第11話 勧誘
犯罪者を引き渡して数日が過ぎた。
ハキムはまだ帰らない。
煌はいまだ帰らないハキムが心配であったが、彼が普段何をしているのかをそもそも知らないし、もしかしたら仕事なのかもと思い、そのうちに気にすることをやめた。
毎日の食事は食べ歩きをしている。
そんな生活を続けて数日、煌はアジア人ということもあり、物珍しさと気さくな性格で気づけば顔見知りも増えていった。
「とりあえず何かしら働かないとやばいや……誰かに聞いてみるかな」
そろそろ懐が寂しくなってきた。
ハキムから貰ったお金はそこまで多くないし、後先考えずに飲み食いしていたため、底が見え始めていた。
この数日でこの国のお金の単位や物価を理解した煌は、目先の生活の為にお金をどうにか稼ごうと考えていた。
そんなこともあり、街へと金策に出掛けるついでにマハムード達との約束の宿舎へ立ち寄ることにした。
┼┼┼
宿舎は街の入口付近にあり、一般客用の宿を先遣隊の宿舎として利用していた。
宿は1日2食。昼食は出ないにしても、基本的な代金は国が持つ為、先遣隊のメンバーは実質無料てあった。富裕層から構成されている先遣隊にとってはささいなことであるのだが。
お金がなく死活問題である煌にとっては羨ましい限りである。
宿舎に着いた煌は入口手前で建物を見上げた。
ドアはなく、壁の素材は砂であった。鋼鉄の様に固いそれは、砂からできているとは到底思えない強度がある。色は白。シミ一つない白亜の宿であった。
中を見れば、その白いキャンバスにはカラフルな壁画が描かれ、趣向を凝らした装飾が施されていた。
広間には丸テーブルがいくつも置かれ、囲んだイスほぼ全てに先遣隊のメンバーが座っている。
入口左手にはカウンターがあり、中には受付嬢らしき人が座り、煌へ微笑んでいる。
「本日は、どういったご用でございますか?」
「すいません。先日、犯罪者を先遣隊の方へ引き渡した者なのですが…」
「あ、はい、お待ちしておりました。すぐにお呼びしますので、あちらの空いてるテーブルでお待ちください」
そう言うと、受付嬢は奥へと消えていった。
煌以外には部外者は居らず、また外国人とあって目立ち注目を集めていた。
しかし、煌はそんなこともお構い無しに施されている装飾へと目を通している。
(すごいなぁー。これは生産職のジョブなのかな? 相当な技術力だ)
あっちにこっちにとキョロキョロする。
「なかなかのもんだろう?」
と、後ろから唐突に声をかけたきたマハムード。
「おわっ!」
集中していて、マハムードが近づいているのことに全くきづかなった煌は喉の奥から大声をだした。
「おう、驚かせてすまんな」
と、マハムードはニカッとか笑う。
後ろには3人の女性を連れている。
「い、いえ。大きな声出してすみません」
さっと立ち上がり、煌は頭を下げる。
「いやいや。では改めて紹介といこうか。俺は先遣隊隊長をしているマハムードだ。こっちの髪が長いのがサルマ。短いのがノーラで、背が一番低いのがダニヤだ」
「サルマよ、よろしく」
サルマは笑顔で前に出て握手をし、元の位置へと下がった。
「ノ、ノーラです。よろしくお願いします」
ノーラは若干緊張して面持ちで腰を45度に折った。
ダニヤは「よろしく」と、細い声量でぼそぼそと言った。
煌も3人にならい、頭を下げる。
「煌です。よろしくお願いします」
「コウか。中国の人かい?」
「いえ、日本です」
「日本人か。こんな所へ日本人とは珍しいな。 アジア系の人は何人かいるけど、日本人は初めてじゃないか?」
マハムードは席に座りつつ話しをする。
「とりあえずみんなも座れ。コウも座ってくれ」
全員が席に着くと同時に受付嬢がチャイを運んでくる。
温かいチャイに煌は、内心冷たいのが良かったと思いつつもありがたく頂くことにした。
