第6話 勇樹

あなたは一体何処へ行ってしまったのだろうか、約束を交わしたあの場所から。

あなたは今何をしているのだろうか、指切りをしたあのときから。

俺は今何を探している、世界が真っ赤に染まったあの日から―。


巴「ずっと一緒にいようね。勇君。」


その一言は紅い空を舞う烏の声に掻き消された。


勇「巴琉ちゃん、今なんて・・・」


よく聞こえなくて振り返ったそこにはもう君の姿はなかったんだ。


勇「うわあぁぁぁん・・・巴琉ちゃぁん・・・!」


大きな声で鳴きながら俺は走って帰った。

家に着いた途端母は何があったと俺に聞いた。

その後、家には泣き潰した巴琉の母親と当時憧れだった青い制服を着たおじさんたちがいた。


―――10年後、俺はふと思い出したのだ。―――


あの時は悲しいなんて一つも思わなかった。

ただただ恐くて。あんな風に世界は一瞬にして消え去ってしまうものなのだと思い知らされた。

今でもこの日常が崩れて消えるのに俺は怯えているのだ。


母「勇ちゃん、今日母さん帰り遅くなるから。」


勇「分かった。適当になんか食べとく。」


母「そうしてちょうだい。それじゃあ。」


鍵をする音が一人には広すぎるこの部屋に鳴り渡った。

母の『遅くなる』は帰らないの合図だ。

17時。珍しく部活が無く早く家に着いた。


普段ならば置手紙だけの伝言を聞いたのは何時ぶりだろうか。

何故だかあの人のいたこの家にいたくなくて。

俺は久々に外を歩いた。


裏山というほど高いわけでもなく、平地と言うには差し支えのあるようなそんなとこに

橙に染まり始めた空にざわめく木々の間に。

あのときの場所はあったのだ。


吸い込まれるように入って行き、俺はあの場所で立ち止まる。

古びた櫓に背を向けて、君がいなくなったあの場所に。

君がいなくなった今日、もう一度振り返ればまた君に逢える気がしたんだ―。

 

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