたのだ。しかし、従業員(一五人)には、ただ単に神経高血圧であると言った。

それから一ヶ月ほど、「不眠症のようなもの」は続いた。その間私は、一度としてまともな眠りを迎えることができなかった。

心臓がむしりとられるような痛みの症状になったのも、その年の十月頃だった。

その苦痛を抱えたまま、私は店の裏にあった西新井病院を訪ねると、先生から「そうした症状が出たら、救急車を頼んでください!」と叱られた。

診断の結果は、上室性頻脈症という、心臓の左心室が狭くなる病気だった。

 私は不整脈が続いて、毎晩水溜りのような汗をかいていた。下着はその都度替えた。

 そんな時読んでいたのは、大江健三郎の本だった。題名は忘れてしまったが、作者が夜中に見る夢の物語だった。

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