おまけ②
すべてのひと段落がつき、千尋、百合子、一臣、私の4人で透の家に押しかけると、透は鳩が豆鉄砲をくらったような顔をして私たちを出迎えてくれた。
そして、客間に通されるなり、透は私たちの方に向けて謝罪の言葉を発してから深々と頭を下げてから、まったく頭を上げようとしない。
「透、もう顔を上げろよ。お前はなんも悪くないだろ。」
私はその一臣の言葉に「そうだよ。」と優しく相槌の声を出した。この場にやってきた人の中に、透を責める人なんて誰も居ない。
「……それじゃ俺の気が済まない。うちの妹が本当に馬鹿なことをしでかしたし、俺も知らないうちにありもしない噂をあろうことか一臣に直接話してしまっていた。」
「そんな……。それを篠原くんが思いつめる必要はないよ。それは僕たちの願いじゃない。」
「ほら、いつまでもそんなされると、俺たちの方が申し訳ないだろ。」
一臣は透の肩に手をかけて、無理やり頭を上げさせる。
……しかし、やっぱり透は俯いたままの方がよかったのかもしれない。一臣も無理矢理透の顔をあげさせたことを少しだけ後悔している。
「し、篠原くんこれ使って!」
そこで咄嗟に行動ができたのは、女子力の高い千尋だ。本物の女子である私と百合子が動き出す前に、千尋は透へとティッシュを差し出した。しかも、きちんとポケットティッシュカバーがしてあるやつ。
「うう……ぐすっ。」
透は素直に千尋からティッシュを受け取ると、涙と鼻水で崩壊した顔面を拭う。しかし、千尋の優しさのせいでもっと顔面が崩壊する。
まさか、透がこんなに涙もろいというか泣くとは知らなかった。
「もう、泣かないで。ね?」
「うう……ぐすっぐすっ。」
千尋も手伝って透の顔面をティッシュで拭いてあげる。なんだか、群れから逸れて泣いているゴリラを千尋がかいがいしく世話している様子に見える。
「篠原くんは悪くない。それに、妹さんだって悪いことをしたかもしれないけれど、僕たちに一応謝ってくれたし。誰でも道を違えることはあるけど、それに気づいてからどうするかが大事だし。だからもう、篠原くんが謝る必要はないよ。」
「お、おんだぁぁ。ありがとうううっ……。」
透は「わーん」と泣きながら、千尋に抱き付いてその胸で涙をぬぐった。おい、千尋の胸で泣いていいのは私ぞ。
しかし千尋は、鼻水もよだれも涙も洋服につけられているのに、1つも嫌そうな顔をしていない。そんな千尋を見て、また好きになる。
「まあ、とりあえずさ。お菓子とジュース買ってきたから、それで食べて飲んで元気になろうや。」
一臣がそう言って透の肩を叩くと、今度は一臣に抱き付いて「おーん」と泣いていた。私と百合子は呆れてお菓子とジュースの準備をして、先にお茶を始めた。
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