第5話 巴琉
ねえ、どこいったの、私をひとり残して。
あなたは今何をしているの、あの時私の手を離して。
私は今何処にいるの、あなたの後姿を見て泣いたあの日から―。
勇「大きくなったら結婚しようね。」
巴「うん、勇くん約束ね。」
勇/巴「「ゆーびきーりげーんまん、うーそついたらはりせんぼんのーます。ゆびきった!」」
―6時になりました。よいこの皆さんはお家に帰りましょう―
夕焼け小焼けのメロディイと共に抑揚の無い声が町中に響いた。
勇「巴琉ちゃん、一緒に帰ろ。」
巴「うん、帰ろ。」
グッ!ズズッ・・・
巴「っ!やぁっ・・・!」
あの時私の足を引いたのは誰なのか。今でも私は分からない。
そのときの私はただただ泣いて遠ざかる勇くんの後ろ姿を滲む画面を通して見ていた。
巴「やだよぅ・・・いやぁっ。ふあぁっぁぁぁぁぁん・・・」
泣き疲れて少しづつ遠くなる意識の片隅で母の言葉を思い出した。
『いい?あそこの神社には恐ぁい鬼が住んでるの。悪い子のことを連れてっちゃうのよ。
だから、必ず時間に帰ってきなさい。じゃないともうお母さんに会えなくなるからね。』
巴「分かった!」
幼い私は母の言いつけを守った。必ず時間になったら境内を出て家に向かった。
でも、あの日だけは違った。帰ろうとしたら勇君に「巴琉ちゃん待って」と言われた。
ずっと一緒になんて。幼いながらにそんな事を思った。
いつの間にか真っ白な太陽は身を翻し真っ赤な姿を現していた。
人っこ一人通らない神社に6時を知らせる声が喚いた。
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