第2話 放課後デートと男子高校生

第2話 放課後デートと男子高校生

自慢じゃないが、僕は女性にモテない。それは、中学時代……いや、小学生の頃から変わらない。


しかし縁あって、一度だけ女の子とお付き合いなるものをしたことがある。それは、中学3年生の時の話だ。たった2ヶ月ほどのお付き合いだったが、僕なりに誠実にお付き合いをした。


少女漫画のような付き合い方をしたいと思っていたけれど、当時の彼女がそれを望んでいるのか分からなくて、とにかく拙い付き合い方をした。僕の唯一の淡い恋の思い出だ。


今思うと、本当に彼女のことが好きだったのか、よく分からない。


好きかどうか分からないまま付き合った思い出は、僕の心にしこりを残している。だからこそ、今は山崎さんへの自分の思いと山崎さんの僕への思いを大切にしたお付き合いをしたい。


「千尋、おはよう。」

「え、あ。おはよう。」

「もう、なんで寝癖つけたまんま家から出てくるのよ。」


朝、家を出ると、我が家の前で昨日できたばかりの彼女が僕を待っていてくれた。しかもちょっと背伸びをして、僕の寝癖を直そうと僕の髪の毛に触れている。


いい匂いだ。香水なのか洗剤なのか、彼女から香る匂いが僕の鼻をかすめる。……イケない妄想が僕を支配しそうだ。

 

「だ、大丈夫だよ。」

「大丈夫じゃないから。ちょっと頭、屈めて!」

「え。」

「いいから!」


山崎さんに強めに促されて、稲穂のように頭を垂れた。しかし、この姿勢は微妙につらい。


それもそのはずだ。僕は身長173㎝と男子の平均身長より少しだけ高いくらいだけど、山崎さんは女の子の中でも小さい方だ。


「山崎さん、1つだけ聞いてもいい?」

「なによ。」


僕の頭の上から山崎さんの声がするなんて、不思議な感じだ。姿勢はつらいけれど、髪の毛を触られるのは気持ちがいい。ワックスだろうか?化粧品のような良い匂いもする。


「君の身長はいくつ?」

「……150㎝だけど。千尋は?」

「僕は173㎝だよ。そっか。150㎝か。」


カップルの理想の身長差が15㎝から20㎝と言われている。それは、キスをしやすいとかハグしやすいとかが理由だ。少女漫画でもよく、カップルの身長差についての描写がある。


僕たちは身長差のあるカップルってことか。


「なによ。私が小さいと、なにかあるの?」

「カップルがキスをしやすい理想の身長差が15㎝くらいなんだって。」

「なにそれ。どこ情報。」

「少女漫画情報。」

「ふうん。はい、できた。」


つむじをポンと軽く叩かれたのを合図に、僕は頭を元通りに起こした。しかし、自分では何が変わったのかよく分からない。


「ほら。綺麗になったでしょ。」


山崎さんが見せてくれた鏡を覗き込むと、髪の毛を綺麗に整えられた自分がいた。


へえ。ワックスだけで、こんなにちゃんと整うのか。


「千尋はさ。元は悪くないのよ。ちゃんとすれば、ちゃんとカッコイイんだから。」

「カッコイイは言い過ぎでしょ。でも、こうしたら見れるもんだね。」


僕の朝の身支度は、顔を洗って歯磨きをしたら終わり。だから、寝癖はそのままに家を出ることも少なくない。まあ、ひどい寝癖のときは水で濡らしてドライヤーをかけるけど。


「このワックス、あげるよ。使いやすいから。」

「え。いいよ。山崎さんのでしょ。」

「私は他にも持ってるから。ていうか、いい加減にその“山崎さん”ってのやめてよ。」

「じゃあ、なんて呼んだらいいの?」


これがカップルの登竜門というやつか。相手のことをなんて呼びますかイベントが僕にもやってきた。


幼い頃は彼女のことを“蓬ちゃん”って呼んでいた。しかし、今の僕には女の子をちゃん付けで呼ぶのはハードルが高い。


「よもぎ。」

「!」

 

ちゃん付けよりハードルの高いYOBISUTE……!


