おまけ②

 修学旅行の醍醐味といえば、ホテルでの宿泊。そして、秘密のガールズトークに花を咲かせるしかない。


 私たちの部屋は4人部屋で、メンバー私と百合子と吉永さんと松島まつしまゆりかだ。松島はバレー部で部長をやっており、活発な女の子だ。


「なんかこの4人で同室って、異色って感じだね。」


 部屋に着くなり、そんな言葉を発したのはゆりかだった。ゆりかは中学からの同級生で、同じクラスになったのは高校になって初めてだ。


「ゆりかが言う?というか吉永さん、居づらくない?大丈夫?」


 私は吉永さんを心配して声をかけた。いつもは花村さんとか大人しい感じの子たちと一緒に居る吉永さんだから、居づらいと思っているかもしれない。


「ありがとう。大丈夫だよ。それに、3人とも見てたら楽しい人ばかりだし。」

「ちょっと待って吉永さん。見てたら楽しいに、私も入るの?蓬とゆりかは理解できるけど、私も入るの?」

「いや、百合子も入るっしょ。だって、百合子居なかったらツッコミ不在だもん。」

「えー。」

「ふふふっ。」


 良かった。意外と楽しくやれるのかもしれない。そもそも、吉永さんは一臣とも仲良くしているし、大丈夫なのかもね。


 そんなことを思っていると、コンコンと部屋をノックする音が鳴った。


「はーい。」


 出てみると、そこに立っていたのは心だった。


「どうしたの?」

「ちょっと蓬にお願いがあってさ。」


 時間を確認すると、まだ夕食まで1時間ほど時間がある。


「じゃあちょっと、外で話す?」


 頷く心を確認してから、同室の3人に少し心と話をしてくると伝えて、部屋を出た。そして、あまり人の来ないような非常階段へと行く。


「どうしたの?」


 あまり時間もないため、すぐに心に主題を投げかける。


「……実は、この修学旅行で一臣に告白をしようと思って。」


 割と心変わりの早い心だけど、今回は一臣に未だに片思いをしていたらしい。


「一臣のこと、本気なんだ。」

「……相手にされてないのは分かってるんだけどね。でも、どこかで自分の気持ちに区切りをつけたいと思っててさ。なんか、こんな風に自分から告ろうとしていることさえ、実は初めてかもしれない。」

「そっか……。で、なんで私にお願いなの?」


 確かに心と同じように一臣と仲がいいものの、修学旅行は基本的に同じクラスや同じ班で行動することが多い。だから、もし協力をお願いするのであれば、一臣と同じクラスの子に頼む方がいいような気がする。


「蓬っていうか……。恩田にお願いしたくてさ。恩田に協力してもらって、一臣と2人で話せる時間が欲しいの。」

「ああ、そういうことね。それで、千尋にお願いするのに協力をしてほしいってこと?」

「そういうこと。だって、私が恩田と2人で修学旅行中に会ったとしたら、どんな尾ひれがついた噂が回るか分からないじゃん。」

「それも確かに。」


 修学旅行中はみんながハイになっているだけあって、ないことないことの噂が立ちやすい。だから、こういう告白みたいなことは、慎重にやった方がいいのだ。


「でもそれじゃあなんで、修学旅行中に一臣に告白しようと思うの?」


 それを分かっている心なら、修学旅行を避けて一臣に告白をするはずだ。


「……実は、雄一に告白されてさ。」

「え?!?!?」


 私は驚きすぎて、思わず大きな声が出た。そのため、心から「しーっ!」と注意をされる。


「ご、ごめん。驚きすぎて。雄一って心が好きだったの?」


 めちゃくちゃチャラくて平気で色んな女の子と遊んでいる雄一が、心に告白したなんて信じられない。


「……本当は少し、雄一に心が揺れてるの。雄一にはね、一臣が好きなことを話して、その上で雄一にも惹かれてることを正直に話したんだ。そしたら、当たって砕けてこいって言ってくれて。修学旅行中に一臣に告白することを約束してるの。だから、どうしても気持ちの整理をつけるためにもと思って。」

「そうだったんだ……。」


 意外過ぎて、それ以外の言葉が出ない。でも、心にそんな風に言うってことは、きっと雄一はそんな心も含めて好きなのだろう。


「分かった。私が千尋を呼び出すから、お願いは心からするっていうことでいい?」

「もちろん。ありがとう、蓬。」


 望みの少ない告白を、あえてするって心はすごいなと思った。でも、自分の気持ちをちゃんと知って欲しいってことでもあるのかなと思った。


 私が千尋に片思いしていた頃、そんなことを思ったことがあるから。


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