おまけ②

 16時になり、百合子たちと一緒に待ち合わせ場所である出口付近で立っていると、千尋たち一行もこちらに向かってやってきた。


 一臣とちゃんと話ができたか心配していたけれど、一緒に楽しそうに歩いてくる様子を見れば、その結果は一目瞭然だ。しかもなぜか男子は、一臣のクラスの班と合体している。


「ごめん、待ったー?」


 ヘラヘラと笑いながらではあるものの、きちんと私たちに向けてその言葉を発することができるのは大地で、こういうところがリーダー気質だよなあと思う。


「待った。待ったからお詫びになんか奢って。」


 そんなに待ってもいないけれど、雪の積もる中で立たされたままというのは、そんなに気分がいいものじゃない。しかも私たちはきちんと防寒をしているものの、ミニスカートよろしくでやっている。


「ごめん、ごめん。じゃあ夜ご飯は、何か温まるもの食べに行こうか。そこで女子にはデザート奢っちゃる。」


 大地のその一声に、私たちからは「やったー」と声があがる。「どこに行くー?」という話が始まったので、私はその隙にこっそりと千尋の隣へと移動する。


「千尋。」

「蓬さん。」


 嬉しそうな顔が、私を温かく見つめる。


「……話、できた?」

「できたよ。ありがとう。」

「私は何も。」


 私は千尋がよかったならそれでいい。


「……蓬さん、夜ご飯終わった後、ちょっとだけ時間いい?」

「うん?」

「なんだかんだで蓬さんと2人きりって、中々なかったから。みんなと少し時間ずらしてホテルに戻ろうよ。」

「!……うん。」

「じゃあ、決まりね。」


 千尋の言うように、私と千尋の修学旅行は友達に振り回されっぱなしで、2人だけの時間ってそんなにとれなかったように思う。お土産を一緒に買ったくらい?


 お揃いのマリモのキーホルダーは、家の鍵に早速つけただけで満足していたけれど、千尋がもっと一緒に時間を過ごしたいと思ってくれていたことが嬉しい。






 夜ご飯はみんなでぱーっと焼肉を食べた。みんな育ち盛りだからか、修学旅行という非日常的空間だからか、たくさんの量を平らげた。


 特に男子グループは目玉が飛び出るくらいの量を食べていたように思う。大地は約束通り、デザートを奢ってくれた。


 みんなと食事をした後、私と千尋だけグループの輪から離れ、札幌の雪道を2人で歩く。しゃくしゃくと音が鳴るのも、北海道に来てからのこの4日間でだいぶ慣れた。


「蓬さんは修学旅行、楽しかった?」


 明日はチョコレートファクトリーの見学が終われば、それで帰りの飛行機へと向かうことになっている。


「うん。とても。千尋は?」


 色んなことがあった修学旅行。千尋は親友と気まずい関係になるという初めての経験もした。楽しかっただろうか。


「……うん。僕も楽しかったよ。」

「本当に~?」


 千尋が本心から言っているかどうか、思わず探ってしまう。


「本当だよ。……一臣くんとのことも、結果的にはよかったって思ってる。より、友情を深められたというか。」

「そっか。雨降って地固まる的な?」

「うん。そういう感じ。」

「そっか。」


 だったらいいや。喧嘩するのも、友達の醍醐味ってやつだし。まあ、千尋と一臣のは喧嘩っていうより、一臣が一方的にすねただけだけど。


 しかし、夜の札幌は寒い。陽が落ちるのも私たちの地元より何時間も早いし、雪に囲まれた道を歩くのは、想像以上の寒さだ。


「蓬さん。マリモのキーホルダーってもう着けた?」

「うん。着けたよ。」


 心と別れて部屋についてからすぐに着けた。だって私の宝物だから。


「どこに着けた?」

「家の鍵。」

「そっかあ。じゃあ僕もそうしよう。」

「千尋の良いものに着けたらいいのに。」

「だって蓬さんと同じものに着けていたいから。」

「……そっか。」


 ふいにそんなことを言われると、照れてしまう。でも、私の鼻の頭と頬が赤くなっているのは、この寒さのせいだ。


「蓬さん。僕はいつも蓬さんに与えてもらうばかりで、何も返せてなくて。でもいつも、感謝の気持ちで一杯だよ。」

「なに、急に。」


 隣を歩いていた千尋が急に足を止めたので、足を止めて振り向く形になる。


「どうしたの?」


 私がそう聞くと、千尋は私に可愛らしい手提げを差し出した。


「蓬さんに、プレゼント。」

「え……。」

「小樽で、可愛いなと思って買ったんだ。喜んでもらえると嬉しい。」


 昨日行った小樽には、可愛いものがたくさん売られていた。オルゴールも素敵だったし、ガラス細工も素敵だった。自分用に可愛い置物は買ったけれど、千尋へのプレゼントは考えていなかった。


「私、何も用意してないよ。」

「いいよ。僕が蓬さんに贈りたかったんだ。」


 なによ、その少女漫画のヒーローみたいなセリフは。でももしかしたら、ずっと千尋が憧れていたシチュエーションなのかもしれない。


「ありがとう。開けてもいい?」

「うん。」


 札幌駅の大きな時計がキラキラと輝いている。なんで千尋が急に止まったのかと思ったけれど、通行人の邪魔にならないところっていうのもあったかもしれないけれど、札幌駅のロマンチックなところっていうチョイスもあったのかもしれない。


包みを大事に開けてみると、中から出てきたのはガラス細工のピアスだった。フックピアスになっていて、宝石のようなキラキラとした丸い透明の球体が揺れている。


 球体の中には、赤い色のお花とラメが入っている。


「……っ。」


 可愛い。可愛いしなにより、千尋が私に似合うと思って選んでくれたと思うと、言葉にならないくらい嬉しい。


「どうかな?蓬さんに似合うなって思ったのと……。赤い花は好きな人に贈る色だから。」


 もう、なにそれ。本当に少女漫画の読み過ぎなんじゃない?


「……ありがとう。すっごく嬉しい。」


 私が千尋の顔を見上げると、千尋は照れくさそうに笑った。千尋の耳まで赤かったのは、この寒さのせいだということにしておこう。


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