「よ、呼び捨てなの?」

「うん。だって男友達だってそう呼ぶし。」


君の男友達は、なんだかチャラチャラい人でしょう。ああいう人種と一緒にされると困る……!


「ダメ?」

「っ!」


僕は口を金魚の口のようにさせた。


身長20㎝差って、すごい破壊力だ。山崎さんが普通に僕を見上げただけでも、僕にとってそれは可愛い上目遣いで、「ダメ?」って聞かれただけでも「おねだり」に見える。


「ダメじゃないけど……。」

「じゃあ、練習で呼んでみて?」


潤んだ瞳で僕を見上げてくる彼女が、あまりにも可愛い。


「よ……。」

「よ?」

「……蓬さん……で、勘弁してください。」


無理。無理過ぎる。僕は、あからさまに顔を真っ赤にさせたのが恥ずかしくて、両手で顔を覆って山崎さんから顔をそむける。


きっと、山崎さんには僕が赤面したことがバレてしまっただろう。


ああ、恥ずかしい。女の子の名前すらまともに呼べないなんて、かっこ悪い。こんなんで、少女漫画みたいな恋はできるんだろうか。


「仕方ないなあ。それで勘弁してやる。」


山崎さんの声色から、ニヤけているのが伝わってくる。


「……なにニヤけてるの。」

「だって嬉しいじゃない。千尋がそんな風に恥ずかしがってくれるの。私のこと、意識してくれてるんだなって。」


ずっと。少女漫画みたいなドキドキする恋がしたいって思っていた。だけど、実際にドキドキすることをしたら、こんなに大変なんだって思わなかった。






「ねえ千尋。千尋のしたい少女漫画みたいな恋って、具体的にはどういうの?」


昼休み、いつものようのベランダでブックカバーをかけた少女漫画を読んでいると、蓬さんからそんな質問をされた。


僕ってゲンキンだなと思うのは、一昨日まで昼休みにまとわりつく蓬さんが煩わしかったのに、今日はそうでもないことだ。


中庭の木々を揺らす5月の風も、どこか爽やかに感じる。


「具体的にって言われても……。しいて言えば、少女漫画でよく出てくるカップルのような付き合い方はしたいかな。例えば、放課後に一緒に帰ったり、休日はデートに行ったり。」

「それって普通のカップルがやることじゃん。」


た、確かに。


蓬さんにばっさりと切り捨てられて、僕は一瞬、たじろぐ。


「なんかないの?これぞ、少女漫画の王道みたいな。」


そう聞かれると、難しい。


僕は腕組をして、少しだけ考える。蓬さんに言われて気づいたけれど、少女漫画で描かれているシーンはどれも普通のカップルがするようなことばかりだ。


そのありきたりな中にある、少女漫画らしさとは……。


「僕、君だけのイケメンでいたいのかも。」

「どういうこと?」

「少女漫画に出てくる主人公の相手役の男の子って、みんな主人公のことだけを特別扱いするんだよね。みんなにイケメンって思われなくていいから、好きな女の子だけにイケメンって思われたいっていうか。」


