第12話 デュエル
「"白装束の回復師"なんてほんとにいるのかね?」
「いるいる。俺、見たし!というかね、あの広場にいて回復してもらったのよ。怖くて急いで逃げようとして、足挫いたんだけど、すぐ全然痛くなくなったのよ」
「ほんとかー?挫いた気がしたとかじゃなくて?」
「いやいや、ほんとに痛かったんたけど、光に包まれたらすっかりよ。でもさ、何か今思えば夢だったような気がしてきた。
相当な人数がいたじゃん?それが全員だぜ?しかも、体を貫かれたヤツも元気になったらしいけど、それなんて移植レベルの損傷が一瞬だもんな」
「まじかよ。神様かなんか?……そんなジョブないよな?新手のジョブなのか?」
「ないな━。そんなやつが本当にいるなら━━━━」
煌のことが街の至るところで噂されていた。
この男二人もそんな会話をしていると、そこへ一人の男が通りかかった。
会話が耳に入り立ち止まる。
「すみません。その話を詳しく聞かせてもらっても?」
━━━話を聞き終えた男は逸る気持ちを抑えて来た道を帰っていった。
┼┼┼
そこは気温50度弱。無風で照りつける太陽は体感温度を上げていく。
街から少し離れたここには短い草が生える、砂漠にあるオアシス。地面は固く、柔らかい砂地ではない。
「では、此れより先遣隊副隊長サイードとコウのデュエルを始める。取り仕切るは先遣隊のマハムードだ。
まずはルールからだ。二人とも知ってるとは思うが、一応説明しとく。
デュエルはヴリュードを起動し、ホログラムによるドーム型半円状仮想空間をここに造り、その中での戦闘となる。
周囲の現実環境を認識し、それを仮想空間に作用させている。戦闘を行うのは仮想体だ。だから本当に傷を負うことはないから手加減は無用。
勝利条件相手を戦闘不能にすることのみとする。いいな?」
サイードと煌は頷く。
「では、デュエルを承諾し、ドーム起動後お互いにドームの外へ。仮想体の準備でき次第カウント20秒後に試合開始だ。
あ、一ついい忘れたがコウが勝利してもランキングに変動はないからな」
すまん、と続けながらもマハムードの顔には謝罪の色は全くない。
煌は先遣隊に入るとも決めた訳ではないし、勝利してもランキングが上がらない。勝っても良いことが何もないわけで、モチベーションは下がる一方だった。
煌はランキングには特に興味があるわけではない。あるわけではないが、勝手に話が進み、それで負けてランキングが下がるというのも腑に落ちない。
仕方ないからやるからには真剣に!と、煌は無理矢理にモチベーションを上げたのだった。
煌のヴリュードから液晶画面が目の前に起動し、《デュエルを受け付けますか? はい いいえ》の文字が表示された。もちろんサイードからの申し込みだ。
煌は《はい》を選択。
すると、二人を囲うように光のドームが形成される。
二人は背を向け反対方向に外へ出る。
本体が仮想空間から出ると同時に、ドームの中心に煌とサイードの仮想体が出現した。頭上にはカウント20が表示されている。お互いの距離は数メートルといったところだ。
二人の意識が仮想体へと移った瞬間、カウントが開始。電子音と共に数字が減少していく。
煌は0という数字を視界の端に捉えた。
その瞬間体が動き出す。
サイードの身体が煌の懐へと潜り込む。
「━━ッ」
「はぁっ!」
居合い切り。頭を狙った横一線。バク転をする事で躱した煌が、そのまま右手に握る細身の剣を蹴り上げる。剣は宙に跳ねるが、それをサイードは身体強化魔法を足に纏い跳躍。その発動の速さに感心しつつも、煌も追いかける様に跳躍。何も発動していない
「━━なっ!!」
先に跳んだサイードに追い付く煌。サイードは空中で掴んだ剣を振り下ろす。が、刀身を手の甲で弾き体を捻り回し蹴り。
側頭部へと鈍い音をたて、サイードを吹き飛ばす。
