おまけ①

『それにしても、あんた一体、なんだって急に髪の毛をそんなにばっさり切ったのよ。』


 お風呂からあがって部屋でゆっくりしていると、百合子から電話がかかってきた。今日は始業式だけであまり百合子と話ができていなかったから、電話がかかってくるだろうとは予想していた。


「ごめんね、今日は。面倒なことに対応してもらって。」

『いや、それはいいんだけどさ。でも、一応理由を聞く権利はあるかと思って。』

「確かに、そうだね。」


 私は軽く、苦笑した。さすが百合子だ。もちろん、私も百合子には話をしておこうと思っていたけれど、昨日までに話をしなかったのは、せっかくなら髪を切った私を見て驚いてもらいたかったのだ。


 私は、春休みに起きたちょっとしたことのあらましを百合子に話した。すべてを話し終わった後、電話の向こうで百合子はお腹を抱えて笑っていた。


 まだしばらく、普通に話せそうにない。


「……笑いすぎでしょ。」

『はー。ごめんって。それにしても、気が強いね。さすがだわ。』


 百合子が落ち着いてから言葉を発すると、ちょっと失礼な返事が返ってきた。


「なにそれ。褒めてる?」

『褒めてるよ。だって、恩田の度肝が抜かされただろうなと思ったら、もうまた笑いが込み上げてくる。』

「確かに、千尋は青ざめてた。でも、それくらいしないと分かってもらえないかと思って。」

『言えてる。恩田って、なんであんなに自己評価が低いかねって言うくらい、自分の殻の中に閉じこもってるもんね。』

「これでも、随分と殻は開けてくれてるけどね。」

『まあね。』


 千尋が自分の殻に閉じこもりがちなのは、幼い頃からそうだ。活発な私と温厚な千尋。でも、そんなところも好きになったから、無理に殻を破れとは言わない。


 だけど、必要な時もある。そういう時に、勇気をもって立ち向かえる人になってほしいと私は思う。


「ごめんね、百合子。明日も色々と聞かれると思うけど。」

『むしろ、明日の方が聞かれるだろうね。あーあ、お礼はミスドのドーナツでいいからね。』


 百合子は甘いものが大好きで、ミスドも大好きだ。


「分かってるわよ。奢らせていただきます。」

『サンキュー。それにしても、なんだかんだあんたたちが仲良さそうで良かったわ。』


 百合子は百合子なりに、私たちのことを心配してくれているらしい。まあそうでないと、きっと、噂の対応だってやってくれないよね。


「ありがとう。百合子も、なにかあったらすぐ言ってね。すぐ助けるから。」

『ありがとう。』


 私は本当に、良い人と親友になれたと思う。百合子が味方でいてくれれば、なにがあっても心強い。私も百合子にとって、そういう存在であり続けたいと思うのだ。


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