第34話 東京
東京都渋谷区スクランブル交差点。
エジプトからの時差で既に夜に差しかかっていたが、日が長くうっすらとだがまだ明かりはあった。
そこには四六時中も人が溢れ、眠らずの街として有名な姿は無かった。
人が一人としていない。いや、いるにはいるのだが明らかに歩き方のおかしい。そんな人としての生を終えた者ならば目に入った。
ビルは崩れ、破壊された瓦礫が至るところに落ちている。
地面もひび割れ、もしくは陥没している。戦いの後を思わせた光景が広がっていた。
電気系統も破壊されたのか、巨大モニターは画面が真っ暗。信号機も全て色が消えていた。
カラカラと乾いた暖かい風が砂埃を巻き上げなら煌の前を横切っていく。
「━━ここはどこです?」
「ここは日本の東京。いつもは人が溢れて賑やかだったんだけど……」
「日本?ですか。 煌さんの祖国です?」
「んと、祖国ではないよ。来て五年、生活の拠点にしている国だよ」
「そうですか……しかし何でここに?家は見た限りなさそうですけど…」
「いや、家はここではないんだけど、人がいれば話を聞こうと思って……しかしこれは……」
煌は日本の状況を知るために人に話を聞こうと考えていた。
多くの人の往来がある場所へと考え、思い付いたのがよく遊びに来ていたここ、渋谷であった。
しかし、元の華やかな都会の姿は見る影もなかった。
「どうしますか?」
「……とりあえず移動を━━━」
「━━煌さん、うしろっ!」
煌はその声に反応し、振り返ることはせずネフェルティティを掴み一瞬にして横へ移動する。
すると、煌のいた場所へと降り下ろされたのは刀だった。形状は日本刀。
「━━━ほう。 これを避けるか。 やはりそれなりに力はあるようだな」
そこにいたのは一人の男だった。
服装は白のスーツ。髪はオールバックで体躯は細身。
「いきなり物騒だな。 誰だ?」
「名乗るほどの者ではない。 ここらの領域を任されている者でね。 突然強い気配が現れたものだから見に来たのだよ。で、君は誰だい? ここに何か用かな?」
「おいおい。 いつからここは私有地になったんだ? しかも、自分は名乗らずに人には聞くのかよ」
「……このような世界になってしまったからね。 私有地というわけではないが、誰かが統制しないと無法地帯になってしまうだろう? まだ東京だけであるが、覇王様の支配下に置かれている」
「覇王?」
「………君は覇王様を知らないのか?」
「━━悪い。わからない」
覇王とはランキング一位の
煌はランキングに興味が乏しく、ランカーの名前を把握していなかった。
煌の返答に対し、その男は煌がそこそこの実力はあるものの、覇王のことを知らないような奴はただの雑魚に過ぎないと考えてしまった。だから、煌のランクについても確認を怠ってしまう。
「そうか……。まあいい。それでここにはどうして?どうやって来た?」
「どうやって来たかは言えない。 ここにいた人々はどこへ? ここで何があった?」
煌は突然斬りかかってくるような人に情報を言うつもりはなかった。煌の持つ《転瞬の腕輪》はレアなアイテムであり、宝箱解放報酬だ。
このような解放報酬は、宝箱を守護する者を倒した者のみが装備できる資格を持つのである。
故に、《転瞬の腕輪》は煌にしか装備することができない。
これについては煌自身も知っていることである。
宿舎でマハムードやノーラに貸してみたが、発動はおろか装備することさえできなかったのだ。
だからと言って、この能力は絶大だ。
その力は便利という言葉で片付けられない程に強力な能力なのだ。
もし、その力について知られれば、どうにかして利用しようと目論む輩が現れるかもしれない。そうなった場合、危険なのは煌自身よりも煌の親しい関係者だ。
人質にとられるかもしれない。命を脅かされるかもしれない。
だから、煌はおいそれと情報を流しはしないのだ。
「……。まあいい。 知っての通り、この世界になって至るところで魔物が出現した。 ここも例外ではなくな。 そして運が悪く、ここには大型の魔物が数体現れたんだ……誰もが混乱してな。 自身の能力について理解するまでに時間がかかりすぎたんだ。突然あんなのが出てくれば仕方のないことだが、それは命とりさ。 制圧後はキャンプを作り、そこで生活をする者や出てった者と様々だ」
「そうか……。それでそのキャンプは近いのか?」
「ああ。 どうだ?そこで生活しないか? そちらの彼女も危険さらされるよりいいだろう」
男に視線を送られたネフェルティティはそっと煌の陰に隠れる。
「……生憎だがやることがあってな。 人探しもしてるから、終わり次第そのキャンプに邪魔するかもしれないが、その時はよろしくお願いしたい」
「━━━了解した。 次はいきなり斬りかからないように気を付けよう」
その男は少し微笑むと、煙のように消えていった。
男の気配は一瞬にして消えてしまった。
しかし、煌はその男のことを信用していないから警戒を怠らない。いつ斬られるか分かったものではないからだ。
視界の中には、今だにさ迷う人間だった者の姿も映る。
「……世界中が変わってしまったんだな。くそっ」
煌は大勢亡くなったと男が言っていたのを思い出す。
その中に知り合い、延いては親友が含まれていないことを願った。そして、すぐにでもキャンプに行き、今の生存者の確認をしたかった。
しかし、今はダニヤが一刻も争うのだ。
「………煌さん、今の世界のことを教えてください」
「わかった。 その代わりネフェルティティさんのことも教えてくれ。━━とりあえず今日はもう遅いから泊まれるとこを探そう。そして明日はすぐに中国へ飛ぶ」
「わかりました。それからネルって呼んでください。パートナーだから、気楽にお願いします」
「なら、敬語は無しだ。━━ネルも煌でいいから」
「わ、わかりま…、……うん。……よし、こ、煌ね」
頬をほんのり赤く染めるネフェルティティ。
「いいねっ! じゃあ移動する」
「はい!」
「おいっ」
「……あ、うん」
「ふふ。よし、じゃあ飛ぶ」
煌はネフェルティティの手を取ると、そのまま転移した。
異世界からゲーム世界へ ~回復師の奮闘記~ 深海 和尚 @shinkaiosyou
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