第14話 探索前日
「アイツらも飛ばされたよな……無事でいてくれよ…」
煌はハキムの家へと戻りアリの話を整理していた。
世界にダンジョンが出現したこと。
それも、日本に多くが集中していること。
ダンジョンには転移装置があり、踏みいれば恐らくほかのダンジョン、もしくはその付近に飛ばされる可能性があること。
それなら、ダンジョンが集中している日本にいる可能性が高いのかもしれないと。
煌もそうだが、何の情報も無しにあの回復場が転移する罠、いや、そもそも罠ではないのかもしれないが、それを疑い、避けることは難しいだろう。
しかし、本当に転移しているのか、それを確める手段はなく、そこへ行く足もない。メールもGPSも反応しなくなっている。考えても答えは出ない。お手上げである。
(……いや、無いわけではない。何度も何度も飛べばいい。他のダンジョン付近に飛ぶなら、またそこから飛べばいいのか━━行くしかないか)
まずは身辺整理をと、とりあえず後回しにしていたスキルだ。
スキルツリーを確認すると、2つ取得できる。
迷わず取得。
すると、ポーンっと機械音と共にホログラムの液晶画面が立ち上がる。
《スキル取得数が上限に達しました。転職が可能です》
とメッセージが流れる。
画面をタッチすると、
《現在の転職可能な職業は以下となります》
《
・
・
・
・
・
・
・
・
・
と、いくつもの職業が並ぶ。
武道家はスキル取得数が最低限の5つしか取れない上に、スキル自体強力という訳でもない。
武器を使用するスキルも遠距離攻撃スキルもない。
そして、この数ある基本職の中で武道家と組み合わせて上級職が派生するのは2つしかない。
全ての組み合わせが試されているわけではないが、多くのプレイヤーが挑戦した中でのこの結果であった。
これらが原因で武道家というジョブは不遇職と言われているのである。
「やっとこ転職かー。さて、どうするかな…えーっと、上級職に上がるには…
思い出すように見上げていると、ふと写真が飾ってあるのに気がついた。
よく見ればハキムである。少し前なのか、煌の知るハキムよりも若く、家族であろうか、ハキムの他に男性一人に女性が二人写っている。女性の一人はハキムと同世代のように見えた。
皆、幸せそうな表情を浮かべている。
煌はその写真を見て、幸せそうだなと思うと同時に独り身に見える今のハキムを不憫に思った。
そして結局、上級職が思い出せない煌は、後でゆっくり決めることにした。
「…あとは全てのアイテムが引き継げたのか確認と整理だな」
ストレージをのぞいた。煌は、ゲームを熱中していたわけではないため、そこまで所持しているアイテムは多くない。
が、それでも覚えているよりもスカスカであった。
期限付きだったアイテム類がごっそりと無くなっていたのだ。
必要はないが、カモフラージュの為にと持っていた薬草も消滅していた。
果たして、この世界に変わってどこまでの物が入手できるのだろうかと、ふと煌は考える。
輝晶石を普通に使用していたが、それらはもちろんリアル世界には存在していない。
もしかしたら、売れることができるなら手軽にお金が手に入るかとも考えた。しかし、殆んどのプレイヤーが標準装備品として所持しているものだった為、価値として微妙なところであった。生産できないとして、この先この世界が続くならば稀少価値が付く可能性も無くはないがそれは今考えても仕方のないことである。
目を通していた煌は見覚えのないアイテムがストレージに入っていることに気がつく。
「魔核?」
入手した記憶も名前も知らないアイテムであった。
パネルを操作し、魔核を取り出す煌。
テーブルには球体の水晶のようなものが3つ現れた。
紅いこぶし大の玉一つに銀色のゴルフボール大の玉が二つ。
「透き通って綺麗だなぁー。魔核か…考えられるのはイーターとファングを倒した時か? 勝手にストレージに収納されたんだな。でも使い道がわからん…誰かに聞けばいいか」
ガラスの様な綺麗なそれはすぐにでも壊れそうなほど繊細に見える。煌は丁寧にそっとストレージへとしまった。
「……めぼしい物は…ないなぁ。薬草とか生えてるなら取りに行きたいけど、砂漠だしな━………よし、買い物行こう」
家に居てもやることもなく、食べるものもない煌は例によって街へと出掛けることにした。
外はまだまだ明るく、肌を暑い熱射が焼き尽くす。
身を守る為とヴリュード狩に絡まれない為に白装束へと変身しての外出となった。
┼┼┼
宿舎二階の一室。
四方には防音の効果を持つアイテムが置かれ、音漏れ防止の結界が張られている。
男は二人。
「んぐっ、おい、ちゃんと話はしたのか?」
脂ぎった顔をよりぎとぎとさせ、これ以上は無理とボタンが悲鳴をあげる程に腹がでっぷりとしている男。
鶏の骨付き肉にかぶりつき口をクチャクチャと鳴らしながら、もう一人の男に訊ねるのはアブタラ大佐である。
「はっ、全員の前でお話しを致しました」
「それで奴は行くのか?ん?」
「はい。
「クフフフ。そうかそうか。んで、何人で奴はいくんだ?アレは連れていくのか?」
「━━5名でございます。もちろん人数に含まれております」
男は後ろ手に手を組んで淡々と話をする。
「よしよし、手筈通りやるんだぞ。
アブタラはワインを飲みながら、2本目のモモ肉へと手を伸ばす。口の周りは鶏の脂でぎっとぎとである。
ドスっと重い音をたて、ベッドへ腰を下ろし話を続ける。
「しかし、デススコーピオンに殺されておけば良いものを。あれを用意するのも安くないんだぞ」
げふっと満腹ではあるが、満足していない顔をする。
「ですがアブタラ様、そのおかげで人数が絞られたかと思います。これでやりやすなりました。ありがとうございます」
「クフフフ。まぁよい。奴らの絶望した顔が目に浮かぶわ。クフ、クハハハ。しっかりとやるのじゃ」
「御意に。してアブタラ様、一つ気になることがございまして」
「なんだ、申せ」
ゲラゲラと下品に笑うのをピタッと止め、目を細め眉間にシワを寄せるアブタラ。
「大したことではないのですが、白装束の回復師なる者の噂がございます」
「続けろ」
「はっ、何ともデススコーピオンの襲撃の際、民衆には死傷者が出るほどの大打撃を与えたらしいのですが、報告では死者が0となっております。その理由と申しますか、原因というのがその白装束の回復師の存在あってのことらしいのです。耳を疑いますが、何と全ての怪我人を治したと。そう報告を受けております」
「うーむ。にわかに信じられんな。それが本当ならそれは国がひっくり返る程の存在だ。それについては調査しろ!仲間になるならばするんじゃ。作戦にもし障害となるならば殺せ」
できればそいつを引き込みたいとアブタラは考えた。
この世界においてその力は何よりも価値があるだろう。
何かのアイテムなら奪えばいい。
「御意。直ちに調査いたします」
アブタラは顎で早く行けと促す。
男は頭を下げ、部屋を出ていった。
その背中を見つめ、ワイン片手にいつまでも下卑た笑みを浮かべていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます