最後の願い

スウェルタ視点&ユレイト視点


スウェルタ「…………」


スウェルタは病の進行を感じながら1ヶ月もの間敵から逃げてきた………正直に言ってしまえばもうろくに戦えない状況ではあるが………スウェルタは決着をつけなければならない人がいるのを知っている


スウェルタ「………ユレイト………」


スウェルタ 本当は戦いたくはなかった………


塩対応をしてきたとは言えスウェルタはユレイトを親友だと思ってきた………ユレイトがいなければ自分は何回死んでいるのか………数えるのも億劫になるくらい助けられてきたのだ


スウェルタ 戦いたくないな………


スウェルタはユレイトと戦っても何も残らないことを知っていた………ユレイトはスウェルタを失いスウェルタはユレイトを悲しませるだけ………しかし回避のしようがないこの運命に抗うことは出来ない


スウェルタ せめてこの魔術だけは………


スウェルタは雅に教えて貰った魔術を使うために魔方陣を書いた………魔方陣を書くのに慣れていないスウェルタは書くのに苦戦を強いられたがなんとか書き、その魔術発動の最低条件をクリアすればその魔術は自然と発動される


スウェルタ「わざわざ待ってくれたんだな ユレイト」


そしてスウェルタは魔方陣を書いている最中から物陰に人がいるのを知っていた………その場で書き終えるのを静かに物陰で待っていたのは、誰でもないスウェルタの親友であるユレイトで………まだ戦闘態勢には入っていない


スウェルタ「なぁユレイト 教えてくれ」


背を向けて書いていた魔方陣が静かに消えたのを見てからすスウェルタはユレイトに向き直り、前に感じたある疑問を聞く


ユレイト「何をだ」


スウェルタ「あの日俺はあの女性を逃がすためにお前の命令した狙撃部隊に撃たれていた………だがあの女性には防御魔法がかけられて銃弾は当たらなかった………あの防御魔法はユレイトがかけたんじゃないのか?」


ユレイト「敵にそんな事するわけないだろ」


ユレイトはスウェルタの言葉を否定したがスウェルタは絶対にユレイトだと思っている


スウェルタ「………俺を殺すよう命令されてるんだろ?」


ユレイト「…………」


思ったことは敢えて口に出さずにユレイトにそう聞く………ユレイトは無言のまま何も答えない


スウェルタ 悲しそうな顔だな


ユレイトはあまり表情が表に現れない………ユレイトと付き合いが長い分分かるのだ………滅多に崩れないユレイトの表情が今とても悲しそうに歪んでいるのを………


スウェルタ「お前と出会った日が懐かしいな」


ユレイト「…………」


スウェルタ「最初はどちらも相手の大切な人を殺して殺された関係だったのが気がついたら親友……で気がついたらまた敵同士………」


ユレイトとスウェルタはそういう面でも付き合いが長かった………そして何よりもユレイトとスウェルタは決着をつけなければならないのだ………大切な人を殺された恨みを晴らすために………


