第10話 ランキングシステム

《アカウントとランキングシステムとデュエル》

 アカウントは本名での自動登録となり、全プレイヤーは1キャラクターのみ作成となる。

 アカウントは通常退会、死亡退会時、削除。

ランキングはプレイヤーとしてアカウント取得した時点で付与される。

 ヴリュードシステムを通し、プレイヤーの頭上へ表示。

 ※常時表示されているわけではありません。

 プレイヤーがプレイヤーに対し、意識することで確認することができる。

 注)デュエルによるランキング交代時のみ、一時的に表示状態となります。

 ランキングはポイント制と交代制。

 《ポイント制》モンスター討伐でポイント取得。ポイント加算でランキング変動。

 《交代制》

 プレイヤー同士がデュエルすることにより、ランキングが変動。ただし、下位ランカーが上位ランカーに勝利した場合のみに限る(下剋上システム)

 注)交代制はお互い承諾の元デュエルシステムが発動。デュエル以外での決闘ではランキングに変動ありません。

 尚、プレイヤーがゲームを退会した場合などは、それ以下のプレイヤーが繰り上げとなる。

 本体機器(ヴリュード)からランキング検索可能。

 デュエル勝利条件は双方承諾の元、決定。

 ※降参、気絶、その他多様

 

━━wof 取り扱い説明書 

 《アカウントとランキングシステムとデュエル》より抜粋━━

 

 輝き燃える球体が最高高度に差し掛かり、地表一面をチリチリと焦がす。気温は50度近くまで上昇した昼過ぎ、煌は目を覚ました。

 

 「あっつっ」

 額と首もとを汗で濡らし、ガバッと起き上がり周りを見回す。

 

 「ハキムさんは帰ってないか」

 

 テーブルには読み終えた手紙が変わらずに置かれている。よく見ると、その横にはお金が置いてあった。

 煌はこの国のお金は一切持っていない。居ないハキムさんに感謝しつつ、小腹の空いた煌はお金を握りしめ街へと出掛けた。

 

 ┼┼┼

 

 あれからどうなったのか気になった煌は広場へと戻ってきた。

 建ち並んでいた露店はあんなことがあった後でもちらほらと営業していた。

 

 煌は一際、胃袋を刺激する良い匂いのする店へとフラフラ近づいていく。あと数メートルといった所で不意に肩を掴まれた。

 

 「おい、あんちゃん。その腕にはめているものを寄越しな。寄越さないなら、片腕のない不自由な生活を送ることになるぜ」

 

煌が振り向けばグヘグヘと下卑げびた笑いをしている2人を引き連れた酷く身なりの悪い男がいた。

 シャムシールという名の刃が湾曲した刀をてに持っている。

 見れば3人ともヴリュードを腕にはめ、日の光に反射してキラッと光っていた。

 煌は男の手を振り払い、距離をとる。

 

 「あの、もしかしてヴリュード狩りの方々ですか?」

 煌は静かに丁寧に尋ねた。と、自分が白装束を着ないまま外出してしまったことに気付き、ハキムに注意されていたのに忘れてしまったことを後悔した。

 

 「あ?知らねーよ。いいから早くよこせや。それは見つけた俺様の物だって言ってんだよ」

 男はまったく物怖じしない煌の態度にイラッとする。

 

「はぁ。これは俺のですし、片腕のない生活はしないですし。

 ……やりますか?デュエルしますか?」

 

 「あっ!兄貴、こいつ割りと上位ランカーっすよ」

 後ろにいるスキンヘッドの男が驚いた顔で言う。

 そして、それ以上に驚いたのは煌自身であった。

 ランキングは後ろから数えた方が早い程のランキングであったはずだが、シルバーファングや狂食族の討伐によりランキングが大幅に上昇していた。

 強敵であり、それだけに高ポイントであったのだが、煌は知らなかった。

(そうか……。ランキングは全然気にしてなかったなぁ) 

 

 「へっ、たしかにいい順位だけど、ノービスじゃねぇか。おこぼれとか、たまたま運がいいだけのルーキーだろ。要は雑魚だろ。ザ  コ!

それとなお前、デュエルじゃねーよ。最初は片腕で済ましてやろうと思ったけどな、その態度がイラつくからぶっ殺す!」

 

そう言うこのリーダーらしき男はセカンドである。


 「にい !やっちまえ!」

 後ろにいるもう一人の小肥こぶとりの男が吠える。

 

 煌はこの状況に嘆息しつつも、自分がこんな格好で来てしまったことが原因だからと納得するしかなかった。

 周囲を確認すれば何だ何だと野次馬が囲んでいた。

 露店だけが、興味なく通常営業を行っている。

 

 男はシャムシールを構える。構えは剣士のそれである。

 それに対して煌も身構える。

 

 「あっはっはっは。まさかお前、ファイターか?そんなジョブじゃ俺様に勝てねぇよ。今ならまだそれ寄越せば許してやるよ」

 後ろの子分2人も腹を抱えて笑っている。

 

 武道家は不人気職である。派生職が少なく、武器を使うスキルも取得できない。故に、武道家に就いているのは、実は煌一人であった。

  

 煌は全身に魔闘気を行き渡らせた。戦闘準備をすることで男への返事とした。魔闘気は魔力を闘気へと変換させたものだ。基本、職業ジョブに就いた者は魔力を帯びる。魔法を使用しない格闘職はこの魔力を闘気へと変化させ戦うのである。

 

 「ッチ、死ね」

 

 男はシャムシールを振りかぶる。目に止まらないほどの早さである。

 しかし、煌は刃を手の甲でいなす。

  男は舌打ちをし、さらに横に縦にと剣をヒュッヒュッと振るう。

 煌はその全てを紙一重に避けていく。

 

 「半月切りムーンスラッシュ

 当たらないことにしびれをを切らし、リーダーは渾身のスキルを放つ。

 黄色い光の斬撃が頭から真っ二つにしようと襲いかかる。

 が、煌は真横に飛び掠りもしない。

 男は息を切らし、煌から一旦下がり距離をとる。

 

 武道家はジョブの恩恵として反射神経と動体視力が発達する。

 煌は元々の能力に加え、現在の身体能力は達人の域であった。

 

 「おい、お前らも手伝え!」

 『へ、へい』

 は2人は同時に返事をする。

 

 スキンヘッドの男は弓を構え、小肥りの男は詠唱を始めた。

 矢を連続して放つ。

 そのタイミングで、煌は前屈みになりリーダーへと走り出す。

 いなくなった煌の場所へカッカッカッと3本の矢が遅れて刺さる。

 

 迫る煌へリーダーは焦る。

 「くそ!」

 

 詠唱を完成させた小肥りの男が、勝利を確信したとばかりに満面の笑みで魔法を煌へと投げる。

 「火炎玉ファイアーボール

 

 煌はスピードを落とさない。

 迫る火の玉。

 煌は拳をグッと握り魔闘気を集める。

 

魔法へとタイミングを合わせ、

「はぁぁぁ、正拳突きーーー!」

 来たをなぐりかえした。

 

 「うああぁぁぁー」

 叫んだのはリーダー。2人はすぐ近くで固まっている。

 予想外の反撃と距離がそう遠くもないことに3人は避けることができない。

 

 爆発音が響き渡り、炎が地面を舐めた。

 煌はその場から動かない。

 

 しばらくして、熱と煙が収まれば、倒れ伏している3人がいた。

 「ううぅぅぅ…」 

 「ぐあぁぁぁ」

 「うぐぐぐぅ」

 それぞれが呻き声をあげながらぴくぴくと伸びている。

 

 周囲から「いいぞ!兄ちゃん!」という声が聞こえたと思えば、たくさんの拍手が挙がっていた。

 

 煌はなんとも言えない表情だ。

 「何か寝て起きて、すぐ疲れたわ……」

 

この3人は悪名高い犯罪者だが、実力もあり誰も何にも言えていなかった。そして、ヴリュード狩りという犯罪者の氷山の一角であり、注意した者は同業者から狙われる可能性もあり、目を瞑るしかなかったのだ。ヴリュード狩りは堂々と犯罪を行う。そして、先遣隊や軍隊からは上手く隠れ続けていた。


 聞けば、犯罪者は国が懲罰を与えるとのことで、煌は3人を先遣隊を通し、国へと引き渡すことにした。

 

 近くには先遣隊のメンバーはいないようで、野次馬の中で以前この3人に苦い思い出があり、しきりに煌へと感謝していた男が、自分が先遣隊を呼んで来ると息巻いていたのでお願いし、露店で小腹を満たしつつ待つことにした。

 

 ┼┼┼

 

 しばらくすると、さっきの男が戻り先遣隊のメンバー3名が近寄ってきた。

 

 「おーい!お待たせしました。先遣隊の方3名です。では、私はこれで」

 「何かすいません。ありがとうございます」

 「いえいえ、お役人立ててよかったです。では!」

 男はスキップする勢いで離れていった。

 

 「君が犯罪者3名を倒してくれたのかね?」

 「あ、はい」

 「そうか。ご協力感謝する。……ん?あれ?」

 「どうしました?マハムードさん」

 と、ショートカットのノーラは言う。

 それに対し、首をかしげる煌。

 

 「君は…、決起集会のときに集まりに参加していたよな?俺が声かけた白装束の人かな?顔は見えなかったけど、ランキングが同じくらいだし」

 

煌はあっ、という顔をした。

 

 「やっぱりそうか。その時と少し順位が変動しているが、間違いないな。ちなみに君は回復をする白装束の人ではない?」

 

 「ち、ちがいます」

 決起集会で戦闘が始まる前にマハムードが煌へと声をかけたのはランキングが高かったからであった。マハムードは先遣隊へ勧誘するにあたり、ランキングを常に見れるように発動させ、有望そうな人に声をかけていた。

 

「あの白装束の人ではないか。どちらにしてもそのランキングはすごいな。521位か。しかもノービスでか。職業は?先遣隊に入らないか?」

 マハムードは早口で捲し立てる。

 「………」

 ただ、犯罪者を渡すだけだと思っていた煌は呆気にとられていた。

 「ちょっと、マハムード!彼困ってるじゃない。

 ごめんなさいね。彼は上位ランカーとか見るとすぐ興奮しちゃうから。とりあえず、今は犯罪者の捕縛だけで帰るわよ」

 と、サルマ。

  

「そうですね。でも、そのランキングはすごいです。マハムードさんが興奮するのも分かります。私たち先遣隊の誰よりも上位ですしね」

 手を組み、目をキラキラとさせるノーラ。

 

 マハムードはまだ聞きたそうであったが、

 「そうだな。とりあえず今日はいいが、明日にでも先遣隊宿舎の方に来てくれないか?」

 「……はい、わかりました」

 

この煌の返事を皮切りに一時解散となった。

  

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