おまけ①

最近、千尋には女の子の友達ができた。私たちと同じクラスの吉永さん。千尋と一緒に文化祭の実行委員をやっていた。


 はじめは千尋と良い感じになってしまうのではないかとやきもきしたけれど、今は特になんとも思っていない。


 なんなら私の方が男友達多いしね。


 そんな中で、またもや千尋に困ったことが起きている。というのも最近、一臣のことを好きな女の子たちから呼び出しをくらっているのだ。


「ねえ、蓬は何か聞いてないの?恩田から一臣と吉永さんとのこと。」

「聞いてないよ。だから普通に友達なんじゃないの?」


 心も一臣と吉永さんの仲が気になっているみたい。付き合っていたバイト先の店長とは、文化祭が始まる直前くらいに別れたって聞いた。


 前の彼女の連絡先を消してなかったことで揉めたらしい。心曰く、「私が嫌だって思うことをする人とは付き合っていけない」ということだそうだ。


「どう考えても、普通の友達じゃないっしょ。さっき一臣に直接聞いたら、“友達は友達だけど、お前らとは違う友達だから。入ってこようとすんなよ”って言われたのよ。」


 千尋は絶対に教えてくれないけれど、あの3人が仲良くなったキッカケは、3人の共通の趣味があったからだと思っている。


 千尋の趣味といえば、少女漫画だ。意外だけど多分、一臣も少女漫画が好きなんだろうと思う。吉永さんと仲良くし始めてからの様子を見ると、そう考えると辻褄が合うなあと思うことばかりなのだ。


 それに、昼休みにベランダで少女漫画を読む千尋の隣には、私が居ることが多いけれど、私が居ないときには一臣と吉永さんの3人で盛り上がっている様子を見かける。


 それを見ると、恐らくというか絶対、3人とも少女漫画の話をして盛り上がっているのだろう。


 ただ、千尋の様子から察するに、一臣が少女漫画を好きって言うことをバレたくない空気を感じている。というかこれまで、仲のよかった私でさえそのことを誰一人として知らないはずだ。


 一臣の“入ってこようとすんなよ”は、“邪魔するなよ。”という意味も込められているし、“バレたくない”っていう思いも込められている気がする。


 違う友達っていうのも、見た目からして分かる。一臣も私たちも派手な外見をしているけれど、千尋と吉永さんの場合はそうじゃない。


 だから、“違う友達”という表現があったとしても、外野の私が聞くとそうおかしくない表現に聞こえる。


 でも、一臣のことを好きな心からすると、そうは聞こえないらしい。吉永さんが特別な存在って言っているように聞こえるらしい。


「絶対さ、今はただの友達でも好きって気持ちがありそうな気がするのよ。この間だって、2人きりで一緒に帰ってるの見たし。吉永さんだって、一臣に好かれたらまんざらでもないはずでしょ。」

「まあ……。一臣は顔も性格もいいやつだしね。」


 ただ、1度だけ一臣に違和感を覚えたことがある。人の恋路に協力するようなタイプではないのに、大地が私にアピールをしかけている頃に一緒に帰るように勧めたことだ。


 あれはまだ、一臣と千尋が仲良くなる前の出来事だったはずだ。


「私、恩田にも聞いてこようかな」

「え。千尋にも?」

「うん。だって、モヤモヤしたまま一臣にアタックするのも、なんか私らしくないし。一臣を落とすにはまず敵情視察でしょう!」

「まあ、聞かなくてもやもやするよりはいいかもね。」

「うん!じゃあ、行ってくる!」


 心はそう言うと、教室の自分の席でノートを広げている千尋に「恩田、ちょっとツラ貸しな。」と話しかけて、びくつかせていた。


 千尋にとってはきっと災難だろう。私と付き合っていることをみんなに話してから、大地や雄一たちと話している姿を見かけることも多い。


 初めは大丈夫かなって心配したけれど、楽しそうに会話しているから、そんな千尋を見るのも最近は楽しい。


 というか、うれしい。なんだかんだ言っても、大地も雄一も私にとっては大切な友達だから。だから、仲良くしてくれる姿を見ると、よかったなって本当に思うのだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る