第3話

 ロザリアの案内で行く京都の町は祭り近くで華やかだった。観光客も多く、外国人の姿も見える。その中でオソレンジャーたちは特に目立たず、ぽっくり下駄を鳴らしていた。

「わしは江戸までじゃったからのう、京に来るのはに二百年ぶりぐらいだのう」

「我は京の守りだった故、この前江戸に出たのが三百年ぶりだったかの」

「私はずーっと和歌山だったなあ、南は結構行くんだけど、西表島とか」

「イリオモテヤマネコのゾンビはおるか!?」

「ないない。車に轢かれて食べられてる」

「残念な顔しない、恐」

 はしゃぐ霊嬢達と自分達は何に見えるだろう。家族だとしたら嫌だな、思った矢先にロザリアが振り向く。はしゃいでいた四姉妹も足を止め、自分達を覗き込んで来る年上の少女を見上げた。

「良かったら、着物の着付け体験してみる? あなた達」

「良いの!?」

「経費で落とせばいい」

「悪い考え、嫌いじゃないっ!」

 す、と後ろに下がったオルガンに、朔哉は首を傾げる。

「お前はやらないのか。着付け体験」

「私はちょっとね」

 また曖昧に笑うオルガンに、和服の霊嬢達と朔哉は着物屋の前で待っていた。


 結局経費で買った着物に、四姉妹はきゃっきゃとはしゃいでいた。青・白・赤・黒、語源はそれぞれ「淡し」「著し」「明し」「暗し」で、彩度と明度の両極端を示すはずだ。意識して買ったのか、少し見分けがつきやすくなった四人を眺め朔哉はロザリアを見上げる。彼女の方が少しだけ背が高い。

「黒の色合いが少し違うんだな」

「私のは喪服ですから」

「染料が違う?」

「そんなところです」

「オソちゃん朔哉くんが浮気してるよ」

「浮気はいかんな。オルガンと言う正妻がおるに」

「? 正妻はオソちゃんでしょ」

「わしは誰の家族にもなれんよ」

 苦笑いするオソレンジャーがふっと視線をよぎらせた。同時に比叡と高野が髪を解こうとするが、ジュノーとロザリアがその小さな肩を押さえる。

「……居ったな」

「ああ、三人」

「でも殺気はなかった」

「何を――しに来た?」

 どうやらゾンビの気配があったらしいが、朔哉は気付かなかった。それほど微かな気配だとしたら、オルガンを連れてきたのは間違いだったのかもしれない。否勝手についてきたのだが。今度こそ彼女がゾンビになりでもしたら――

 したら?

 自分はどうするのだろう。朔哉は一瞬考え、詮がないと止めた。


「そっくりだった」

「あの子だ」

「これで終わる」

「十三年越しの悲願だ」

「あの子を」

「あの子をゾンビに」

「それで、『あの人』は幸せになれる」

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