第13話 軍隊

「ワッハッハッハ! まさかこんなに強いとは!」

 と、煌の背中をバンバンと叩くのはマハムードだ。

 「ちょ、ちょっと力が強いですって……」

 

 試合が終わり、現在は先遣隊の宿舎へと場所を移し席についている。煌、マハムード、サルマ、ダニヤ、ノーラと何故かサイードも同席していた。

 煌の顔には疲労が窺える。

 試合疲れではない。

 

 戦闘終了後すぐはそれはもう大変であったのだ。最初は自分達のリーダーが倒されたことに理解が追い付かず、沈黙していた先遣隊メンバーであったが、冷静になると、やれ「俺と戦え!!」だの、やれ「ぶっ殺す」だの、面子がどうのこうのと、まるでヤクザのような集団が出来上がっていた。

 

 それに対し、マハムードがキレたことにより事態は収拾したのだが、今度はその身体能力はなんだの、武道家のスキルツリーを見せろだのと大勢が押し寄せた。ちなみに試合終了と共にスキルの熟練度が上がり、ポーンっというお知らせ音が脳内に響いていたのだが確認できる状況ではなく、それは後回しにしとりあえず街へと向かったのだ。

 ぞろぞろと大勢を引き連れて宿舎へと戻ったわけだが━━

 

 この煌達の座るテーブルを先遣隊のメンバーがぐるり囲み立っていた。全く落ち着かない状況である。

 

 「で、色々と聞きたいことはあるのだが、とりあえずは先遣隊に入れよ。なっ?」

 マハムードを見つめていた視線達は煌へと向かう。

 

 「そうですね……、今はちょっと考えたいこと、それにやらなきゃいけないこともあるし…、すいません!!」

 

 煌は申し訳なさそうに頭を下げた。

 

 「しゃーないか。はいっちまうと国に縛られちまうしな!でも、必要な時は力を貸してくれ」

 

 「はい!それは勿論です。こらからもよろしくお願いします」

 

 煌はマハムードから差し出された手を握る。ぐっと握り返されたマハムードの握力は容赦なかった。

 

 (いってーし!)

 

 煌は内心そう思いつつも、頬をひきつらせ笑う。

 

 と、そこへザッザッザッと外から大勢の足音が近づいてきた。

 入口へ迷彩服を着た男が現れ、その後ろには同じ格好をした数名が直立不動で整列していた。

 

 「休め!」

 先頭の男が言うと、後ろの男達はバッと寸分の狂いもないタイミングで足を開き、腕を後ろに回す。

 

 命令した男は横を向くと、煌からは見えない誰かへと敬礼した。

 遅れてノシノシと歩いて入ってくる男。腹はでっぷりとベルトに乗り、汗だくで脂ぎった顔をしている。

 

 「アブタラ大佐かよ……」

  誰かが呟く。

 

 「これはこれは大佐殿。お早いお着きで」

 臆することもなくマハムードは言う。

 

 「何がお早いお着きじゃばかもんがっ!!

 貴様ら先遣隊は何をしている!」

 

 「と、おっしゃいますと?」

 

 「先遣隊としての仕事をこなしていないじゃないか!何をモタモタと。さっさとピラミッドに入らんかっ!」

 

 「そうは言われましても、予定では軍隊の皆さんの到着まではあと5日は余裕があったはずですが?」

 

 「口答えするなっ!ええぃ、もうええっ!貴様らは探索しなくてよいわ!」

 「というのは?」

 マハムードは無表情のまま質問する。

 

 「察しが悪いのぉ。もたついてる貴様らは黙ってみておれ。儂の精鋭部隊が明日突入する。

 それからな、聞けばデススコーピオンが街にいたとか?

