おまけ①
ギャラリーが増え始めてしまったと思った。どちらかの意見に傾かないように、公衆の面前の方が良いかと思って5組に乗り込んだけれど、これじゃあ石川さんの一臣への気持ちをみんなに言いふらすことになってしまう。
私はなんとか石川さんが一臣にふられたことに触れずに話を進めようとするけれど、発端はそこであるから中々難しい。
「一臣がゲイっていう噂を流したのも、一臣の好きな人が千尋だっていう噂を流したのも石川さんでしょ?なんでそんなことするの?」
「噂流したっていうか、事実でしょ。事実を話して何が悪いの?」
「事実だからって何でも話していいの?」
「だって別に嘘を流してるわけじゃないしさ。それに、丸林くんって女の子にモテるから、傷つく前に教えといてもらえてよかったと思ってる女の子、一杯いるんじゃないのかな?」
石川さんの言葉に「傷ついたのは石川さんでしょ?」と言いたいのをぐっとこらえる。一臣にふられて逆恨みしているだけなのに、自分を正当化する石川さんに苛々が募る。
でも、それを言うわけにはいかないから、私が石川さんと対峙するに至った理由を考える。一臣のことは一臣と石川さんの問題だから置いておくとしても、千尋に因縁をふっかけているのは気に食わない。
「……まあ、一臣のことはどうだっていいのよ。」
私がそう言った瞬間に、ギャラリーの空気が「え?どうだっていいの?」と肩透かしを食らったようになったことには気づいたけれど、私はそれに気にも留めないようにして言葉を続けた。
「千尋のことを巻き込むのは止めてくんない?」
私はこれだけが言いたかった。石川さんが一臣に告白を受け入れてもらえなかったのは、あくまでも一臣と石川さんの話だ。仮に千尋のことを一臣が好きじゃなかったとしても、どうだったのかと考えると、こんなに人のプライベートなことを暴露する人は地雷だということに気付いてほしい。
私が何を言っても、石川さんは何かと理由をつけては言い返してくる。石川さんって本当に一臣のことを好きだったのかな?と疑問に思うほどだ。私と石川さんが攻防を繰り返していると、私の大好きな背中が私の目の前に立ちはだかった。
「だからって、それで一臣くんが石川さんのことを傷つけたのかな?」
千尋の登場によって冷静になった私は、周りを見渡した。知らないうちに、一臣や吉永さん、大地たちもギャラリーの中に居る。しまった。頼まれたわけでもないのに、こんなに見世物になってしまって、申し訳ない気持ちが湧き上がってくる。
石川さんと千尋がやり合っている間に一臣と目が合うと、一臣は笑っていた。私が勝手に行動したことに怒ってもいいのに、一臣は笑っていた。
最高の友人だし最高のライバルだなと思った。私と目が合ったことを合図に、一臣はその場を動いて「もう、いいよ。」とその場を収める言葉を放った。
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