第11話

娘に連れられて新一は寺院の中へと入って行く。



娘に連れられて前庭を歩いて行く新一は、近くで寺院の建物を眺めた。

寺院の建物自体、門と同じ砂岩で出来ていた。古風と言うよりは…独創的な造りの建物で、木材を使っておらず…その上、不思議な文字が壁に刻まれていた。

寺院の入口に入ると、そこには絹で作られたと思われる紅い絨毯が轢かれていた。更に壁や柱には紅、青、黄…等で描かれた不思議な模様の装飾が飾られていた。


(宗教的な世界観だな…。異世界でも宗教の様な物はあるのだな…)


文化や秩序が成熟すれば、偉人を崇拝する者が出て来る…それが王となり、もしくは宗主となって民を束ねる事となる。そうしなければ国が成立しない…。

人類の歴史でも先人達が大移動して来た事も同じである。それを束ねる人が居て従う者が居たから出来た事…。自分達にとって住み良い環境を見付けて、そこに移住すると決めたのが、国へと成り立ったのである。


片田舎の寺院と思われたが…文化や社会秩序が成り立っている場所にあるとなると…相当な権威が施されている場所とも伺えると…新一は感じた。

そもそも…フィアナの母親が、自分から話すよりもこの場所に来させる事から考えて、神聖な場所とも言える。


「こちらで、お待ちください」


娘が手を差し伸べる先には広間があった。広間の先にある上座には祭壇が設けられていた。

娘は、新一に座布団の様な物を用意して座らせると…近くに居た別の女性獣人に声を掛ける。


「彼にお茶を用意して下さい」

「かしこまりました」


そう話して娘は何処かへと行き、女性獣人が新一にお茶を持って来た。


新一は、女性獣人を見ると、少し若く凛とした顔立ちだが…何処か新一を睨み付けている様にも感じた。

灰色掛かった髪で、ネコミミとシッポは、茶色にマダラの黒色の斑点があった。


「どうぞ、ごゆっくりしてください!」


少しトゲのある様な言い方で女性は言う。


「あ…はい」


女性は、そのまま何処かへと言ってしまった。

一人だけになった新一は周囲を見渡した。その時、ある壁画が描かれいる事に気付き、近くまで行って壁画を見た。


壁画には中央に美しい女性の姿があった。二つの太陽に照らされて輝き…銀色に伸びる美しい髪に、獣人とは異なるが頭部に出た獣の耳に、背中に翼が生えている。人間の様にも見えるが…人間とは違う何かが漂っていた。女性は片手に赤子を抱き抱えている。


更に…その女性の下には、三種の異なる獣人の様な姿と、人間の姿をした者…それと翼の生えた者…の計五人が、彼女を見つめて崇めている姿があった。


「不思議な絵だ…」


新一が何気なく呟いた…。


「天地創造の絵です」


いきなり後ろから声が聞こえて驚いた新一は、振り返ると…そこには背丈の低い少女が立っていた。

彼女は、黒髪にネコミミとシッポも黒く、頭部に金の装飾、美しい羽織りに身を纏っていた。


「我がラルテウス大陸に、神話時代から伝わる創造の女神…ウィシャ神。この大陸にいる五大種は、全てこの女神から産まれた子孫と言われています」

「そ…そうなの?」

「この絵の中央に居るのが…我等の先祖、アーメズ族です」


新一は、獣人達の一族の名前を始めて知った。

少女は新一を見て微笑みながら寄り添って来た。


「異世界の方には少々難しい話しかも知れないですか…?」

「え…!」


新一は驚いた表情で少女を見た。これまでアルティム族と言われ続けて来た彼だったが…初めて異世界の者と言われた。それも…初対面の相手に。


「ど…どうして分かったの?」

「私は未来を予見する事が出来ます、先日…こちらの世界と別の世界に穴が開き、貴方がこちらの世界に迷い込んで来るのを知っていました」

「僕が来る事を知っていたのですね⁉︎」

「はい…」

「じゃ…じゃあ、元の世界に戻るには、どうすれば良いのですか?」


新一の問いに少女は俯きながら、首を横に降った。


「残念ながら、今現在…貴方が元の世界に戻る方法は見つかりません…私の予見では、貴方はしばらくの間、こちらの世界で暮らす事になって居ます」

「そんな…」

「心配は無用ですよ」


少女は新一を見て言う。


「いずれ…そんな不安も忘れてしまいます。何よりも貴方は…アルゴンの月の娘が招いた人ですから」


その言葉を聞いて新一は、ここに来た目的を思い出した。


「そ…そのアルゴンの月とか…て言う、意味は何でしょうか?」

「知りたいのですね」

「ええ…是非とも、聞かせてください」

「分かりました、では…そちらに座って話しましょう」


少女は、座布団の上に手招きする。二人は互いに顔を見合わせる様な感じで向き合う。少女は、女性が運んでくれたお茶を軽く一口飲む。新一もそれを見てお茶を一口飲んだ。


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