おまけ①
段々と秋めいてきてからというものの、私と千尋のデートは専ら勉強ばかりだ。しかも、放課後の教室に残って勉強しているから、デートと言えるほど2人きりでもない。同じように勉強で残っているクラスメイトが何人もいる。
「お茶休憩にしない?」
きりの良いところで千尋を休憩に誘うと、千尋もそうだったらしく2人で購買へと行く。こうやって校舎の中を2人きりで歩くのも、あと何回できるのだろう。今度の文化祭は、絶対に楽しまなければいけない。
「あれ。千尋と蓬も休憩?」
購買の自販機のベンチに座って居たのは、一臣と透だった。2人も私たちと同じように勉強の休憩らしい。勉強の進み具合と文化祭の準備の進み具合について話をする。
一臣は文化祭実行委員らしく、その忙しさに嘆いていた。
「一臣くんが委員なんだ。大変だねぇ。」
「ほら!心配してくれるの、千尋だけ!ありがとう!」
千尋の優しさにつけ込み、一臣は大きな身体をベンチから勢いよく立たせると、千尋に抱き付いた。それはまるで、大型犬が千尋に抱き付いているかのようだ。
「なんだか、大型犬を相手にしてる感じね。」
「まさしく。」
透とそんな風に言うと、千尋に抱き付いた一臣が他の2人に見えないところで、私にアッカンベーをしてきた。私はその一臣のアッカンベーに笑顔を見せながらも氷の笑顔を一臣に向ける。
……この野郎。彼女の私の前で堂々とそういう気持ちで抱き付くなぞいい根性しとるわ。
<あんた、あれわざとでしょ。>
その日の夜、私は一臣にそうメッセージを送った。彼女として一言申す案件だ。
<何の話?>
すると、一臣はしらばっくれてきた。アイツめ、本当に良い根性しとる。
<とぼけたって分かってるんだからね!今後、そういう気持ちで千尋に抱き付くの禁止!>
<なんで蓬に禁止されなきゃいけないんだよー。千尋に言われるならまだしも。>
それはそうかもしれない。だけど私にだって言い分がある。
<下心での抱き付きは禁止。千尋に正々堂々とできない抱き付きは禁止。>
こういう線引きはちゃんとしておかないと、もし一臣の気持ちが千尋に伝わったときに傷つく可能性があるのは千尋や一臣なのだ。私にとって千尋は大切な彼氏であり、一臣は大切な友達であるからこそ、こういうことは言っておきたいと思った。
<分かった。でも、友達としてのボディータッチはするから。>
<なんか言い方が卑猥。せめてスキンシップと言って。>
さすが英語に悩んでいる一臣なだけある。ワードチョイスが少しズレている。
次の日の朝、千尋と一緒に登校をすると、昇降口で一臣と会った。
「千尋、はよっす!」
一臣は挨拶をして千尋にハグをすると、私の方を見た。
「蓬もおはよう。」
「……おはよう。」
超絶スマイルを浮かべている一臣に対して、私も超絶スマイルを返した。きっと、私たちの視線がぶつかったところには火花が散っていたにちがいないし、昇降口の温度も1,2度下がっていたにちがいない。
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