スウェルタ「これは運命なんだろうな」


ユレイト「…………」


ユレイトは唇を噛み締めて何も答えない………


スウェルタ「…………」


ユレイト「!?」


スウェルタ「……自分の血以外ならお前興奮するからな」


スウェルタはユレイトに今日の朝に採血した血をユレイトの顔にかけた………ユレイトが血の匂いで興奮する体質故に………


ユレイト「なん………で………」


スウェルタ「どちらかが死ぬしかないからだ お前が死んでも俺が死んでも結果は同じ………悲しむ人がいる」


ユレイト「………!!」


スウェルタの言葉にユレイトは反論をしようとしたのだろうが、先に身体の方が血の匂いに反応してしまい武器を持とうとした腕を掴む


スウェルタ「抗えば辛いだけだぞ」


ユレイト「俺は………」


スウェルタ「来いよユレイト 最後の殺し合いだ」


スウェルタは本気ではない殺気を出す………するとユレイトの身体は冷静な頭と違って動き出した


スウェルタ「っ!………やっぱりお前の攻撃はいつでも重いな」


武器を取り出して攻撃をしてきたユレイトの攻撃は重い………それこそ久々に感じた重みだがその攻撃で刃が交わったからこそ感じた感情………


スウェルタ ごめんな………ユレイト………


愛しさと悲しみ………その2つが刃を交えた時に感じた………


スウェルタ 俺もお前も同じ道は歩けないことを知っていたのに………俺はお前の優しさに甘えて一緒に歩こうとした………その結果がこれだ………ユレイト………お前は俺が死んだら悲しむんだろうな………


ユレイトの人生を狂わせたのはスウェルタでスウェルタの人生を狂わせたのはユレイト………本来なら一緒に同じ道は歩めないのに歩もうとした結果………その先にあったのは片方の死………


スウェルタ 本当はあの日お前に手を伸ばす気はなかったんだ………だけど昔の俺と被せて手を伸ばした………それがいずれ片方の死に繋がることはわかってた………分かっていたけど助けてあげたかったんだ………いつか殺し合う結果になるとしても………


激しい戦闘の中でもスウェルタの頭は常に冷静だった………スウェルタは身体的にも精神的にもすでにユレイトに劣っている………しかし運命に逆らえない己に嫌気がさしながらも本当は誰よりも戦いたくなかった相手と戦う


スウェルタ「!!」


スウェルタが考え事をしている時にユレイトが大技をかけてきてなんとか回避したが多量出血


ユレイト「よく考えごとしてる暇あるな」


スウェルタ「そういうお前こそ何か考えてんじゃねぇの?」


スウェルタ 考え事をしているのは事実だがユレイトも何かを考えている………だから今の一撃が回避できた………じゃなきゃ2本来たナイフの1本を回避できずに、首にあたって動脈がが切れて即死だったからな………


しかしそのうちの1本は肩に当たり深く切ったために出血し刀を持っていた片腕は動かなくなった


スウェルタ「…………」


片腕の動かなくなったスウェルタを相手にユレイトは容赦のない攻撃をしてくるが、不意にその攻撃に迷いを感じその隙をついて片方しかない双剣で腕を切る………するとユレイトも武器を持っている方に怪我をしたので、片手で落ちた刀を拾わずに別の刀を出す


スウェルタ 自分の心に蓋をしたんだな………ユレイト………


スウェルタはユレイトが自分の心に蓋をして隠したのだと知った………ユレイト自身は気がついていないがユレイトは………泣いていた


ユレイト「それ 双剣だったはずだが」


スウェルタ「一々細けぇな」


ユレイト「…………」


スウェルタの言葉にユレイトは何も言わなかったが大技を使う時のポーズになり、危険を感じたスウェルタは一瞬後ずさりし攻撃を受ける


「パキィ……ン………」


スウェルタ ネックレスが………!!


スウェルタ「!!」


後ずさりをしたお陰で剣で攻撃をガードすることは出来たが、代わりに武器につけて隠していたレギスから受け取ったネックレスが反動で外れ、一瞬敵を見ていなかったのをユレイトが気が付き更に一撃攻撃を加え、スウェルタはその攻撃をもろに受けたために体の前を切られ出血