あまい。とにかく甘くそれでいて香辛料がパンチを効かせている。甘すぎるくらいに甘いのだが、何故かそれがとても美味しいのだあった。
温かいのも、発汗作用から体がスーッとして気持ちがよかった。
「まず最初に、捕まえてくれたことに感謝する」
「あ、はい」
「で、謝礼金なんだが、後日国から正式にいくらか貰えるからもう少し待ってくれ」
「そうなんですか?お金いただけるんですね」
エジプトについて疎い煌はそういった制度があることを知ってるわけもなく、手持ちの乏しい煌には棚からぼたもちであった。
「なんだ。知らずに引き渡したのか、まぁ、それはいいとして、コウはノーブルなのによく倒せたな。いや、その順位が実力からであるのならあり得るのか。俺の知る限りでは、ノーブルで上位ランカーは難しいはずだがな。……ちなみにジョブを聞いてもいいか?」
「え━━っと…ファイターです」
『えっ?』
女性3人が驚きの声をあげ、ほぉっとマハムードは声を漏らす。
「サルマさん、ファイターって確か不遇職ですよね?」
「そうね…。そのジョブに就いている人は一人もいないって聞いたことかあるけど…」
ひそひそ話をするサルマとノーラだが、だだ
「ノーブルのファイターでその順位とはね。 スキルがいいのか、俺の知らない何かあるのか……?もしくは元々の力か?」
マハムードはぼそぼそと自問する。
「ちなみにファイターってのは回復スキルないよな?」
「…はい、たぶん無いと思います。少なくとも今とっているスキルでは出てこないですね」
ふ~ん、とマハムードはアゴヒゲを擦りながら煌を見ている。
「コウは今はどうしてるんだ? 仕事は?」
聞かれた煌はハキムに説明したのと同じように説明した。
それを聞いたサルマは、
「じゃあ、今は何もしてなくて収入がないと。その上にお世話になっているそのハキムって人は行方不明なのね。ねぇキミ、先遣隊には興味ない?宿舎は無料で利用できるし、朝晩のごはんも出る上に毎月給金がでるわよ」
と、口角をあげる。
「ちょっとサルマさん」
ノーラは目を開いて驚く。
「と、いうのは?勧誘……ですか?」
「ああ、知っての通り先遣隊というのは外部者は構成メンバーには入れていないんだが、今回のデススコーピオンの件を受けてな、そうも言ってられないと判断した。
力不足を痛感したよ。ほんとは力を底あげしてからピラミッドへ挑みたいのだが、我等の役目は軍隊が到着する前にある程度の内部調査をすることにある。なので、時間がないんだ」
すると、後ろのテーブルからガタンとイスが引かれる音がする。
「マハムードさん! そんなやつ入れなくたって調査くらい俺たちだけで十分すよ! 話は聞こえてたけど、ファイターでノーブルなんて。大方ただの運が良かっただけとかじゃないんすか。ランクだけの男ですよ!」
短く髪を刈り込まれた男が声を荒げた。
20代くらいの男である。その声に反応した周りは静まり返り、マハムードへ注目する。
「大きな声をだすな。彼はサイード。この先遣隊の副隊長をしている男だ。サイード、運だけの男じゃなかったらどうするんだ?ほんとに今のままでピラミッド調査できるのか? もし、デススコーピオンみたいなやつがピラミッド内で現れても対処できるのか?何かあったら責任とれるか?」
「そ、それは…」
言葉に詰まるサイード。
「じゃ、じゃあそいつと戦わせてくださいよ!力があるのか試させてください!」
納得できないサイードは煌を指して言う。周りはいいぞ!だの、やれ!だのと煽る。
「そうだな━━━いいだろう。じゃあ、砂漠で模擬戦といこうか」
(え━━━━っ!俺、入るとも何も言ってないのに………)
こうして、煌の意志は無視して勝手に話は進んでいったのである。先遣隊に入るかどうかは別として。
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