少女漫画に出てくる男の子は、イケメンが多い。だけど、イケメンってだけじゃ少女漫画を読むような人はキュンとしない。


そのイケメンが、「私だけに見せるイケメンな仕草」があるからこそ、少女漫画を読む人をキュンとさせるのだ。


例えば、壁ドンなんかがいい例だ。


少女漫画に出てくる男の子は、誰にでも壁ドンをするわけじゃない。「主人公だけに」してくれるのだ。


「ちょっとよく分かんないけど、私が千尋にキュンとすればいいって話?」


蓬さんはそう言って、小首を傾げた。


少女漫画のコマで表現すると、今の僕の状況は「きゅん」っていう効果音が似合う。しかも絶対に、ハートのトーンが貼られるような「きゅん」だ。


「蓬さんのキュンポイントは分からないけれど、蓬さんだけにイケメンって思ってもらえるように頑張るよ。」

「私も、千尋のしたいことが分かるように、少女漫画を読んで研究するよ。そういえば、昨日借りた漫画、早速読んだよ。」

「どうだった?」

「あんなにイケメンな男子って、実際にいるのかな?」

「そ、そうだね。」


そのイケメンな男子になりたいんだけどな。蓬さんをキュンとさせられるイケメンになれるのは、ほど遠いかもしれない。


「逆に、蓬さんはどんな付き合い方したい?」


僕ばかりの希望を叶えるのは、カップルが付き合うにあたってあまりよろしくないと思う。そして僕だって、蓬さんの希望を叶えたい。それが男の性ってものだ。


「私?私は、千尋と一緒ならなんだっていいよ。」


蓬さんはそう言って、僕に満面の笑みを見せた。


なにこの人の少女漫画の主人公のスキルの高さ。見た目こんなギャルなのに。そのつけまつげ、とった方が可愛いんじゃないかとか思うのに。


「そっか……。」

「うん。」


僕は少女漫画に目をやり、どうやったら蓬さんを喜ばせられるのかを考える。今のところ、僕の方が蓬さんに気持ちをもらってばかりだ。


「蓬さん。今日の放課後って、何かある?」

「ううん。今日は特に。」

「じゃあ、今日も一緒に帰ろう。放課後デートがしたい。」


憧れていた放課後に遠回りする帰り道。蓬さんは喜んでくれるだろうか。


「えっ。」

「えっ。ダメだった?」

「ううん。嬉しい。それに、放課後デートって響き、素敵。なんか、男の子の方からデートって言ってくれるのって、こんなに嬉しいんだね。」

「そうなの?」

「うん。」


蓬さんは、口元を両手で抑えて照れ笑いをした。


そうだ。放課後に一緒に帰るなら、待ち合わせ場所を考えなければならない。


蓬さんとこんな地味男な僕が付き合っているなんて知られたら、蓬さんが変な目で見られるかもしれない。


今朝は学校に着く直前くらいで、「トイレに行きたいから」と言って、他の生徒に見られる前に僕1人で学校にダッシュしたことで事なきを得た。


「じゃあ、裏門で待ち合わせしようか。」


裏門だったら、あまり人通りがない。僕たちが待ち合わせするのにうってつけだ。


「え?普通に一緒に帰ればいいじゃん。同じクラスなんだから、待ち合わせしなくていいでしょ。」

「だ、ダメだよ。みんなに変に思われるでしょ。」

「みんなって?」

「クラスの人とか、蓬さんの友達とか。」

「変ってどんな風に?」

「僕と蓬さんが仲良くしてるって思われたら、蓬さんが困ることになるよ。」


僕は蓬さんには笑っていてほしい。だから、僕と付き合っていることがみんなに知られることで、蓬さんからキラキラの世界がなくなるようなことは、あって欲しくない。


中学時代に言われた、心無い言葉が頭をよぎる。「恩田千尋みたいな地味男とは地球がひっくり返っても付き合わないでしょ」。キラキラの女の子やキラキラの男の子にとって、僕はいつもモブキャラなのだ。


「なにそれ。千尋は私と付き合っていることを恥ずかしいって思っているの?」


さっきまで可愛い笑顔を見せてくれていた蓬さんの顔は、一瞬にして曇った。


「違う。そうじゃない。」

「嘘。見た目がチャラチャラしている私と付き合ってるって思われるのが、恥ずかしいんでしょ。」

「そんなこと。」

「じゃあ、なに?」

「……とにかく、嫌なんだよ。」


僕がみんなの輪の中に入れないのはどうってことない。だってそれは、僕にとって当たり前にことだから。


「意味わかんない。もう、いい。」

「蓬さん!」


蓬さんは僕が呼び止めるのも聞かずに、教室の中へと入って行った。


どうしたらよかったんだろう。なんて言えばよかったんだろう。あんなに苦しそうな表情を見たのは、初めてだった。


もういいって、どういうことだろう?まさか、別れの言葉?え?昨日付き合い始めたばかりなのに?






