エジプト編

第5話 砂漠

《職業とスキルについて》

 全てのプレイヤーは数ある職業から一つを選びゲームスタートとなる。

 一つの職業につき、取得できるスキル数は5~10。

 職業の熟練度を上げることでスキルを取得する。

 全てのスキルを取得すると転職可能となる。

 スキルは取得時にその名称と使用効果が脳内へとインプットされる。

 最初に取得するスキルにより系統が決まる。

例)フレイムボール取得(魔術師)➡炎系統の魔術師スキルツリー


 職業に就いている数に応じて呼び名が変わる。

 一つなら "ノービス"

 二つなら "セカンド"

 三つなら "サード"

 四つなら "フォース"

 

 職業は基本ビギナー職、上級シニア職、希少レア職がある。

 基本職は初期で選択できる職業。数多の中から基本職業の組み合わせ次第で上級職が出現する。

 例)剣士(基本)+魔術師(基本)➡魔法剣士(上級)

 

 希少レア職は世界で1人しか就けない職業。

 転職条件は特定アイテム、特定武器の取得等、様々な特殊条件下により出現する。

 

 (注)基本職+希少職からは上級職は発生致しません。

 

 ━━wof 取り扱い説明書 《職業とスキル》より抜粋━━

 

 

 ┼┼┼


茫漠ぼうばくたる砂の山々。

 サラサラと風に吹かれた砂の粒が流れて走る。

 燦々さんさんと降り注ぐは高熱の光。さえぎる障害物は一つもなく、チリチリと肌を焼く。

 

 ━━煌は砂漠へと転移した。

 

 「……何なんだよ……。…どこだよここ」

 

きめ細やかな砂地へと両足を立たせ茫然自失している。両の足先を少し砂に埋もれさせ、靴越しにも熱を感じていた。

 暑い陽射しに顔をしかめながら周りに視線を送る。

 これでもかと乾いた風が吹き植物一本生えていない。

 よく目を凝らせば広大な砂漠の向こうにぼんやりと建物のような建造物が見える。

 

 真っ先に思い浮かんだのは鳥取砂丘だ。

 

 「無人島から鳥取砂丘へ転移? いや、転送させられたのか……? 回復は…罠…か、くそ…まじかよ。はぁー、ここから東京までか。 遠いーなー……みんなに会うことも出来なかったしな」

 

 どの方向に東京が在るのかさえ見当も付かないが、煌は彼方の地を見つめる。

 

 汗が額から顎を抜けて地面へと落ちる。首から背中から大量の汗が伝い服を濡らす。

 

 ━━染みた地面も湿った服も瞬く間に乾いた。


 「やけに暑いなぁ、鳥取ってこんな暑いのかー。 このまま此処にいたら干からびるな」

 

 煌は喉の渇きを感じつつ、唯一見える建物目指して歩き始めた。 

 

 ┼┼┼

 

 「ピ、ピラミッド?」

 

 たどり着いたそこにあるのは、巨大な石巌で組み立てられた四角錐の建造物。あまりの大きさに圧倒される。

 風が吹けばパラパラと小石が落ちてきた。

 白い砂の海にそびえ立つその神秘たる建造物は圧巻の一言である。

 

 「そこの者、そこで何をしておるのか」

 

 煌がピラミッドの陰で涼みながらボーっと見上げている背後から、老人が声をかけた。

 

 煌は、熱中症なのか脱水症状になりかけているのか、体調が優れないこともあるが、人の気配に気づかなかったことに少し焦る。

 (モンスターだったら危なかったな…あのじいさん、見た目からして日本人じゃないよな…)

 

 「すいません、ここは鳥取砂丘でしょうか……?」

 煌は日本語で言葉をかける。

 

 ヴリュードには自動言語翻訳機能がついている。相手が装備していまいと片側が装備しているならば、話す言葉と相手から聞く言葉を変換してくれるのである。

 

 「ここはエジプト。首都カイロからナイル川を挟んだ所にあるギザじゃ。 で、何をしておる」

 

老人は白いターバンを巻き、肌は黒光りし深く顔に刻まれたシワ。黒い肌に映える白装束を身に包み、片手に手綱を引きラクダを従えていた。

 

 「えっ! えーーーっっっ! ここは日本でしょ!?

 鳥取でしょ?!」

 

 煌は驚きのあまり敬語を使うことを忘れてしまった。

 

 「エジプトと言うとろうが。 そんな格好でそこでなにしとるんじゃ」

 

 「……まじですか…。 俺は…、…あの、俺は観光です」

 

 「うそつけ」

 

 ┼┼┼

 

 煌は老人に連れられ一路カイロへとやって来た。

 

━━エジプトの首都カイロ。

 アラブ世界で最大の人口を誇る都市。そしてアラブ文化の濃い中心都市でもある。人口は1000万人を越え、観光名所としてピラミッドが有名でありそれ目的で多くの人が訪れ、活気に満ち溢れている。

 そんなカイロの街の一画に家を構えるのが、老人ことハキムである。赤レンガ造りで所々が抜け落ちている。よくある一般家庭の家住まいだ。高級住宅街でのヴリュード普及率は9割であるのに対し、一般家庭では約半分であった。

 

  道中、ここまでの経緯を煌はハキムへ話していた。

 心から信用しているわけではなかったから、自分の情報だけは伏せての説明だ。

 

 ハキムの家に着く頃にはすっかり日は落ち、日本では見れないようなキラキラと輝く宝石が空に散りばめられていた。

 

 「ぷはぁーー! 人生で一番うまい水かもしれないわ」

 

煌は水をグイッと一気飲みし、コンッと空のコップをテーブルに置いたところで用意された椅子へ座り一息ついた。

 

 「うむ、日本でも空に出たとなると間違いないなく世界は同時に変わったようじゃなー」

 

 「え! エジプトでも同じようなことありました? モンスターでました? あと、日本人は他に見ませんでしたか!?」

 

 落ち着いたかに見えた煌が席を立ち、早口で捲し立てる。

 

 「まてまて、とりあえず座れ。 落ち着くのじゃ! 質問は一つずつゆっくりとな」

 

 「す、すいません」

 

 「まず、こちらでも先日空が急変し、それを機に見えざるモノが現れた。これがモンスターじゃな。 そして、襲われモンスターになってしまった者、亡くなってしまった者は多い」 

 

 「モンスターになってしまった? どういうことです?」

 

 「うむ。 モンスターに殺られた者はどういうわけか一度生き返る。 といっても、文字通り生き返るわけではなく死んだまま動き出すというのかのぉ。 …まあ、言うなればゾンビじゃな。 ゾンビになれば人を襲うモンスターとなり、そこで倒されて漸くようや消滅するというわけじゃな」

 

 ハキムは眉間にシワを寄せ、難しい顔をしている。

 

 「……そうですか…。 ゾンビに殺された者もまたゾンビになるのでしょうか?」

 

 煌に尋ねられたハキムは悲痛な面持ちで語る。

 

 「……知り合いがな、外で倒れていた人を助けようとして襲われてな。 倒れていたほうはゾンビだったわけなんじゃが、知り合いはそれでゾンビになってしまった……」

 

 「………心中お察しします」

 

 「それはええんじゃ。 もう一つ言うとな、ゾンビはモンスターと違う点がヴリュードが無くとも見えると言うことじゃが、一見普通に見えて襲いかかってくることもあるから気をつけてな」


 「わかりました! ありがとうございます」

 

 煌は頭を下げる。

 

 ハキムはパタパタと手を振った。

 「さて、次は日本人のことじゃが、日本人は観光客としてはいるがおぬしの様な者は初めて聞いたな。 転移じゃったか? それができるのかは分からんのじゃが、おぬしが入った洞窟ではないが、同じようなことが起きとる。 突如としてピラミッドが現れたのじゃ。 それがおぬしと会った場所のピラミッドでな。 興味本意で中に入った者が帰らんでのぉ。 転移したのか、モンスターにやられたのか……」

 

 煌はハキムの言葉を聞いて5人のことを思案し、すでに後半の話は頭に入ってはいなかった。

 

 (あいつらもあの洞窟でイーターとり合ったのは間違いないないと思うんだよな……。倒されたならゾンビになってたはずか? 全滅だとしても1人はゾンビで残ってるはず……いないなら、先に進んだ? 

 無傷ってことはないだろうから、回復するよなー。

 あそこの回復場所は絶対入るし……、となると、やっぱり転移だよな…。 同じ場所に転移したなら、一番近くのこの街にこないのはおかしいもんな…、うーん、転移先はエジプトではないのか…。

 順番で違う場所とかランダムとか…、………こればっかりは分からないな。

 それを知るにはやっぱりまた行くしかないか…、しかもあれか、あいつらが倒してたのに俺の時にまた出現してたってことは、何度でも出てくるのか?蘇るのか……。…それはちとめんどうだな)

 

 煌はすでに目を閉じて考え込んでいた。

 気づけばそのまま寝息をたて、テーブルに突っ伏して眠りについていた。

 

 「おや、……寝おったか。ご飯も食べずに疲れとったんじゃな」

 ハキムは寝息に気づくとそっと羽織るものを煌にかけ、灯りを消して部屋を後にした。

 

 


   

 

 

 

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