おまけ②
目が覚めると、目の前に千尋の寝顔があった。しばらく動けずにそのままでいると、昨夜、大雨で千尋に泊まってもらったことを、寝ぼけた頭で思い出す。
千尋って、睫毛長いんだよなあ。
まだ目を瞑っている彼の頬に手を這わす。
千尋は、自分のことをブサイクとか地味とか思っているみたいだけれど、顔立ち自体はそんなに悪くない。友達が少ないのと、自分の世界を持っているから、みんな千尋のことを知らないだけなのだ。
だけど最近の千尋は、相変わらず一臣と仲良いし、大地や雄一とかとも仲良くなった。それで、同級生の千尋を見る目も明らかに変わっている。
それにこれから体育祭が終わって文化祭が始まると、今までは私だけしか知らなかった千尋の良さを、他の女の子たちも知るようになる。
……嫌だなあ。
ずっとずっと、千尋の瞳に私だけしか映らなければいいのに。千尋の視界に、私以外の女の子が映らない魔法があればいいのに。
「ふふふっ。」
すると急に、千尋が笑いを零した。私はそれに驚いて、千尋の頬からさっと手を引く。
「え?!起きてたの?!」
私がそう言葉を発すると、千尋が閉じていた瞳を開けた。まっすぐに私を見てくれるその視線に、胸が高鳴る。
「ごめん、あんまりにも穴が開きそうなほど蓬さんがじっと見るから。……おはよう。」
千尋の寝起きの掠れ声に、ときめきを隠せない。
「おはよう。よく、眠れた?」
「うん。蓬さんは?」
「眠れたよ。」
不思議な感覚だった。好きな人と抱き合って眠って、心臓はドキドキしているはずなのに、安心して眠れた。千尋と体を寄せ合うのが、心地いいって思った。
「今、何時かな?」
千尋はそう言いながら、枕元に置いてある目覚まし時計に目を向けるので、私も一緒に見た。時刻は8時30分。
お父さんとお母さんが帰ってくるにはまだ早いけれど、友達の家に泊まった棗は何時に帰ってくるか分からない。
それに、なんだかお腹もすいているような気がする。
「そろそろ起きようか。」
「そうだね。」
口ではそう言うけれど、お互いがお互いをぎゅーっと抱きしめる。
「……離れがたいね。」
千尋がそんな言葉をぽつりと漏らした。
……ああ、私って愛されてるなあ。
昨夜、私たちは体の関係には至らなかったけれど、付き合っているカップルがなんでエッチをするのかはなんとなく分かった気がした。
だってずっと、この千尋のぬくもりを感じていたいんだもの。
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