第15話 サルマ
整備された歩道にゴミは一つもなく、不快な気持ちになりそうな物は一切見当たらない。
道に平行して並ぶのはエジプトでスークと呼ばれる
連日多くの人が訪れ、遥か昔より続くスークはその賑わいが絶えることはない。
日用品や食品、衣類などの生活用品は今も昔も変わらず溢れているが、銀や銅の金属細工にピラミッドやスフィンクスの置物、ガラス細工等の観光客向けの品々はスークからそのほとんどが姿を消した。
代わりとして市場販売されたのが、薬草や見たこともないような植物、様々なアイテムに剣や銃といった武器、子どもから大人サイズまである防具だ。禍々しい色をした刀身を持つ物や武器なのかアイテムなのかも分からないような物まで売られている。
スークへと到着した煌は、探索の時に使える物を探していた。
日保ちのする食糧はもちろんのこと、替えの服や防具を手に入れたかった。が、国からの報奨金をまだ貰えていないので、手持ちは少なく見ているだけであるのだが。
見ればそこに水晶の様な碧色や藍色の玉、中には黄金色の一際大きな物が売られていた。
「あ、これは……」
一つ手に取り、まじまじと見る煌。
「魔核を見たのは初めてかしら?」
白装束に身を包み、ストレージにある物と似ている色違いのソレに目を奪われていると、横から黒装束で全身を隠した女が声を掛けてきた。
「あ、はい。これって何ですかね?」
「これわね、魔核と言って━━って、その声はコウ?」
「はい?そうですが……どこかでお会いしましたか?すいません」
「嫌ね、私よ、私」
と、右手で顔にかかっている布をずらした。
「えっと…、サ…ルマさん…?」
「そうそう。そのサルマさんよ。煌はここで魔核探し?」
「すぐに気付かなくてすいません……。 いえ、ちょっと買い出しに来ただけなんです。サルマさんもスークへは買い出しか何かで?」
「私は暇だったからぷらぷらしてただけなのよ。 魔核のことは知ってるの?」
「えと、色違いのをたまたま持ってるんですけど、名前以外のことはよく分からないんです……」
「これは魔物の核。それで魔核ね。コウ、ちょっとここで立ち話もなんだから、場所を移さない? 一杯奢るわ」
サルマは手でクイッとグラス持ち上げる仕草をする。
「いいんですか? 汗かいて、実は喉がカラカラに乾いてたんですよ」
お金に余裕のない煌には断る理由がなかった。
「飲むだけじゃなくて、食べてもいいですか?」
「え、ええ…いいわよ」
サルマは苦笑い。お金には余裕があり、一人に奢るくらいは全然構わないのだが、遠慮のない煌に少しだじろいだのだった。
┼┼┼
「なんか落ち着く場所ですね」
「そうなのよね。私はここが一番好きなお店でね、よく来るわ。 ランチ定番のコシャリはこのお店が一番ね! あー、そんなこと言ってたら何かお腹空いてきたから私も食べようかな。コウもコシャリでいい?」
と言いつつも、すでに手を挙げ店員にコシャリを2つ注文しているサルマである。ドリンクもサルマが既にオーダーしていた。
「…あ、はい、それでお願いします」
煌はコシャリがどんなものかも知らないが、奢ってもらう以上は文句はなかった。
「じゃあさっきの話の続きだけど、魔核ね。これは魔物を倒すと手には入るわ。基本的に倒せばストレージへと自動的に収納されるんだけど、1体につき1つしかないからパーティーで討伐を行っても一人しか貰えないわね」
「取得の判定はどれなんですかね?」
「それはトドメを刺した人ね。いくらダメージを与えようと最期を持ってかれたらその人が取得することになるの。だから、モンスターが死にそうになったところで、かっさらってく奴もいるから気を付けたほうがいいわ」
経験があるのか、サルマは忌々しいといった顔をする。
ドリンクを一口飲み、喉を鳴らす。
それを見た煌は、もしモンスター狩りに行くときは人のを横取りしないように気をつけようと誓った。
すると、店員がコシャリを手に持ちやってくる。
湯気が立ち上ぼり、いい匂いが空腹を助長する。
「おいしそう!」
と、煌。お腹が空きすぎてすぐに手をつけたかったが、奢ってもらっている立場だからと、踏みとどまる。
それを見たサルマは微笑ましく見ている。
「どうぞ、食べてちょうだい」
サルマに勧められるが、スプーンもフォークも見つからない。
こうして食べるのよ、と右手で器用に食べるサルマだが、いかんせん熱い。フーフーと冷まそうとすれば、それは嫌がられるから止めなさいと言われる始末である。
空腹であったが仕方がないので、煌は少し冷めるまで話しながら待つことにした。
「して、活用法はあるんですか?」
「あるわ。あれはね、武器や防具にハメ込んだり合成したりするの。 すると、その魔核の種類や大きさによるんだけど、何かしら能力が付くわ。属性や耐性がついたり、攻撃力や防御力が上がったりするのよ。より純度の高い物や大きい物っていうのは効果が高いわね。純度は倒したモンスターが強い程に、大きさはモンスターのサイズに寄るからね」
「へぇ~! ハメ込むのと合成の違いはなんです?」
少し冷めたコシャリを口に運びながら聞く煌。そのおいしさにクワっと目を見開く。
「うんとね、ハメ込むよりも合成のほうが、より効果が高く得られるわ。ただ、ハメ込みなら取り外して替えられるけど、合成するともう取り替えができないから気を付けなきゃね」
「それなら、ハメ込んでみて、効果を確めてから合成すれば良さそうですね」
「そうね、みんなそうしてるわ。 ただ、中には後からいい武器や防具、もしくは純度が高い魔核をゲットして、あぁ…合成するのをもう少し我慢しとけばって悔やむ人もいるけどね。一つの装備に対し、一つしか取り付けることができないからね。二個以上付けたら効果がなくなっちゃうのよ。あとは、そうねぇー…あぁ、装飾品にもなってるからそれでステータスの底上げもできるわ。小さな魔核でしか作られていないから微々たるものだけどね。いっぱい身に付けたらそこそこよ」
サルマは両手の指10本全てにはめている指輪を見せながらニコッと笑った。
「すごい」
「フフフッ、まぁこんなところだけど、他に何か質問はあるかしら?」
「えと、サルマさん達は明日はいつ出発ですか?」
ピクリと眉を動かすサルマ。顔は笑っていない。
「明日は、軍隊が正午に出発するからその後ね。━━でもどうして? コウは行かないのでしょう?」
「やっぱり行こうかなと。 ただこっそり一人でと思ったんで時間だけはずらして……あはは」
今言ったらこっそりではないんですけどと続け、後頭部に手を当てながら
「……そう。 軍隊か私達が終わらせるからそこまで危険じゃなくなってるとは思うけど、気を付けてね。 まぁ、コウは強いから心配いらないか」
「ありがとうございます」
と、煌はお礼をいいながらコシャリを平らげる。
「食べ終わったことだし、お開きにしようか!また今度お話ししましょう」
「はい。本当にありがとうございました」
煌は立ち上がり、頭下げた。何度も何度も頭を下げお店を後にした。
その背中が消えるまでサルマは見つめ続けた。
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