午後からの授業の内容は、よく頭に入らなかった。僕にも心を乱される日がやってくるなんて、思ってもみなかった。


5限目と6限目の間にある休み時間に、普段学校では扱わないスマホを鞄から取り出して、蓬さんに「なんで怒ったの?」とメッセージを送ったけれど、既読無視された。


昨日のメッセージのやり取りでは、可愛いスタンプをくれたのに。昨日の僕たちと今の僕たちの温度差を感じて、余計に気分が落ち込む。


放課後の蓬さんはというと、HRが終わると、僕の方なんか目もくれずに教室を出て行った。少女漫画的な表現でいうと、まさに「ふんっ」って怒った態度を出して、教室を出て行った。


悲しい。僕と蓬さんの関係は、これで終わりなんだろうか。


放課後の誰もいなくなった教室で、僕は机に状態を突っ伏した。そして、今日の昼休みによく読めなかった少女漫画を、パラパラとめくる。そこには、一生懸命に恋をする主人公の様子が描かれている。


僕みたいな地味な男が、蓬さんみたいなキラキラな女の子に告白されて舞い上がったから、罰が当たったんだろうか。一瞬だけの夢物語だったんだろうか。


少女漫画は羨ましい。


でも、蓬さんも少女漫画の主人公のように、僕に好きって言ってくれたな。僕は少女漫画の主人公の相手役のように、蓬さんに気持ちを返せていただろうか。少女漫画の中には、何度も主人公とぶつかるけれど、主人公との関係を諦めないイケメンがそこにいた。


……君だけのイケメンになりたいって言ったじゃないか。


やっぱり少女漫画は、僕の教科書バイブルだ。少女漫画のやり方が蓬さんに通用するかは分からない。だけど、僕は蓬さんの彼氏でいたい限り、蓬さんのことを追いかけなくちゃいけないんだ。


僕は急いで少女漫画を鞄に押し込むと、勢いよく立ち上がった。机に収まっていない椅子もそのままにして、教室を飛び出した。


蓬さんは、もう家に帰ってしまっただろうか。裏門で待ち合わせをする話をしたから、裏門を通って蓬さんの家に行ってみよう。


廊下には不格好な僕の足音が響く。階段だってかっこよく降りられない。


恩田おんだー。走るなー。」

「す、すみません……!」


先生に注意されただけで、走るのを止めちゃうダサい僕。だけど、蓬さんを追いかけられない自分はもっとかっこ悪いから、僕ができることを僕なりに精いっぱいやろう。


裏門に着くと、門の陰に立っている女の子の背中が見えた。一瞬、蓬さんかなと思ったけれど、その後ろ姿は蓬さんのようで、蓬さんじゃないようにも見える。


今日の蓬さんは、ミルクティー色の髪の毛をパーマのようにくるくるにさせていたはずだ。しかし、裏門に立っている女の子は、ストレートの髪の毛をしている。


ミルクティー色の髪の毛の色をしているから、蓬さんなのかなとは思うけれど、違う人だったら恥ずかしいから、その後ろ姿に声をかけられない。仕方がない。顔を確認しよう。裏門を出て、その女の子の目の前にさしかかって、女の子の顔を見る。


……やっぱり、蓬さんだ。


「蓬さん。」

「……遅いよ。」


蓬さんの顔からは、つけまつげと濃いアイラインが取れていた。


「お化粧、変えたの?」


僕のその質問に、蓬さんは一瞬だけ肩を震わせる。


「……だって千尋は、清楚な女の子の方が好きなんでしょ。」


蓬さんは唇を尖らせてそう言った。


「え。そんなこと言ってないよ。」

「え?ギャルと付き合ってるって思われたくなかったんじゃないの?だから私と付き合っていることも、みんなにバレたくなかったんでしょ?」


蓬さんは、こんなに真っ直ぐに僕を思ってくれているのに、僕は自分のことを卑怯者だと思った。蓬さんがみんなに変に思われるのが嫌だっていうのも本心だ。だけど、自分に自信がないから、僕が蓬さんに似合わないって思われるのが、怖かったんだ。