地面に足が着くと同時に疾駆する。ヨロヨロと起き上がるサイードの懐へ入ると魔闘気を右腕に集め、放つ。
「正拳突きっ!」
「ぐほぉっ」
と、サイードは体をくの字に曲げ、光の粒子となり霧散した。
「そこまで!」
マハムードの声が響き渡る。
けたたましいファンファーレと共に煌の頭上には《WIN》の文字がくるくると回転している。
数秒後、ドーム頂点から波紋が広がるように消え、仮想体も消えると元の静寂がおとずれた。
「うぉーー」「副隊長に勝ったー」「すげーーぞ!にっぽんじーん」だのと、静寂を壊す大歓声が揚がる。
いつの間にか大観衆がそこに集まっていた。
「では、これで文句はないな?サイード君」
「くっ、わかりましたよ!何なんだよお前、強化魔法無しに意味わかんねぇ」
と、額に汗を滲ませ苦虫を噛み潰した様な顔をする。
「えっと、あー、じゃあ次は俺とやるか!まだまだ大丈夫だろ?時間的にも体力的にも」
そう言いつつ、マハムードは既にヴリュードを操作している。
「えっ……、連戦ですか?」
「また隊長の悪い癖だ」と、溜め息を吐き出すノーラ。
ノーラはマハムードと煌の間に入り、マハムードを止めるよう説得しようする。
サルマは離れた場所でニコニコとし、隣のダニヤはフードを目深に被りその表情は分からない。
目の前に立ち背中を向けているノーラの肩に手を置き、「大丈夫ですよ、やりますよ」と言い、マハムードからのデュエルを承諾した。
「そうこなくちゃ」と、戦闘狂のマハムードは満面の笑顔だ。
━━━準備が整い、20秒カウントが開始される。
そのまま0秒になるが二人共動かない。
「来ないのか? こないなら俺からいくぞ━━
通常、ファイアーボールは一つを飛ばすものである。が、マハムードは20個の火炎の弾を発現した。
「━━━おいおい」
そう言いつつも煌の表情には焦り一つない。
(…20%かな)
煌は力を解放する。といっても、普段抑えているただの身体能力である。
迫る炎の爆撃。右に左に動き、跳躍し全てを避ける。難なく対処する。
マハムードは驚嘆し、立て続けに火炎弾を放つ。追加に20個。
炎と砂煙に視界は悪くなる。ドーム内が火の海で溢れ返り、逃げ場はない。やったか?と見物客全員が思った瞬間、飛び出す影。
傷一つない。目に捉えるのが難しい速さでマハムードの背後へ回ると、回し蹴り。辛うじて抜いた剣の腹で受けるマハムードだが、ただの蹴りとは思えない重さと衝撃が伝わる。さらに、その遠心力を利用し、後ろ回し蹴り。
耐えきれず、剣を吹き飛ばす。
手が痺れ、このままではまずいと十八番を発動。
「━━━火炎剣」
無詠唱ゆえに、威力はデススコーピオンの時よりは弱い。が、それでも一瞬で人を炭化する温度だ。触ることは致命傷に繋がる。即ち、武器を持たない煌は避けることでしか戦えない。
(もう少し解放するか)
トーントーンとその場で跳ねる煌。数回上下したかと思うと、地面につま先が着いた瞬間、ブンと体がブレる。
マハムードは目で追うことができない。
勘を頼りに剣を後ろへ振るう。が、そこにはいない。煌は避けるようにしゃがみ足払いをかける。足の骨が折れる威力の足払い。
倒れこみながら、剣を突き刺すように切っ先を下に向ける。煌は足払いをした足を地面に着き、背中を向けると、残る一本の足を腹に叩き込む。反動によってマハムードの体が仰向けのまま宙に浮く。マハムードは力を振り絞り剣を投げつける。
しかし、煌はすでにそこにはいなかった。マハムードが落ちるよりも速く跳び上がり、すでに背中へ
「くそっ」マハムードは敗北を悟る。
「
宙に浮いたままのマハムードの背中へと放った。
━━━そして、意識を失う暇もなく光の粒子となった。
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