空中庭園の物語2


この時間が恋しくて

焦がれて、待っていたんだ


大聖堂では

騎士の像達が

剣を折られ

盾を抉られて

首を刎ねられて

無作為に倒れて

女神の像を

守らんと、ただする為に


朽ちた聖堂のステンドグラスからは

屈折した月光が降り注いで

女神像に脆弱な光を降ろす


君の時間がはじまる

石の肌は温度を取り戻しはじめて

ただ、その半身は鉄で加工されて

機械仕掛けの歯車が、君を動かす


不器用な僕は、いつも

最初に何を話せばいいのか戸惑って

言葉を紡ぐその前に、君がいつもせがむんだ

今日あったこと、小さなこと、その全て

それから猫のことについて


他愛もないこと

当たり前のこと

何気ないこと


聞いたり、歌ったり、笑い転げた

その後で

君は、なにか決意したような表情で、手招きをして


おいで、って言う。

大理石の扉に手をかけて


騎士の像を踏み潰しながら


今まで触れることを嫌がった場所へ

空中庭園の深部へ。


君の時間が始まる

君の時間が終わる

鉄の半身で踏みしめて


僕の手を引いて


時間のはじまりと終わり

連なり、変わり

そして交わり


君の時間が終わり、

僕の時間が終わり、


この深淵で

月の光が届かない場所で

半分鉄の唇が

僕の唇に触れて


僕の時間が終わって

君の時間が終わって


僕らの時間がはじまる。

光も届かない

空中庭園の深部から


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