それを心の底に隠して「蓬さんがみんなに嫌われるのが嫌だ」なんて建前で武装した僕は、なんて臆病なんだろうか。蓬さんは僕のために、こうやってポリシーを曲げてでも僕と向き合おうとしている。だったら僕も、それに応えなくちゃいけない。


「あのね、蓬さん。かっこ悪い話をしてもいい?」

「かっこ悪い話?」

「僕ね。トラウマがあるんだ。」


蓬さんの喉が一瞬だけひゅっと鳴った。聞いてもいいのか、不安そうな表情が見て取れる。


大丈夫。きっと蓬さんなら受け止めてくれる。


「僕ね。中学生の頃から友達いないし、地味でしょ。それは自分でも分かってるし、それが悪いことだなんて思っていない。」


僕はキラキラな人たちのグループが苦手だ。だから別に、自分を殺してまで苦手な場所に居るよりも、地味でも1人でいる方がいいと思っている。


「……中学生の頃に、クラスの女子の話が聞こえてきたんだ。“恩田千尋みたいな地味男とは地球がひっくり返っても付き合わないでしょ”って。もし僕と付き合ったとしたら、周りにバレるのが恥ずかしいとも言ってたな。別にその言葉を言った女の子のことが好きだったわけじゃないけど、その言葉を聞いてから僕は身の丈に合った人と付き合わなきゃいけないんだなって思った。」


もし僕が付き合うとしたら、僕と同じくらい地味な女の子と。周りが気づかないくらいの地味な付き合いをしなければと思った。実際、中学の頃に付き合った女の子は、僕と同じくらい地味な女の子だった。


「だから今、すごく怖いんだ。蓬さんはクラスの中心的なグループにいて、キラキラしていて。蓬さんが僕と付き合うことで、周りから変な目で見られるのではないかって思うと怖い。それに、僕は蓬さんに釣り合っている自信がないから、周りの人に似合ってないって言われるのも怖い。」


僕は自信がない。自信がないから、傷つく前に一歩引いてしまうのだ。


「……そんなの、私だって思ってるよ。」

「え?」

「千尋はクラスで成績が良い方でしょ。私は馬鹿な方だから。こんなんで千尋に釣り合うのかなって。」


蓬さんがそんなことを思っているなんて、思いもよらなかった。


「でも、そういうもんでしょ。大体。桜には桜、梅には梅の良さがあるって言うじゃない。千尋には千尋の良いところがあるから。それは、私がちゃんと分かってるから。ていうか、誰になんと言われようと、千尋の良さは私だけが分かっていればよくない?千尋と付き合うのは私なんだし。」


蓬さんはそう言うと、僕の右手の手首をつかんだ。


「ほら。もう、暗くなっちゃうよ。放課後デートの時間がなくなる。」

「え、あ、うん。」


蓬さんに引っ張られて、裏門の前から足を動かす。彼女の言葉に感動して、胸のときめきが収まらない。どうやったらこの気持ちを蓬さんに伝えられるだろうか。


「蓬さん。」

「なあに。」

「ありがとう。」


こんな僕を好きになってくれて。


「なによそれー。」


蓬さんは眉毛を八の字にして、何言ってんのよとでも言うかのように、顔を緩ませた。


やっと君の笑顔が見れた。


「お礼にコメダ珈琲を御馳走するよ。」


もっと蓬さんの笑顔が見たくて、そんなお誘いをしてみる。


学校と僕たちの家の間には、コメダ珈琲がある。もし、高校生の間に彼女ができたら、そこに一緒に行きたいと思っていた。


「え!いいの!」

「ただし、テイクアウトだからね。あと、飲み物だけ。夜ご飯が食べられなくなったらいけないから。」


本当は回り道をして帰りたかったけれど、西の空がマジックアワーを迎えているから、そういうわけにもいかなくなった。回り道の放課後デートは、また今度にしよう。


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