おまけ①

「えーっ。蓬と恩田ってまだやってないのー?!」


 午後から体育祭実行委員会があるため、別のクラスで実行委員の橋本心はしもとこころと一緒に、うちの教室でお昼ご飯を食べていた。


 そのときにお互いの彼氏の話になって、冒頭の言葉が心の口から飛び出した。心の彼氏は、バイト先の店長で28歳だ。


「……いいでしょ、別に。」

「いやー。不健康でしょ。だってもう、付き合って3ヶ月くらいでしょ?」


 心は私と同じようにギャルのような格好をしているけれど、格段に違うのは大人っぽいというところ。この間も26歳に間違えられたらしい。


「そうだけど。」

「男女っていうのはさ、体の関係があって初めて本物の関係になれるっていうかさ。私なんて、今の彼氏は一緒に朝を迎えてから付き合い始めてるからさー。体を繋げることで、愛されてるな、とか、愛してるな、とか感じれるわけよ。」


 “その”経験がない私にとって、心の話はいつも大人の話に聞こえる。


「蓬は恩田に抱かれたいって思わないの?」

「……抱かれたいっていうか、まずどうなったらそう思うのか分からないよ。だって初めてって痛いんでしょ?」

「あー。まあ、痛いけどさ。そこは痛いけど、それはみんな一緒だから。やっちゃえばこんなもんかって感じよ。」

「そうなの?」

「そうそう。でもさ、多分恩田も童貞じゃん。普通は男がリードしてくれるもんだけど、蓬も受け身なだけじゃ駄目よ。男の方がメンタルはデリケートだからね。1回失敗すると勃たなくなる人もいるし。あと、初めてのときは勃たなくて入らないとか、入ったけど中折れとかあるし。」

「そうなんだ……。」

「だからそういうときは、向こうが気にしないように優しく“今日はこうして寝るだけにしよ”とか言って、裸で抱き合って寝るだけとかね。向こうのメンタルがやられないように気を使ってやんなきゃいけないんだから。」


 知らなかった……。もし知らないままだったら、お互いに慌てふためいて悲惨なことになっていたかもしれない。


「ふーん……。心はいつも、いつやってるの?私も千尋も2人だけの時間ってあんまりなくてさ。」

「私はいつも一人暮らしの彼氏の家だからヤリ放題よ。2人だけの時間、この夏休みならあるっしょ。てかむしろ、あえてつくりなよ。お膳立てするのよ。そしたら恩田だって、彼女からのオッケーサインだって受け取りやすいんじゃない?」

「なるほどねえ……。」


 千尋がオッケーサインと受け取るかどうかは分からないけど、なるべく2人の時間を増やすっていうのはアリかもしれない。


「この夏休みの間に本物の恋人同士になっちゃいなよ!応援してるからさ!」


 心はそう言うと、私の背中をバシバシと叩いた。


 心の言う通り、体の関係ができれば本物の恋人同士になれるのなら、千尋とそういう関係になりたい。もっと、もっと千尋に近づきたい。


 だって多分……。千尋が私を好きでいてくれる気持ちよりも、私の方が気持ちは大きいから。


 千尋が私のことを好きでいてくれているのは、十分すぎるほど伝わってくるけれど、それでももっと欲しいって思うのは、私のワガママなのかな。


 

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