第7話「狂乱の偽姫」


 朝食は固くなり始めたパンと水だけだった。王子の野営地では煙が上がっているから、向こうは朝から何か暖かい物が出るのだろう。

「何だこれ? あ?」

 ルルッスが渡してくれた、パンなのかビスクなのかわからないものを口にして俺は戸惑った。歯触りは固いのに口の中では簡単に崩れるのだ。そして発酵したような独特の匂いと甘み、薄い塩味。

「おいルルッス。このパン、おかしくないか?」

 他のみんなも、ひと口食べて怪訝な顔をしている。

「えー? だってこれ、イッスリマでくれたんです。携行食だって言ってましたよ」

「軍用標準携行糧です」

 ヴェルイシアが言った。

「あ? これ、軍用食なのか?」

 そう聞いて、俺とヤーンスにはこの変なパンが実は全然変じゃないとわかった。一個一個が油紙で包まれていたのでおかしいと思ったのだが、やはり普通の食品ではないのだ。

「山岳兵は補給を受けずに作戦地域に留まることがあります。そのときには、一日二回の食事がこれひとつだけで何日も過ごします」

 俺もヤーンスも、ひと囓りしたそれを改めて見直した。よく見れば、それはパンでもビスク(固パン)でもブキスケ(糖蜜固パン)でもなかった。

「糖に塩……脂っぽいし……豆とかすごくいろいろ入ってる……」

 ルルッスがそれを指先で潰して見入っていた。

「これ、イッスリマ軍で作ってるの?」

「はい。山岳の村は普段でも食料が尽きることがありましたから。イッスリマ軍は穀物や豆を安全に備蓄する方法や、長く保存できる栄養食を作る研究を続けていました」

 俺とヤーンスは顔を見合わせた。ハンマや公社にもここまで進歩した専用食糧はない、そもそもこんな特殊食糧が必要になる状態を想定をしていない。

「補給は……切らさないことが重要だから。切れた時のことは、あんま考えてないよな」

 俺が携行糧を噛みながら言うと、ヤーンスが頷いた。

「補給隊はとにかく『前線に麦のひと粒でも届けろ』が使命だからな……イッスリマ軍は、補給は切れるものだと考えているんだ」

「山岳兵団は、補給を受けられないことが前提です」

 ヴェルイシアが言った。最初から極限状態で行動する部隊が存在するからこんな携行食糧が開発されるのだ。この特殊食糧ひとつを見ただけで、イッスリマ軍がどれほど長期戦闘に備えているのかわかってしまう。

「すると、これを十四個と水……それだけで一週間行動できるのか?」

「そうです」

 ヴェルイシアは何でもないことのように答えたが、軍事的にはとんでもない話しだった。たとえ軽装の歩兵であっても、こんな少量の兵糧で一週間も行動するとは想定していない。

 歩兵一人が自力で携行できる食糧は、行動に支障が出ない重量から考えて三日分が限界と計算するのが一般的だ。それ以降は補給切れで、軍団全体の行動力も戦闘力も暫時減少計算になって行く。

 だがイッスリマ軍の携行食糧は、それぞれの兵が一週間分を無理なく持って行軍できてしまう。イッスリマ軍が実際にこの食糧で行動しているのなら、軍の作戦立案に関する基礎データが全て役に立たなくなる。

 王子たちの野営地から斥候らしい五人が湖の方向へ出て行くのが見えた。ヴェルイシアがふと立ってどこかへ姿を消して、すぐに戻ってきた。

「仕掛けをいつ使うかは状況しだいになります。どこかで王子の一行は男女四人の旅行者を発見して、あの廃鉱まで追って行くことになります」

 ヴェルイシアが言った、山岳兵団から連絡を受けたのだ。

「橋を壊して精錬場の堰になっている石を崩すことはできるそうです。恐らく最低二日はそこで動けなくなるはずだと」

「見失って廃鉱から戻ってきて、村で足止め食らって最低四日というところか」

 ヤーンスがそう言ったときに、村を見張っていたタナデュールが走ってきた。

「いま、リンツヒラーの方からぁ。兵隊が走ってきましたぁ」

 ヴェルイシアが這うような姿勢で素早く姿を消して、すぐに戻ってきた。

「リンツヒラー方向から軍団が接近しています」

 全員が見張り場所に移動した。王子の野営地では幕舎の撤収が始まっている。

「全員、すぐ移動できるように準備」

 ヤーンスの指示でアデルバスとルルッスが荷物をまとめに戻った。

「退避は野営していた場所から西方向です、川に降りてしばらく進むことになります」

 ヴェルイシアがそう言うと、ヤーンスが一瞬決まりの悪い顔になった。そこまでは考えていなかったのだろう。

 やがて気配が伝わってきた。大勢が移動してくる。

「これは……まずいな……」

 ヤーンスが呻いた。

「どうして……こんな……」

 タァンドルシアが微かに震える声で言った。街道に見えてきたのはまさに軍団だった、横に八人の列が街道を埋め尽くして進んでくる。王子たちが出てきた理由はもう明らかだった。

「ヴェルドーツは、ハイデン州に侵攻する気だ」

 タァンドルシアが目を見開いて一瞬固まり、もう一度王子の野営地と進んでくる軍団に目を向けた。

「ドーラタンテューカ様はもう亡くなられたと……」

「恐らくそれでもだめだ」

 タァンドルシアの言葉をヤーンスが遮った。

「ヴァルヴァンデがハイデンに逃げ出したことで、ヴェルドーツはハイデン独立派討伐の口述を手に入れたんだ。それは、即位式を先延ばしにする理由にもなる」

 最悪の想定が現実になってしまった。

「今さらヴァルヴァンデが死んで宝物が戻ったと知ったところで、ヴェルドーツは侵攻を止めないぞ。奴は王位継承の前にハイデン州の独立派を潰しておきたいんだ」

「しかし、あれが国軍なのか?」

 俺は何となく感じたままを口にした。旗を何十本も押し立てて、槍をかついだ兵の数は数百人。最後尾が森から出たところで、俺はざっくりと人数を数えた。

「八百……千人いるな」

 しかし隊列はだらだらした歩き方で、覇気のようなものがまったく感じられない。武器も持たずただ駆け足をしていただけでも、イッスリマ軍の兵士からは圧倒されるような覇気が立ち昇っていた。

「脆弱だな……何十年も戦争から離れていたら、こんなものか」

 ヤーンスがため息混じりに言った。たぶん半数程度のイッスリマ軍にぶち当たっても負けるだろう。

「この軍がハイデンに攻め込んだら、イッスリマ家はどうするだろう?」

 そう言うとヤーンスが険しい表情で唸り、タァンドルシアは怯えたような顔になった。

「ハイデンに州軍があるとしても、たぶんロメランタとの国境警備が仕事だ。わざわざリンツ州方面に戦力は置かないだろう。たぶんリンツから攻められたならひとたまりもない」

 ヤーンスがそう言ってから小さく首を傾げた。

「国軍ですらこんな数だから、州軍なんてあっても知れてるな……するとイッスリマに救援を求めるのは間違いない」

 イッスリマ家が支配するグーンドラ州とハイデン州の関係は、街道を行き来する物資の量から考えて良好だと想われる。そしてハイデンの穀物はイッスリマ軍の兵糧であり、もしかすると交易品かも知れない。

「イッスリマ軍は……動くだろうか?」

「動く。どんな形をとるかわからないが、今のイッスリマ家はハイデン州が踏み荒されるのを黙って見ているはずがない」

 俺の質問に、ヤーンスは断言した。

「グーンドラ州とハイデン州は、リンツ家からはわからないように手を組んでいるに違いない」

「え? じゃ、イッスリマ家はハイデンの独立を手伝っているってことか?」

「そこまではわからん。もしかするとリンツ家の目をそらすために放置してあるだけかも知れない……それだと、バールグート爺さんはかなりの策士ってことになるな」

 そんな裏のことは俺にはよくわからない。だがこの情けないリンツ軍は、イッスリマ軍が本気でぶつかってきたら間違いなく壊滅することはわかる。リンツ軍が総力を挙げてもイッスリマ軍には絶対勝てないのだ。そうしたら次には何が起こるのだろう。

 しかし何がどうなっても、もう俺たちがどうにかできることではなかった。山岳兵団の工作で時間稼ぎが成功しても、できるのはタァンドルシアとお母さんを外国に逃がすことだけだろう。

王子の軍団が出発してからヴェルイシアが安全を確認して、ようやく俺たちも出発した。

 何事もなく午後にリンツヒラーへ到着し、目立たないようにばらばらでマイテザール商館に入った。それからヴェルイシアが王宮の様子を確認しに向かった。

「ヴァルヴァンデ様が、死んだのか……」

 俺たちの報告を聞いてセンテルバスは一瞬呆然とした。

「御崩御があってすぐ、ヴェルドーツ様がヴァルヴァンデ様の捕縛を宰相に命じたのだよ。ヴァルヴァンデ様はその直前に出奔なさったんだが、捕縛の知らせをヴァルヴァンデ様に漏らしたのがアトラミケル様だと噂が流れているようだ」

「なのに……一緒に出かけたのか?」

 ヤーンスが嫌な表情を浮かべながら言った。

「お二人が王宮を出た後に流れ始めたのだよ。たぶん意図的なものだ」

「それじゃ……第三王子が危ない」

 俺が言うとセンテルバスが頷いた。

「向かった先で不慮の事故……そうなる恐れがあるな。いずれにしろまた戦争が始まってしまう」

 タァンドルシアが両手で顔を覆って、呻くように何かを言った。祈りの言葉のようだった。

「でも第三王子は……第一の、邪魔になるような存在ですか?」

 無能だと聞いた記憶があった。俺の考えでは、無能は無害と同等じゃないかと思うのだが。

「ヴェルドーツ様は……祖父の、リンツ5世と気性がそっくりだ。そして5世が経験した苦労を知らされている。ハインスドラが離反した再統合戦争では、5世の兄弟たちが離反公家の味方をしてリンツ兄弟間の戦いも起こった。それで結局、5世は公家と一緒に弟たちを全員殺してしまったのだよ」

 ヴェルドーツはそれを見習おうとしているのだろうか。


 ヴェルイシアが商館に戻ってきたのは夕方だった。

「スリルシア様はご無事です。ただ、ヴェルドーツ様の命で館から出ることを禁止されています。館の中にはいま侍女が一人だけで、見たことがない者ですから監視役でしょう。外でも兵が二人、監視しています」

「他のお后は?」

 センテルバスが聞いた。

「西の青館の者にしか聞けませんでしたが、お引けの支度が始まっています」

「『お引け』とは?」

 ヤーンスが聞いた。

「崩御があって新王が即位すると、前王の后方は王宮を出なくてはならないんだ。しかしスリルシア様が禁足と言うことは……新王が即位なさってもそのまま残されることになるのか?」

 センテルバスが言ったことを聞いて、タァンドルシアの顔色が悪くなった。さすがにセンテルバスにもタァンドルシアの父親がヴェルドーツだとは話していない。

「宰相は行政府には出仕せず、私邸で指示だけを出しているようです。いま行政府はほとんど何もできない状態のようです。私では行政府に入れませんので、商館の人に付いて行って探ってみるしかありません」

「もうこんな時間では不自然だ。行くなら明日の朝だな」

 センテルバスが言ったので、ヴェルイシアは頷いて続けた。

「出撃したのは第一軍で、第二軍、第三軍も恐らく出動態勢です」

 センテルバスが唸った。

「もう、宰相でも事態は止められないか。そうすると、リンツ8世はヴェルドーツで決定と言うことか……」

 俺はそっとタァンドルシアの様子を窺った、恐らく全員がそうしていただろう。ここまで聞き知ったことだと、ヴェルドーツは王位と一緒にタァンドルシアの母親スリルシアを手に入れようとしているようだ。

 その場合タァンドルシアの扱いはどうなるのか。タァンドルシアはヴェルドーツを父として受け容れるのか、彼女の表情からは何も読み取ることができなかった。

「これ……どうなるにしろ、タァンドルシアは逃げた方がいいんじゃないか?」

 重苦しい空気に耐えかねて俺は言った。

「母上を置いては行けません」

 タァンドルシアが弱々しく首を振りながら言った。彼女も胸の内では逃げたいと思っているのかも知れない。だが王位継承がヴェルドーツに固まってきたことで逆に逃げにくくなってしまった。国全体はともかく、王宮内の混乱は収まりつつあるのだ。

「まず、片付けられることをやってしまおう。手に負えないことが出てきたらそこで考えればいい」

 ヤーンスが言って墨板を出した。

「まず……タァンドルシアの手から宝物を離す」

 そう言いながらチョークでメモを墨板に書き付けた。

「次に……とりあえずタァンドルシアはお母さんに会って話をする。お母さんはどうするつもりなのか、確かめるんだ」

「スリルシア様は軟禁状態ですので、館に行けば姫様まで一緒に軟禁される恐れがあります。雑役の者に変装して王宮に入って、密かに会えるようにしてみます」

 ヴェルイシアが言った。

「もしお母さんが亡命したいって思っているなら、俺たちが何とかやってみる」

 そんな約束をしていいのかと思ったが、たぶん俺でもそう言うに違いなかった。

「あと行政府の意向も重要だけど……これは俺たちの仕事じゃない。あとは……」

「タァンドルシアの隠れ場所わぁ、ここで大丈夫ですかぁ?」

 タナデュールが言って、ヤーンスが額に手を当てた。

「そうだな……万一のことを考えると、別に欲しいな」

「場所は言えませんが何カ所かあります、ひとつくらいは使えます」

 ヴェルイシアが低い声で言った。

「もしかして、山岳兵団の……か?」

 俺が聞くとヴェルイシアは頷いた。と言うことは、イッスリマ家は前からリンツヒラーに山岳兵団を入れていたのだ。

「なら間違いなく安全だろう。そこ、いつでも使えるのか?」

「三日はそこで過ごせます。捜されるようでしたら移動します」

 たった半日街道を移動してくる楽な行程だったのに、全員がげっそりと疲れ果てていた。たぶん精神的なものだろう。宝物を取り戻す任務には成功したのに、全体として事態は悪い方に向かっている状態なのだ。

 俺は何もする気が起こらず、ベッドに横になってとりとめのないことを考えていた。ヤーンスはどこかへ行って戻ってこない。イシュルとタナデュールは夕食が終わるとすぐにあの混沌部屋に潜り込んで、凄い勢いで何かの作業を始めてしまった。

「第一王子は……いま姫を殺す理由はない。第二は……殺さないで、楽しみたかった……第三は……無能」

 俺にとってはあまりにも入り組んだことで、整理するために口に出してみた。

「宗教にはまっていて、宰相の孫で……第一がいる限りは王になれなくて。第二に情報を漏らしたって、噂を流された……何でだろ?」

 口に出しても、やっぱり整理はできなかった。深く考えるのはどうも苦手なのだ、ベッドから起き上がって窓から中庭を見下ろした。

 星の明かりで白い髪が浮かび上がっていた。ヤーンスがベンチに腰を下ろして、その横にいるのはタァンドルシアだろう。するとヴェルイシアもどこかに身を潜めているはずだ。

 俺もあんな風に寄り添ってタァンドルシアを励ましてやりたいとは思うが、きっと何を話していいのか困ってしまうだろう。俺とほとんど変わらない年齢なのに、壮絶な出来事に巻き込まれた二人は何か通じ合うものがあるのか。

 そんなことを考えていると突然ヴェルイシアの匂いを思い出して動悸がして、体が熱くなった。

「あれ?」

 何でこうなるのか。





 リンツ7世の第五后スリルシアはその日も喪を示す白い服に身を包み、新参の侍女一人きりを館に置いて籠もっていた。

ヴェルドーツから王の崩御を知らされた。亡骸に会うことはできたものの、その崩御は伏せられ口外することが許されなかった。礼拝以外に王宮から出ることも禁じられた。

 そして7世崩御のその夜から、ヴェルドーツは夜になるとまるで主人のような振る舞いでスリルシアの館にやって来るのだった。せめて王の喪が明けるまではと許しを請うたが、聞き入れられずにベッドに押し倒された。

 ヴァルヴァンデを討ち果たしに出て行ったときには、スリルシアは心の底からほっとした。

 そしてまだ心痛の原因はあって、タァンドルシアが聖遺の箱を取り戻しに行くと言って夜中に館を出て行ったきり消息が知れない。ヴェルドーツが夜に来たところを見られなかったことが幸いではあった。

 死んでしまった長男長女の穏やかな性格と違って、タァンドルシアが時折見せる気性の激しさはヴェルドーツから受け継いだものに違いなかった。しかし父親が誰であれ、いまスリルシアの子はタァンドルシアしかいない。

 微かな、風のようの音が聞こえた。そしてもう一度、そこでスリルシアの目が微かに動いた。それはイッスリマ軍山岳兵が使う合図の笛だった。

 スリルシアは庭へと続くテラスに面した扉を開け、テラスに出て深呼吸をするように空を仰いだ。勝手に出ることを許されているのはここまでだった。テラスに置いてあるテーブルに、風で飛んできたかのように長い草の葉がひと筋落ちていた。

 様子を見に来た侍女に冷たい一瞥を与えながら、スリルシアは何気ない仕草で草を拾い上げて表面に指先を走らせた。それには細かい刻み目がいくつも付けられていて、イッスリマ軍の符丁で『礼拝』と読むことができた。

 館でこれを使うのはヴェルイシアだけだった。

「神殿へ、礼拝に行きます」

 スリルシアは侍女に告げた。二人の兵と見張りの侍女に付き従われて、スリルシアは王宮内のウードラス神殿に向かった。清めの水盤に指先を浸し、その指で額を湿した。水盤に供えられた花束の葉が折れ曲がり、そこに『通達』を意味する符丁が刻まれていた。

 祭壇前に進むと、礼拝を行う位置を示す敷物が普段よりもひどく祭壇近くに敷かれていた。

 普段であれば侍女に敷物の位置を直すように命じるところだが、『通達』の符丁が示された後にはどのような変化にも意味があるかも知れないのだ。スリルシアは構わずその上に正座して、ウードラス祭文を唱えた。

 一唱ごとに両手をつき、額を敷物に付くまで下げる。

「母上、私です」

 頭を下げているときに、スリルシアは微かなタァンドルシアの声を聞いた。スリルシアは両手をついたまま、右手の人差し指だけを小さく二度動かして敷物の上を叩く仕草をした。『了解・承知』などの合図だ。

「二番は死にました、一番と三番はしばらく帰れません」

 スリルシアは体を起して第二唱を奉じ、もう一度額を下げた。タァンドルシアの声は大きな花盆の隙間から聞こえてくる。

「二番が言いました。私は一番の子供なのですか」

 スリルシアの指が二度動いた。

「一番が即位したら、どうなさいます」

 スリルシアの指は一度だけ動いた『不承知』。

第三唱が終わって、聞こえてきたタァンドルシアの声は少し震えていた。

「一番は母上を所望です。逃げますか」

 スリルシアの指は一度動いた。

「どうなさいますか。私は何を」

 第四唱の後でスリルシアは咳払いをして、ウードラス神に謝罪の言葉を口にした。そして頭を下げ、後ろで監視している侍女には聞こえない囁きで言った。

「あなたは逃げる、私はエルミハルムとリリンドルシアの仇を打つ」

 最後の第五唱が終わると、タァンドルシアの短い返事があった。

「心正しき者に、神の加護あれ」

 スリルシアの瞼が一瞬震えた。

 神殿を出て行くスリルシアの背を、花盆のわずかな隙間からタァンドルシアが見守っていた。わずかに震える手で必死に口を抑え、涙を流しながら。


 ヴェルドーツとアトラミケル王子が率いるハイデン討伐軍は、ヴェルミエ湖畔にある廃墟の横で小休止を取っていた。ここはすでにハイデン州であり、湖に沿って街道を進めばハイデンで最初の町ハラームデンがある。

「まず、ハラームデンだ」

 ヴェルドーツはアトラミケルと隊長にもう一度行動の予定を説明した。

「ハラームデンに入って、最初に役所関係を押さえる。役人全員の取り調べを行って、独立派の者が潜り込んでいないか徹底的に吐かせろ。それと宿があったら中にいる者は全て身元を調べろ。女の宿泊者は必ず身柄を押さえろ」

「御意」

「それからグーンドラ州のイッスリマ家に使者を出して、兵糧を供出させろ」

 アトラミケルは頷いたが、隊長は難しい表情になった。

「恐れながらアージュタンテューカ様。ハラームデンに入る前にイッスリマ家に断りを入れるのがよろしいのではないかと存じます」

「だめだ、グーンドラ州に向かうにはハラームデンを通過しなければならない。我々の接近を知らせるようなものだ」

「しかし断りなく一千もの軍を差し向けるのは、イッスリマ家を挑発するようなものです」

「グーンドラ州を攻める訳ではないぞ! ハイデン州内のことでなぜイッスリマが文句を言うのだ!」

「こちらは親衛の軍だ、イッスリマ家ごときが何を言うかと叱ってやれ」

 アトラミケルも強硬意見だった。

「日のあるうちにハラームデンに入るぞ!」

 そうヴェルドーツが声を上げた時に、付近を警戒していた見張りの兵が走ってきた。

「申し上げます!」

「何だ!」

「ハラームデン方面から街道をやってきた男女四人が、軍に気がついて山の方向へ逃げて行きました!」

 ヴェルドーツは、街道を通る女性は必ず身元を確認するよう全軍に通達していた。たとえ誰であれ引き立てて自分の前に連れてくるように。

「タァンドルシアかな?」

 アトラミケルが言った。

「こんな場所を女が歩いているとしたら、そうかも知れないな。行こう」

 ヴェルドーツは床几から腰を上げた。

「兵に捕らえさせればいいじゃないか」

 そう言ったアトラミケルをヴェルドーツが睨んだ。

「タァンドルシアだったらヴェルイシアが付いている。叩きのめされてタァンドルシアに怒鳴られたら、兵は何もできん」

「あ、そうか」

「隊長、兵を二隊連れて行くぞ。アトラミケル、お前も一緒に来い」

 ヴェルドーツはその場に軍と輜重隊を待機させ、三十人ほどの軽装兵だけを連れて街道から山の方向へ向かった。しばらく進むと道は荒れて狭くなったが、はるか前方に時々人影が見えるようになった。

 騎乗の王子二人は馬を駆けさせて追跡したが、傷んだ橋に行く手を阻まれた。馬が乗れば壊れてしまいそうなほどに朽ちている。馬で飛び越すことができる川幅でもなく、仕方ないので馬をそこに繋いで徒歩でそろそろと橋を渡った。

 橋の先には無人の村があった。二人の王子は無用な危険を避けるために、村を見張ることができる場所で兵が来るのを待った。

「さっきのがタァンドルシアだとして、どうして逃げるんだ?」

 暇をもてあました様子でアトラミケルが聞いた。

「わからんが……あの逃げ足の速さは普通の女じゃない、たぶんタァンドルシアとヴェルイシアだ。他の男はハンマの公社から来た連中だろう、何かを企んでいるのだ」

「タァンドルシアが何を企むんだ?」

「企むのは公社の奴らだ、ハンマからの指示を受けてこの国を乱そうとしている」

「義援士か……」

 アトラミケルは橋の向こうをのぞき込みながら言った。走ってくる兵の姿が小さく見えてきた。

「無料で医者をよこすとか言っているらしいけど、どうして受け入れないんだ?」

 ヴェルドーツは不快そうにアトラミケルを見やった。

「信用ならん。ガー(鬼病)を憑きものではなく、病気だと言うような奴らだぞ!」

「ガーは祈祷をやっても治らない、妹の病気も僧侶の祈祷じゃ全く良くならない。前にタァンドルシアが、妹にハンマの薬を飲ませろと言っていた」

「何だと? 何であいつはそんな事まで……」

「胸の病は香を焚いたら余計に悪くなる、養生だけではなくて薬を使わないと良くならないそうだ」

 ヴェルドーツは苦い表情で村の中を睨んだ。

「あっ……」

 村の裏手から山の方へと向かう四人の男女が目に入ったのだ。ヴェルドーツとアトラミケルは兵たちが近づくまで待ち、村を走り抜けた。道を塞ぐように倒れている木をまたぎ越えて坂道を登った。

 池に沈でいる集落の手前で川を渡り、行き止まりになった廃鉱の付近を日が傾くまで捜索した。

 だが四人の男女は見つからない。廃鉱に入って行ったとしか考えられないが、水が流れ出しているのでとても入って行けるものではなかった。

 ハラームデンへの到着が遅くなってしまうので、それ以上時間を無駄にできなかった。諦めて山を降り、無人の村まで戻って王子たちは愕然となった。橋がなくなっている上に川が増水して濁流になっていた。

「何だ……これは……」

 アトラミケルが呆然とした表情で言った。

「さっき……上ではこんな状態ではなかったぞ。戻ろう、池の手前で渡れば森の中を通って向こう側に出られるはずだ」

 だが川は全域で増水していた。池の土手が決壊したのだ、無理に渡ろうとした兵が二人流された。

「どうする! もう日が暮れるぞ、何も持って来ていないのに!」

「村には小屋がある、そこで夜明かしするしかない」

「食べ物は? 馬も向こう岸に繋いであるから何もない!」

「何か捜すさ!」

 一行は無人の村まで戻り、食料になりそうな物を探した。ヴェルドーツはため池を覗き込み、剣を抜いて何度も水の中に突き入れた。

「見ろ! 食い物があったぞ!」

 ヴェルドーツが笑いながら言った。二フィートはありそうな魚が剣に串刺しになっていた。

「兵ども、火を熾せ! まだたくさんいるぞ!」

 串刺しになっている魚が暴れ、血の混じった水がヴェルドーツの顔に飛び散った。

「うわ! これはたまらん! おい誰か、これを……」

 そう声を出した瞬間に再び魚が暴れて、今度はヴェルドーツの口の中にまで飛んだ。生臭い血液の味にヴェルドーツは唾を吐き出し口を拭ったが、手にも魚の血液は付着していた。





「アージュタンテューカ様、タランタンティーカ様と兵士三十名ほどを村に孤立させました」

 夜になってヴェルイシアが俺たちに報告した。山岳兵団の作戦は成功したようだ。指揮官である王子が動けなければ、軍団全部が足止めになるかも知れない。

「イッスリマ軍が今夜中にハイデン州へ移動します。ハイデンから正式な救援依頼がありしだい、州の警備隊代行として行動するそうです」

 俺とヤーンスは顔を見合わせた。何とイッスリマ家が動いたのだ。

ヴェルドーツはそれをどう取るだろうか。まさか自分の応援に来たとは思わないだろう、非常に気味悪く感じるはずだ。

「それから明日中に、第二軍第三軍に偽の出動命令が出ます」

「偽の?」

 ヤーンスが聞き返すとヴェルイシアは頷いた。

「リンツヒラーには王宮衛士を除いて軍がいなくなります」

「警備が手薄になるから、タァンドルシアその分安全になるな」

 俺が言うとヤーンスが頷いた。

「国軍がいなければ王宮に入りやすくなります」

 ヴェルイシアが言った。

「どうして?」

「何で?」

 俺とヤーンスが揃って聞いた。

「王宮衛士は姫様の命令に従いますが、国軍兵は王と指揮下の王子、それと宰相の命令しか受け付けません。今は非常事態ですから、国軍が王宮の警備に入った時には姫様でも入れない場所ができてしまいます」

「姫様。今の機会を逃さず、スリルシア様を連れてお逃げください」

 センテルバスが言ったが、タァンドルシアは俯いたまま返事をしなかった。王宮でこっそりお母さんと会うことはできたそうだが、戻ってきてからずっと思い詰めた様子でほとんど口を利かないのだ。

「母上は……」

 下を向いたまま、タァンドルシアがしわがれたような声を出した。

「母上は、ヴェルドーツを……受け容れないと、おっしゃっています。逃げも……しません」

 全員が黙って目を見交わした。

「つまり……どうするんだ?」

 俺が聞くと、タァンドルシアは弱々しく首を振った。

「母上は、ヴェルドーツを……殺します。私の、兄様、姉様の……仇を……」

「待って、ください……そんな……」

 センテルバスが両手で顔を覆って呻いた。

「ヴェルドーツ様が、姫様のご兄姉を?」

「センテルバスさん……私は……姫じゃ、ありません」

 タァンドルシアがまるで老婆になったような声で言ったので、全員が声もなくたじろいだ。

「私は、リンツ7世の娘じゃなくて……ヴェルドーツと母上との間に、できた子です」

 センテルバスが首を絞められたような声を出した。

 『もし王子がみんな死んだら、ここの王は誰が継ぐのか』俺はそっちの方が気になった。

「母上は……私は、逃げろと。おっしゃいました」

 もはやタァンドルシアの表情は痛々しくて見ていられない、声も痛ましくて聞いていたくないほどだ。

「でも、あなたは……逃げない」

 ヤーンスが言った。タァンドルシアは両手で顔を覆い、悲鳴のような音を立てて息を吸った。

「逃げません……母上と、一緒に……死にます」

 ふいにタナデュールが声を上げて泣き出した。イシュルもルルッスも顔を覆って泣き出した。

 俺はヤーンスと目を見交わした。俺たちはこんなことのために彼女と苦労を共にしたわけじゃない。こんなことが許されるはずがない。

「お母さんは……ヴェルドーツを殺したいのではなく、逆に殺されることでヴェルドーツに抗議の意志を伝えたいのでしょう。それは……お母さんの意思だ。でもあなたが、一緒に死ぬことに、意味がありますか?」

 ヤーンスの声は冷静に聞こえた。だが動揺を必死に押さえ込んでいる、それは目を見ればわかった。

「意味があるかどうか……私が決めることではありません。母上と……ヴェルドーツのどちらが死んでも、私は、もう……生きていたくありません」

「やめてください……姫様」

 ヴェルイシアが弱々しい声を出した。

「姫じゃないのよ……私は……」

「今だって、姫じゃないか」

 タァンドルシアが俺を見たので、迂闊なことを言ってしまったと後悔した。なのに、続けてもうひとつ迂闊なことを言ってしまった。

「血筋は、どうにもできないよ」

 タァンドルシアの下瞼が震えて、こめかみに青筋が浮かんだ。

「そんなの私の責任じゃないわ! それがどうして全部私に降りかかってくるのよ!」

 タァンドルシアが立ち上がって、椅子を蹴り飛ばした。

「みんな勝手に殺し合っているのに、私にどうしろって言うのよ!」

 声がひっくり返っている。タァンドルシアは自分の髪を両手で掻きむしって、さらに大きな声でわめき始めた。

「自分の欲望ばっかり、あとは全部誰かにおしつけて! こんな腐った王族なんか、みんな死ねばいいのよ!」

「姫様、落ち着いて!」

 タァンドルシアは、宥めようとしたヴェルイシアも突き飛ばした。

「もう、あんた、グーンドラに帰って! もう、いいぃぃぃぃ! 私いま、ここで死ぬから!」

 半狂乱になっているタァンドルシアを、全員口を開けたまま凍り付いて見ていた。ヤーンスが動いた。立ち上がって有無を言わせずタァンドルシアを引寄せて、その体をがっしりと抱きしめた。

「やめ……離、し……てぇええ!」

 タァンドルシアはヤーンスの腕の中で暴れたが、剣士の力に勝てるはずがなかった。何度か金切り声を上げてヤーンスの背中を叩いたが、そのうち大人しくなった。

「頼む……」

 ヤーンスの囁き声が聞こえた。

「死なないでくれ、タァンドルシア……」

 泣くようなヤーンスの声に、タァンドルシアが目を見開いて天井を見上げていた。ヤーンスの背中をかきむしっていた手がだらんと垂れ下がって、それから弱々しくヤーンスの肩を押した。ヴェルイシアが起した椅子に、ヤーンスはタァンドルシアをそっと座らせた。

 タァンドルシアはなおもしばらく天井を見上げて静かに涙を流していたが、やがて前を向いてヴェルイシアが差し出した布で顔を拭った。

「ごめんなさい……」

 涙で枯れた声でタァンドルシアが言った。

「取り乱して……みっともない……」

「とても、失礼なことをした」

 ヤーンスが言った。

「責任は取る」

「いいんです……」

 タァンドルシアが言って布で小さく鼻をかんだ。

「錯乱した私がいけないんです、でも……」

 そこでタァンドルシアは息をついて弱々しく微笑んだ。しかし、やはり痛ましい微笑みだった。

「胸の中に溜まっていた嫌な物を、全部吐き出せました」

「それについては、このバカの責任です。お手討ちにするなり褒美を授けるなりご随意に」

 ヤーンスが俺を指して言った。褒められたのか、それともけなされたのかよくわからない。センテルバスがルルッスにお茶を命じて、それが来るまで誰も口を利かなかった。

「死なないのでしたら……」

 しばらくして、タァンドルシアがお茶の湯気を顔にあてながら言った。

「ほかに……私が、取るべき……動き。何があるのでしょうか?」

「お母さんは逃げない。君も逃げないし、死なない……だったら取るべき道は、ヴェルドーツに立ち向かうしかない」

 ヤーンスが言うと、タァンドルシアは当惑した表情でヤーンスを見た。

「どう……立ち向かえば……いいのでしょうか?」

「お母さんが……ヴェルドーツの物にはならない。リンツ7世の未亡人として、静かに生きていくことを認めさせる。君は……リンツ家の、一人の公女として生きていくことを……」

「それは……理想ですけど……難しい、です」

 ごく当り前のことなのに、それが許されない。

「王宮で、周りに侍従とか衛兵とかいたら……そりゃ難しいだろ。誰もいないところで、差しで話したらヴェルドーツも弱腰になるんじゃないか?」

 俺は思いついたままを口にした。

「三人じゃ、サシになりませんよぉ」

「うるせえ!」

 俺は思わずタナデュールに怒鳴ってしまった。

「ヴェルドーツの弱み……何か、ないのか?」

 ヤーンスが言ったが、俺たちにわかるはずがなかった。

「タァンドルシアさん自身が、ヴェルドーツが不義を働いた証拠ですけど。それを証明するのは難しいですね。向こうが認めなかったらそれで終わりですから」

 イシュルが両手を頭に乗せて、呻くように言った。

「この国で……密通の罪は重いのか?」

 ヤーンスが誰にともなく聞いた。

「女性の密通は重罪だ。男性はそれほどでもないが、だが王の后を寝取ったとなれば話は別だ。事が公になれば、王子でも王家から放逐だろうな」

 センテルバスが考えながら答えた。

「つまり……お母さんの証言があって、その証拠であるタァンドルシアがいて、ヴェルドーツ本人が認めれば。ヴェルドーツは有罪ってことか?」

 俺が言うと、センテルバスが頷いた。

「簡単ではないが……ヴェルドーツ様が重い不義を働いて、今になってそれが発覚したとなれば非難を受けることは避けられない。それで罪科を受けることはないだろうが、王としての権威に大きな傷が付いてしまうことは間違いない」

 センテルバスの言葉で全員が考え込んだ。

「自白させる……か……」

 ヤーンスがため息をつきながら言った。

「あの人が何で死んだのか……俺はようやくわかったような気がするよ」

「あ? 誰が?」

「アハデラ・グリッグゼルさ。俺を助け出して養子にしてくれた……」

 全員が無言になってしまった。

「あの……革職人に、黙って刺された?」

「そうだ。どうしてあれだけの剣士がど素人に黙って刺し殺されたのか、俺が自分で斬っちまったから知りようがなくなったけど……あの人は、俺に話したくなかったんだ」

 俺も、何となくわかったような気がしてきた。自分に責任がない過去のことで苦しめられているタァンドルシアを見れば、納得できることだ。

「いつか必ず話さなくてはならないけど、過去のことを話せば俺が苦しむのはわかりきっている。話さないで済むために、あの人は死ぬしかなかったんだ」

「だからって……革職人に刺されるのか?」

 俺が聞くとヤーンスは苦笑いした。

「剣士であの人を斬れる奴なんていないだろう。それに、剣士にわざと斬られるなんて相手に失礼だ。剣の心得もないそれでいて自分を殺す理由がある奴なら、殺されてもいいと思ったんじゃないかな?」

 何とも心地の良くない沈黙が続いた。

「ところで、あの……」

 イシュルが手を挙げて言った。

「これ、なし崩しに何かやる話しになっているみたいですけど。義援士の任務として動ける物じゃありませんよね?」

「そうだな。リンツの、お家騒動の一部だ」

 ヤーンスが答えた。

「それでも動きますか?」

 イシュルの言葉に、俺はヤーンスとタナデュールに視線を向けた。ヤーンスはタァンドルシアに目を向けている、イシュルは俺と目が合うと首を傾げた。

「俺としては、だけど……ここまで来て逃げるのは気分が悪い」

 気分が悪いだけじゃなく、逃げたくない。

「簡単なことだ」

 ヤーンスが言った。

「タァンドルシアが一言、助けてと言えばいい」

 全員の視線を受けてタァンドルシアがたじろいだ、その目にみるみる涙が溜まった。彼女が俯くと、顔から滴がいくつも落ちた。

「お願い、します……私と母を……助けて、ください……」

「異議あるか?」

 ヤーンスが聞いた。誰も、何も言わなかった。

「決まりだ。義に従って俺たちは動く」

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