おまけ①

「恩田と蓬~!やっと来た~!」


 千尋と一緒に謝恩会の会場である料理屋さんに着くと、座敷にはクラスメイトがたくさん居た。大地は千尋が来るのを楽しみにしていたらしく、私たちが座敷にあがるなり千尋の肩を組んで連れて行ってしまった。


「あれ。百合子は?」

「ああ。なんか、少し遅れてくるって。」


 あたりを見渡すと百合子の姿がなかったため、雄一に尋ねるとそんな風な返事をもらった。謝恩会の話をしたときは、「蓬も行くなら。」ってことで参加にしていたけど、特に遅れるなんてことは言っていなかった。


 まあ、家族も卒業式に来ていたからそれぞれなにかしらあるよね。私は気忙しそうにしている吉永さんの隣に座った。


「飲み物ってもう頼んだの?」

「とりあえず、みんなバラバラに来てるから、人数分オレンジジュース頼んでおいたよ。料理も適当に頼んじゃっていいよね?」

「いいと思う。西野っちも来るんだっけ?」

「そう。乾杯は西野先生が来てからがいいかあと思ってるんだけど、もう来るかな?」

「どうだろ。私、西野っちに電話してみるよ。」

「ありがとう。」


 座敷を一旦出て電話をかけようとしていると、「蓬。」と声をかけられた。その声の方を見ると、百合子と西野っちが一緒にやってきた。


「百合子と西野っち遅い~。」

「ごめん~。」

「いいよ~。私と千尋も今さっき来たところだから。」

「なんだそれ。」


 私と百合子が笑い合っていると、吉永さんが座敷から顔を出した。


「あ、先生と穂高さん来た。これで全員集まったね。」

「え。私たちが最後だったの?ごめん。」

「ううん。オレンジジュース頼んでおいたけど、それでいい?」

「吉永さんありがとう。」

「あ。先生もジュースですからね。」

「分かってるよ。」


 苦笑する西野っちは、どこか嬉しそうだ。


「西野っち、なんだか嬉しそう。」

「当たり前だろ。」

「どうして?」

「生徒が卒業するってのは、教師にとって嬉しいもんだ。」


 小さい頃は早く大人になりたいって思っていたけれど、今は不安も楽しみも半々だ。だけど、西野っちのような眼差しをすることができる瞬間があるのなら、大人になるのも悪くないかなって思う。


「西野っち早く乾杯やってー!」

「はいはい。」

「百合子も行こう。」

「うん。」


 私たちはもう、同じ時間を同じ教室で過ごすことはできないけれど。だけどきっと、その思い出が自分の背中を押してくれる日が来るだろうと思う。


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