ユレイト「もう立ってるのもキツいだろ」


スウェルタ「お陰様で」


ユレイト「…………」


スウェルタ「…………」


ユレイトとスウェルタは最後の一撃を与えるために大技を繰り出そうとその姿勢を作った………


「キィィン………」


二人のすれ違い様一瞬で刃を交える………その勝敗は………


ユレイト「っ………」


ユレイトは脇腹を切られ………


スウェルタ「…………この勝負お前の勝ちだな ユレイト」


対するスウェルタは背中から大量の出血をし倒れこむ………勝敗はユレイトに上がったのだ


スウェルタ「………っ………」


スウェルタは倒れ込みもうほとんど体が動かないのに必死に体を動かして、落ちているネックレスを掴み剣を鞘に収める………


スウェルタ 願えることならもう一度レギスと会って………最後に「愛してる」と言いたかった………


スウェルタはなんとか横になって剣とネックレスを抱きしめてそう思う………その瞳に涙を流しながら………


スウェルタ もし………叶うのならもう1つ………次にこの世に生を受けるのならば………ユレイトと殺し合いのない関係で………また………「親友」と呼び合いたい………


最後にそんなことを思いながらスウェルタは目を閉じた………



ユレイト「…………」


スウェルタの死亡を確認したユレイトは静かにその場に崩れ落ちて涙を流していた………ユレイトにとってスウェルタは………とても大切な存在だった……なのにそんな人を自分で殺して………蓋をしていたはずの感情が顕になってもそれがどの分類なのか分からない


ユレイト「…………」


ユレイト この気持ちが友愛なのかそれとも本当の愛情だったのか………俺にはわからないよ………スウェルタ………


静かに涙を流しながらユレイトはスウェルタの持っていたものの多くを持ちその場を去る………スウェルタの私物は基本首領が管理することになるのだが、1つだけユレイトは首領には預けずに自分が持っていようと決めたものがあった………スウェルタが常に左胸の心臓付近に装備して一度も使わなかったサバイバルナイフだけは………ユレイトは首領に渡す気は無い


ユレイト これはスウェルタの恋人に渡す………俺はきっとその人に殺されるだろう………それでもこの武器だけは渡さなければならない………首領にではなく彼女に………


その武器はスウェルタが大事にいつも心臓のある左胸に装備していたサバイバルナイフ………スウェルタが一度も使わなかったということは誰かの形見である可能性があり………ものを大事にするスウェルタならではの癖だとユレイトは知っている


ユレイト 俺はきっと彼女に一生許されないだろうけど………これだけはわかって欲しい………本当は俺も戦いたくはなかったことを………例え理解されなくとも………スウェルタを手にかけたくなかったことだけは知っていてほしい………


組織に帰り首領に私物を渡したユレイトは風呂に入ってから腕と脇腹の治療をする………ベッドのサイドテーブルには一枚の写真が立てかけられていて………それはスウェルタとユレイトが一緒に幹部に昇格した時に撮った写真………


