ロックマンX
スーパーファミコンを父親が買ってきたのは、今思い返してみてもたいへん不思議なことだった。二十数年前の基準でもかなり厳しい人で、バラエティ番組を『バカ番組』と呼び、子供に手を上げることもためらわなかった。それに当時は兄弟の中で一番上の私も小学校に入ったばかりで、ものすごくゲームをほしがったという記憶もない。第一ほしがったものを無条件に買ってもらえるような家庭環境でもなかった。
だからその理由はいまだにわからないのだが、とにかく父親はスーパーファミコンを買ってきた。本体を上に、ケーブルやコントローラーを下にしまう、取っ手のついた収納ケースに入っていた。そしてそれと一緒についてきたのが、ロックマンXのソフトだった。
私たち兄弟はこのソフトにハマった。前のシリーズとしてロックマンというタイトルがあったことも知らなかったし、最初の画面に表示される『START GAME』は読めなかった。ボタンを押すとテレビの中でロックマンがジャンプする。背景に壊れた車が置いてある。二本足の敵が出てくる。そのいちいちがものすごくおもしろかった。壁をキックして登るのにキャアキャア言いながら熱中し、穴に落ちて残機が一個減っては本気でがっかりした。
ゲームは一人一日三十分と決められていた。だから私たちは交代交代でロックマンXをプレイした。自分の番が終わった後は他の二人がプレイするのを眺めていた。「あー、そこはだめなんだって」と口をはさみ、「うるさいな」とケンカになると最終的に「ゲーム無しにするよ!」と怒られて実に素早く和平を結んだ。
ずっとプレイしていると、だんだん攻略の勘所もつかめてくるようになった。オープニングステージをクリアした後、まずは氷のステージに行く。ここのボス、アイシー・ペンギーゴはノーマルバスターでも問題なく倒せる上、道中にダッシュができるようになるフットパーツが置いてある。アイシー・ペンギーゴを倒した後は空中ステージだ。ここのイーグリードもノーマルバスターで倒せるし、ヘッドパーツとハート(最大HPが増える)が取れる。その後はゾウのボスのステージでチャージショットを取り、発電所ステージ、アルマジロ、海中ステージ、ブーメル・クワンガー、カメレオンのボスを最後に倒す。その後取り残したアイテムをさらった後、ラスボス・シグマのステージに挑む。
シグマステージの道中はいままでのボスが順番に出てくるのだが、これは問題なく倒すことができた。それぞれのボスは倒すと特殊な武器を使えるようになるのだが、この特殊武器はまた別のボスの弱点になっているのだ。アイシー・ペンギーゴは炎の特殊武器を使うと焼き鳥になるし、タコのボスはブーメル・クワンガーの武器を使うと八本の手が切り落とされる。だからそれほど苦労はしなかった。また、各ステージの一番最後のボス、これはなかなか強い(とくに左右から壁が迫ってきて下はトゲトゲになっているやつ)が、我々はきちんとエネルギータンクを満タンにして挑んでいたためしっかり倒すことが出来た。
問題はラスボス・シグマだった。シグマ戦は、シグマの飼い犬→シグマ→シグマ最終形態の順に戦うのだが、このシグマ最終形態が強すぎた。最初のシグマを倒すと、その生首が浮かんで巨大メカとガッチャンコし、左右の巨大な手から電撃が放たれトゲトゲがこちらにすっとんで来るという小学生には処理しきれない事態になる。そしておそろしく硬い。チャージショットをちまちま当てているうちに電撃やトゲでこちらのライフがガンガン削られ、エネルギータンクは枯渇し、そしてロックマンは散る。何日も何日もかけても、子供の頃の私たちは、結局シグマを倒すことができなかった。
それからクリスマスや誕生日を使って、私たちはボンバーマンやマリオやカービィといった他のソフトを手に入れた。ロックマンXは結局『全クリ』しないまま、収納ケースの下の方に放置されるようになった。
この前手に入れたミニスーファミに、ロックマンXが入っていた。操作方法もアイシー・ペンギーゴステージではあの半円状のドームを壊してハートを手に入れることも、発電所ステージでブーメランをつかってエネルギータンクを取ることも、各ボスの弱点もすべて覚えていた。波動拳の裏技も。
HPマックスのロックマンは、すんなりとシグマにたどり着けた。シグマ最終形態の挙動は、いくつかのパターンにわけられることがわかった。電撃は手の端に寄ってかわし、トゲが来る前にジャンプして避ける。そしてエネルギータンクを四つ使って、とうとう、というべきかあっさりというべきか、とにかくシグマを倒すことができた。
この年になってはじめてロックマンXのエンドロールを見た。あのころシグマは倒せなかった。でも私にとっては、ロックマンXからすべてが始まったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます