第27話 宝箱

取り残された魔核が僅かな明かりに反射しキラキラと光る。

 薄暗い空間で光輝く色とりどりのそれは、夜空に浮かぶ星屑のように幻想的だ。そして、勝者への報酬をきらびやかに飾っているようだった。

 スポットライトに照らされ、金の縁取りが眩しい赤の宝箱が勝者を待っていた。

 

 「ふぅ……強敵でしたな…危なかった」

 

 煌は苦労することもなく、ピンチを向かえたわけでもないのに、その言葉を口にした。

 聞いたものなら誰でも、どこがだよと突っ込みをいれたくなる程に鮮やかな勝利であった。

 

 「どこがだよ!」

 

 と、思わず突っ込みを入れつつ話を続けるマハムード。

 

 「お前さん、あれは何だ? ファイターのスキルじゃねぇしな……おっ?よく見りゃセカンドだな。……何選んだんだ? 教えろや」

 

 ここにいる皆が抱える疑問をストレートにぶつけるマハムードである。

 この世界においてどの職業に就いているかを教えることは、相手に勝利のヒントを与えるようなもの。対策を練られれば強者であろうとどうなるがわからないのである。情報一つが命とりであり、秘匿にすることがこのゲームでは生き残る術の一つになる。それはプレイヤー全員が分かっていることであって、相手に聞くことはタブーとされていた。

 

信頼の置ける仲間や家族であるならば情報を共有することには問題はないのだが。

 マハムードは煌と過ごした時間は短く、お互いのことをほとんど知らない。しかし、煌は命を救ってくれた。それも自身だけでなく、ここにいる全員をだ。一人で逃げればいいものを命をかけて世界最強格を倒してくれた。故にマハムードは煌を信頼した。

それどころか、ここにいる全員を信頼している。

 一度裏切ったサルマでさえも。

 

 このフロアに来るまでに煌はこれまであったことを聞かされていた。煌はここにいる全員とそこまで深い仲であるわけではないし、誰に何をされたわけでもないのだが、すでに苦楽を共にした仲間として扱われていた。

 その煌がサルマをどう思っているのかもマハムードは知らないが、情報の共有を全員でしようと勝手に決めていたのだ。

 だから、煌のセカンドジョブについても内緒話のようにコソコソとではなく、みんなに聞こえるように大声で話をしている。

 

 煌は、それに対し嫌な顔一つしていない。ただそれは自分のジョブを周知されても嫌ではないからという理由ではない。

 煌にとっては信頼しているとか、していないとか、仲間とか仲間じゃないとかではなく、単純に危機感がなかったからである。

 要するに何も考えていないのである。

 

 「実は━━━」

 

 煌はデザートドラゴンを倒した後に修得したこと、それがレア職であり仙人であったこと、さっきのスキルのこと、まだ見せていないスキルがあることを説明した。

 

 「……まじかよ、レアか……。ますます勝てないな……ハハッ…」

 「……マハムードさん、しかも仙人って修得条件が分からなくてその存在が幻とされいた程のやつですよ。 凄いなぁ……あっ!うわぁーしかも、ランキングがとんでもないことにっ」

 

 ノーラは何気なく煌のランキングを確認し驚愕した。

 レア職の人に逢えることも中々ないことであるが、上位ランカー、それも一桁台のランカーなど知り合いの伝でもない限りそうそう出会えないのである。

 ノーラにとって、既に煌は雲の上の存在に見えていた。

 肩を並べる仲間という存在ではなく、有名人に会っているような、もしくはそれ以上の一国の王様とでも話をしているような感覚に陥っていた。

 

それに比べ、全く動じないのはマハムードである。


 「うぉっ! こりゃーすげーな。もうお金に困ることもないんじゃねえか?」

 

 「………というのは??」


  マハムードの言葉にうんうんと頷くノーラを余所に、意味がいまいち分からないといった煌である。


 「こんな世界だろ? この世界では力さえ有ればとりあえず困ることはないと思わないか?」

 

 「……そうですね。俺自身、お金の問題があったけど、ダンジョンに潜ればそれも解決しそうだし、生活に困ることはないですね」

 「まぁそうなんだが、その力があまりに強い奴、トップランカーってのは国の軍事力よりも高いと言えるだろう。 どんな軍隊を所有していようと、七竜レベルを倒せる戦力ってそうそうないと思うんだよな。 核爆弾なら倒せるのかもしれないが、自国にそんなのが現れたら、爆弾投下なんてできるわけないだろう? となると、どの国も自衛のために抱え込みたいだろうし。

 それに戦争をしてる国からしたら、コストもかからず相手に爆弾を落とす程の被害を与えられる存在なんて、喉から手が出る程にほしいわけだ。 

 というわけで、金を払ってでも居てほしい国は沢山あるだろう。 その気になれば、国を獲ることもできるし、国を創ることもできんじゃねぇか?」

 

 マハムードはそこまでの力が煌にあると暗に指しているわけなのだが、当の本人は「へー、そんな人はすごいですねー」と、他人事であった。

 

 すると、黙って聞いていた煌の背中をバシンッとサルマが叩いた。

 

 「煌のことだよ!」

 

 

 ┼┼┼

 

 こんなとこで長々と悠長に話をしている場合ではないと、ひとまず話を終わりにし、宝箱の中身を確認することとなった。

 

 勿論、宝箱の権利はここの主とも言えるオークを倒した煌にある。

 煌はマハムードからモンスターが溢れた話を聞いていたので、警戒しつつ宝箱に触れた。

 

しかしモンスターが出現することもなく、カチッと上の部分が開いた。鍵などはなく、すんなりと口を開ける。

 後ろ側に付いている三つの蝶番がキィと音をたてた。

 

 中から溢れ出す光。まばゆい明かりが部屋を駆け巡った。

 煌は光が落ち着くのを待ち中を確認する。

 すると、中にはぎっちりと黄金に輝く金貨が詰まっていた。

 金貨の他にも黄金のカップや装飾を凝らした剣なども見てとれた。

 一際目立っていたのが、メタリックパープルに金の装飾が綺麗な腕輪であった。

 「……すごい財宝だ。 これはみなさんで山分けしましょう」

 

 「いやいや、これは全部お前のだよ。 お前がいなけりゃ俺達は死んでたんだ。 俺達には貰う権利はないし、お前には当然の報酬だ。 ……うーん……それにしてもその腕輪は気になるな」

 

 マハムードはアゴヒゲを擦りながら煌の持つ腕輪を見て、ノーラに意見を求めるように視線を移す。

 

 「……なんですかね……。 呪いとかあるかもしれないから安易に装備しないほうがいいと思いますけど……」

 

 すると、ダニヤが口を挟む。

 「それ、見たことある気がする。呪われていないと思う」

 

 ずっと部屋の壁際にいたが、宝箱の中身が気になったのかいつの間にかノーラの近くまでダニヤは移動していた。

 

 「お嬢様には分かるのですか? 実際に拝見したことが?」

 

 「実際にはないわ。 何で見たんだったかしら……。 ちょっと忘れたけど、レアアイテムだったはず……あ、ストレージに一度しまうといいわ。もしかしたら……」

 

 あっ、と煌はストレージに腕輪をしまう。

 そしてアイテム欄を確認すると、そこには《転瞬の腕輪》と表示されたいた。

 

 「転瞬の腕輪……なんだこれ。分かる人います?」


  煌の言葉にマハムード以外は驚きで声もでない。

 

 「まじかよ! それを知らないお前にびっくりだわ。レアもレアだよ。 国に帰れるぞ」

 

 「えっ! なんです?」

 

 「これはな、 一瞬で思い浮かべた場所へ移動できるアイテムだよ。 装備した者に触れていれば何人でも一緒に飛べるぞ。いやー、すげぇなおい。 それを売ればいくつの国が買えるか分からないくらいの値がつくかもな。売ったらアホだけどな」

 

 マハムードは良かったと言い、煌の肩を軽く叩いた。

 煌は漸くそのアイテムの稀少性を理解した。

 そしてストレージから腕輪を取り出すと、試しに腕にはめてみる。稀少ということで、若干緊張して手が震えていた。

 

 サイズが合わなかった腕輪は瞬時に締まり、ピッタリとはまる。

 「綺麗だな。……じゃあせっかくだからそれで帰ろう」

 

 「そうですね。そうしましょう。━━では、みなさん掴まって下さい」


 煌の肩や腕に全員が触れた。レオも尻尾で煌のスネに触れている。それを確認した煌は街の入口を頭に思い浮かべる。

 

 そして、淡い光の膜が一人一人を包むと、一瞬にして全員がピラミッド迷宮から姿を消したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る