ユレイト いつから感じていたのかもわからないこの感情………蓋をして隠していたはずなのに溢れ出ていて………


写真を見てユレイトはまた涙を零した………1人しかいないその部屋にユレイトの泣き声が響く……


ユレイト 願えることならば………次に生まれた時はスウェルタを「敵」ではなくまた「親友」と呼べる関係になりたい………



カルス「…………」


カルスは仲の良かった情報屋にスウェルタの死を聞かされた………それこそ数日が経った後に……


ユレイト「行かない方がいいぞ」


カルスが歩いている途中に物陰から血の匂いを漂わせるユレイトの制止の声が聞こえ、血の匂いがする辺りスウェルタを殺したのがユレイトであると推測


カルス「止めてくださるんですか?」


ユレイト「スウェルタに対しても止めたよ まぁあいつが聞き入れなかったあたりお前もだろうけどな」


カルス「優しいですね」


ユレイトの声は覇気がなく弱々しい


カルス「貴方といった方がいいですか?」


ユレイト「敵に狙われてんのに白昼堂々歩いている辺り俺と行った方がいいとは思うが」


カルス「どこまで優しいんですか貴方は」


ユレイト「元々こういう性格なんだよ」


組織にいた頃からユレイトは部下や下の者達には優しかったが、カルスはここまで優しいとは知らなかった


カルス「命令されてないんですか?」


ユレイト「この服装でされてると思うか?」


ユレイトはそう言って物陰から出てくる………するとその服装は私服で血の匂いは身体から漂っているのだと知る


カルス「命令したり拘束して連れていくのが普通だと思いますが」


ユレイト「一々細けぇ 無傷で連れていった方が楽だし戦える程俺の身体は回復してない」


ユレイト 先の戦闘で負った傷にはご丁寧に回復を遅らせる毒が塗られていたから、毒の調合が得意なスウェルタの仕業だろうな………


ユレイト「来るなら来いよ」


ユレイトはカルスにそう言って歩き出したのでカルスはその後を追う


〜拠点〜


ユレイト「牢に入れとけ」


組織につき部下達にそう命令してユレイトは私服のまま首領の部屋へ


ユレイト「カルスを捕縛しました」


首領「無傷で?」


ユレイト「そっちの方が良いでしょう」


首領「カルスの管理を任せる」


ユレイト 首領………と言うよりは組織が全体的に戦意喪失しているな………


首領は勿論のこと下の者達(自分も含めて)には戦意が無くなっているので、もし仮に今の状況で敵に攻め込まれたら一発で墜ちるだろう


ユレイト「…………」


カルスの管理を任されたユレイトは無言のまま牢に入れられたカルスの元へ


部下「ユレイト様」


ユレイト「カルスの管理を任された お前達は一切手出しをするな………仕事にいけ」


部下「はい」


ユレイトの部下はユレイトの言葉には忠実に従うので本当にそのまま仕事へ行く


カルス「…………」


ユレイト「2週間に1回位は食事を運ぶようにするが俺も仕事がある ない時もあるからな」


カルス「本当にどこまで優しいんですか」


ユレイト「…………」


ユレイトは元々の性格が優しい故にカルスに指摘されて漸く気がつくくらいには自分のことに鈍い


ユレイト「やりたいことがあるからもう行くからな

用があれば呼べ」


カルスにそれだけ言ってユレイトは牢から出て行き自室の自分専用のパソコンルームへ


ユレイト「…………」


自分専用のパソコンルームには数台のパソコンがありそこである人に司令を出す


ユレイト「(組織の全ての情報をお前に託す ラミを通じて組織の情報をレミーアの「レギス」に渡すよう伝えてくれ………これは最後の司令だ………司令終了後は自由に生きてくれ)」


そう手紙を書いて組織の全情報をその手紙の中に収めて送る………自分も組織を裏切っているが最早ユレイトにはその意識がない


ユレイト 生きる理由を失くした俺にどう生きろというんだ………


ユレイトはスウェルタを殺したことによって生きる理由をなくしてしまっていた………




???「…………」


ユレイトからの随分と久しい司令を受けその情報はUSBに取り込む


ラミ「………よく俺の場所がわかったな シリウス」


ユレイトから司令を受けたのは1度死にユレイトの魔術によって蘇ったシリウス・アッシーマ………ギルーヴァの実の兄である


シリウス「何時も煙草を吸う時はここに来るからな

司令を受けた」


ラミ「ユレイトからか?珍しいな」


シリウス「これが最後の司令だけどな」


ラミ「………つまり死ぬ気なんだな」


ユレイトの「最後の司令」と言うのは「死にたい」と言う想いが込められていて………ラミもシリウスもその理由を知っているからこそ悲しい


ラミ「また1人俺達を知る人がいなくなるんだな これで何人目だ?」


シリウス「28人目」


ラミ「…………」


シリウス「…………」


シリウスは腕の服で隠れたタトゥーを服越しに触れる………ユレイトが自分の命を削って蘇らせた恩を………シリウスはまだ返せていないのだ


シリウス「ラミを通じて組織の情報をレミーアに渡してくれ………と」


そう言ってシリウスは情報を詰め込んだUSBをラミに渡す


ラミ「わかった 必ず渡しておく」


シリウス「頼む」


ラミ「………シリウス お前この後どうするんだ?」


「弟を探すのか」とラミは言う


シリウス「弟を探しつつ自由に生きるよ また会おうな 臣(じん)」


シリウスはそう言って能力を使って消えた………






1人はもう1度愛する人と親友に会えることを願い


1人は生きる理由を失って殺されることを願い


1人は自由を得てもう1度弟と会う事を願い


1人はもう自分たちを知る者が居なくならないことを静かに願う………

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る