おまけ①

『それにしても、どこから広まったんだろうね。』


 文化祭1日目を終えて家に帰ると、私と吉永さんと一臣は緊急対策会議をグループ通話で行うことになった。吉永さんは誰なのか検討がつかないようだ。


「……一臣は、誰か検討ついてる?」


 当の本人である一臣はどう思って居るのか。大事なところだけれどデリケートなことだから、私は遠慮がちに聞いた。


『んー……。なんとなく?というか今日、その人だなって思ったけど、どこで知ったんだかって感じでさ……。』

「それってひょっとして、石川さんじゃない?」

『え……?』

『石川さん?って……誰?』


 吉永さんは石川さんが誰だか分からないようだったので、5組の人で千尋が一臣の告白現場を目撃したときに告白していた女の子であることを教えた。


 それとついでに、私と千尋が受付当番をしているときにわざわざ千尋の顔を見に来たあげく、お昼ご飯を邪魔されたことも付け加えた。


『え、そんなことがあったの?その石川さんのことをよく知らないから私は何とも言えないけれど、丸林くんは石川さんと交流があるの?』

『んー……。多分、1年のときに可愛いなと思って声かけた1人だから、連絡先は知ってるけどそれ以上でもそれ以下でもないっていうか。』

「え。声かけたってまさか……。」

『いや、手は出してないよ。普通に連絡先を俺から聞いただけ。それに、石川さんってバレー部で忙しそうだったから、デート誘ったこともあるけど断られたし。』

「そうだったの……。でも、今日ずっと千尋に当たりが強かったことを考えると、一臣が千尋を好きっていうことを何か知ってるかもだよね。」

『可能性は否めないよな。』

『でもその石川さんって本当にどこから知ったんだろうね。丸林くんって、私たち以外には話してないんでしょ?』

『透にだって話してないことを石川さんには話さないよ。』

「そうだよねえ。……透は、大丈夫だった?」


 ふと、クラスでの一臣のことが心配になった。うちのクラスでさえあれだけ一臣の話になっていたんだから、一臣のクラスで噂にならないわけない。


『まあ、透は大丈夫だったけど、クラスの中にはなんていうかまあ、仕方ないっちゃ仕方ないけどさ。ただ俺、文化祭実行委員だからやりにくい。』

「そうだよねえ。……しんどいときはうちのクラスに来なよ。」

『サンキュ。でも、逃げるわけにはいかないからさ。委員の責任もあるし。……千尋の反応はどんな感じ?』


 一臣が一番に気になるのは、千尋の反応らしい。


「千尋と話してないの?」

『気持ち悪いと思われたら傷ついちゃうから、千尋からメッセージきてるけど読めてない。』

「馬鹿じゃん。」

『うん。丸林くん、馬鹿だね。恩田くんが気持ち悪いなんて思う人なわけないのに。今日だって、すごくよかったよね、山崎さん?』

「そうそう。千尋の発言のおかげで、大地たちも“個人の自由だから別にいっかー”ってなったんだよ。千尋に感謝しときなよ。」

『千尋が?なんて言ってくれたの?』

「それはまあ、千尋と話しなよ。ちなみに、一臣が千尋のことを好きってことは、千尋はまだ知らないっぽいから。」

『そ、そっかぁ。……でも、バレるのも時間の問題だよなあ。石川さんがそんな風に千尋に絡んでるなら……。』

「それでも多分、千尋はなんとも思わないから大丈夫だって。」

『……なにかは思ってほしいなあ。』

『ほら、そこから何かが始まるかもよ。』

『吉永さんは何を期待してんだよ。』


 グループ通話だったけど、一臣の声が元気そうで安心した。3人で色々と話をするなかで、とりあえず分かってくれる人だけ分かってくれればいいこと、千尋を傷つける人が居たら全力で守ることを確認し合った。


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