おまけ②
千尋と何かあったかもしれないと言っても、私が春日さんと中学の同級生であることに違いはない。普通は元カノとお茶なんて絶対にごめんだけれど、今日は色々と話をしてみたかった。
そもそも、現在の彼女である私に、春日さんの方から“お茶しよう”って誘ってくるってことは、千尋の彼女である私に用事があるってことだ。
だとすれば、受けて立つしかない。
「チーズケーキセットと、フォンダンショコラセットをお持ちいたしました。ごゆっくりっどうぞ。」
春休みも終盤のある日、私と春日さんは近くの喫茶店へと来ていた。私はフォンダンショコラと紅茶のセット、春日さんはチーズケーキと珈琲のセットを頼んだ。
対して仲良くもないのに、“美味しいね”なんて言いながらお茶を飲む。
「……恩田くんから、私のことってなにか聞いてる?」
意味ありげな様子で、先に話を切り出したのは、春日さんだった。こんな言い方をするということは、春日さんが千尋の元カノで確定だろう。
「特に。同じクラスだったということだけ。」
私は満面の笑顔を貼り付けて、そう言った。
「そうなんだ……。実は、今の彼女の山崎さんに言うことではないかもしれないけれど……。私と恩田くん、中学の頃に付き合ってたの。」
うん。でしょうね。
「そうなの。知らなかった。それで?」
「この間……図書館で久しぶりに恩田くんに会って、吃驚しちゃった。中学の時よりもかっこよくなってるんだもん。あ、でも心配しないでね。山崎さんから横取りしようなんて、考えてないから。」
やっぱり、図書館で春日さんと千尋は顔を合わせてたんだ。千尋はなんでもないような素振りをしたけれど、「あんまり変わらない感じだったよ。」っていう返答に、ひっかかっていたのだ。
「恩田くんと山崎さんって、どっちから告白したの?」
「一応私だけど……。」
「やっぱり!山崎さんって、恩田くんのタイプな感じじゃないもんね。」
自分の方が千尋のタイプとでも言いたいのか、春日さんは笑顔で刺々しい言葉を吐き続ける。
「まあでも、今は千尋の方が私にメロメロだけどね。」
「そうなんだ。私のときは、恩田くんの方から告白してくれたよ。」
「へえーーーーーーーーーーーーーー。」
だからなんなの?自分の方が勝ってるとでも言いたいの?
「恩田くんって、清楚な感じの女の子が好きだもんね。」
「そうだね。それは昔からそうかもしれないね。」
「山崎さんは恩田くんの昔を知ってるの?」
「家が隣同士の幼馴染だからね。昔どころか、生まれたときから知ってるよ。」
私のパンチが効いたのか、春日さんは「そうなんだ。」と唇の端を引きつらせながら笑っている。
誰が攻撃されたままでいるものですか。
「じゃあ山崎さんは、ずっと恩田くんのことが好きだったの?」
頬杖をついて、身を乗り出して、春日さんはそう質問をしてきた。
ずっと千尋のことを好きだったか。そんなの決まってる。ずっとずっと好きだった。だけど、寄り道もした。空白の期間だってあった。
だけどそんなの、どうして春日さんに言わなきゃいけないのか。なんで私がここまで、春日さんに詰められなきゃいけないのか。
沸々と怒りがこみあげてくる。春日さんに対しても、千尋に対しても、自分に対しても。
「……春日さんは今でも千尋のこと好きなの?」
「そりゃあ、一度は好きだった人だもん。普通に好きだよ。でも、今は山崎さんが彼女なんだから、もっと自信持ったらいいと思うよ。そうだ!恩田くんの好きなタイプにちょっとでも近づくとか。」
「千尋のタイプ?」
「そうそう。清楚系が好きな恩田くんだけど、実はショートヘアーとか好きなのよ。付き合ってるとき、“春日さんはショートヘアーにしないの?”って聞かれたことあるもの。」
「それは初耳だなあ。」
私は精一杯にこにこと笑いながら春日さんとお茶をした。美味しいはすのフォンダンショコラは、ただ口に運ぶだけで何も味がしない。
「山崎さんって、ショートヘアーも似合いそうだもん。恩田くんもきっと、新鮮な気持ちになれて、惚れ直しそう~。」
「えー?そうかな?じゃあ、ショートヘアーにしちゃおうかな~。」
彼のすべてを知る必要はないし、千尋が言いたくないことは基本的に言いたくなるまで言わなくていいと思っている。
だけど。
どんなに言いたくないことであったとしても、必要になったときには言わなきゃいけないと思う。
これから信頼関係を築いていくにあたって、それはとても大事なことであると思うのだ。
千尋が言ってくれた“もし僕と蓬さんがずーっと一緒に居るなら、あと70年間くらい一緒に居れることになるじゃない?という言葉。”
それを実現するために、1個1個二人で乗り越えていかなきゃいけないことがある。
私は春日さんと別れた後、いつも行っている美容室に駆け込んだ。
「蓬ちゃんいらっしゃい。今日はどうする?いつもみたいに毛先のお手入れ?」
「いいえ。今日は、ショートヘアーにしてください。」
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