 侵入を許したのは先遣隊の不手際だ。怪我人まで出たようだしの。後日、軍法会議かもしれんな。クフフフ」

 気持ち悪い笑い声を上げる大佐。

 先遣隊の数名は歯を食いしばりギリギリと音をたてる。

 

 「そういうことだから、儂はもう休むぞ。おい、二階にいるから何かあったら呼べ!あと、後で酒と飯。それに女もな。クフフフ」

 

 先頭の軍人がそれに反応する。

 

 「アブタラ大佐、食事の用意はさせて頂きます。が、女性に関してはそういったことをここでは……」

 「えぇぃ、うるさいっ!用意できんのならそこの受付嬢を連れてくぞっ!いいから誰か連れてこいっ!」

 怒鳴り散らしながらノシノシと階段を上がっていった。

 

 「マハムードさん、ほんとすいません」

 上をチラッと確認しながら軍人の男はトーンを落として話した。

 「お前は悪くないよ、アリ。しかし、何でこんなに早い到着なんだ?」

 マハムードはアリの肩にポンっと手を置いた。

 

 アリは少し悩む素振りを見せる。

 数秒置き、マハムードの質問に質問で返す。

 「マハムードさんはこの世界がどうなったかわかりますか?」

 

 「そりゃ、ゲームが現実になったんだろ?」

 

 「そうですね。では、クリアする条件は?そのゲームのことは知ってますか?」

 

 「一応ユーザーだけど…、クリアは無かったよな?世界にいるモンスターを退治することが醍醐味で、イベントなんかあると、その国はそれによる経済効果が凄かったよな」

 

 アゴヒゲを擦りながら答える。

 周りは静まり返り、二人の会話に耳をたてる。

 

 「そこまでが本来のゲームですね。そして、ここからがこの世界になって変わったことですが、世界中にいくつかのダンジョンが出現しました。ピラミッドもそうです。

 そして、このダンジョンを全てクリアすることで何かあると上層部は考えています。ここまでは割りと知られている話ではあるのでいいのですが、その先は内密にお願いします。国のトップしか知り得てない情報みたいです」

 

 マハムードは周りに内密にするよう目で伝える。


 「「実は報告が上がっているダンジョンのいくつかは既にクリアされています。

 そして、その内の数人はクリア報酬と言ってもいいのでしょうか?踏破すると共に更なる力を得たそうです。難易度の高いダンジョンではほぼ間違いないそうです。そして、それはレア職であることが多く、今のところ例外なく、修得したプレイヤーは殲滅級とか戦略級として扱われます。国が奪い合いに走り、戦争にまで発展しそうなほどの力です。

 そして、ここらで唯一発見されたダンジョンがギザのピラミッド迷宮であり、周辺国もこぞって探索しようという動きが見え始め、上層部は計画を急いだみたいです。

 今や、ダンジョンの発生した国はお祭り騒ぎみたいですよ。

 ━━ちなみにですが、ダンジョン内には必ず転移トラップがあるので踏まないようにしたほうがいいです。別のダンジョンか、その周辺に飛ばされるようです」

 

 一息で話し終え、ふぅーと息を吐く。

 ちらっともう一度2階に目をやり、「話は以上ですね」と終えた。

 

 煌は転移について考えていた。

 もしかしたらあの5人も別迷宮、もしくは迷宮近くへと飛ばされたのかもしれないと。

どうすべきか頭を整理する時間が欲しかった。

  

 「……そういうことか。更なる力ね。興味深いな」

 「はい。とりあえず私達は明日、迷宮へ挑みますがマハムードさん達はどうしますか?」

 「サルマ、ダニヤ、ノーラ、俺達もいくか?」

 と、3人は頷く。

 「あの!マハムードさん、俺もお願いします」

 と、お願いするのはサイードだ。

 

 「まぁ、いいだろう。コウはどうする?」

 やった!と嬉しがるサイード。

 

 「俺は…とりあえず明日はやめときます」

 「了解した。気が変わったら教えてくれ。

 では、アリ。俺らは大佐と会うのはまずいから遅れて入るとする」

 「わかりました。気をつけて下さい」

 

 とりあえずは解散となり、準備を整える一行であった。

 煌も一旦ハキムの家へと戻ることにした。

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