第9話

フィアナの母と一緒に役所へと向かう新一は、青空の下…外に出て初めて気付いた事があった。

青空の向こう側…空には幾つかの小惑星が見え…僅かにモヤの様な物が見える。


(地球は、天の川銀河のチリの部分から外れた場所にあるから…空が済んで見えると聞いたけど…チリの部分にあると、こうも外が濁った感じになるのか…)


天文には少しウトい新一だったが、見える空が何時も見ていたのと違うと、少し驚きを感じていた。


母と一緒に村を歩いて行く新一は、あちこちで農耕をしてる獣人達の姿をチラホラと見かける。

母親は、すれ違う獣人達の何人かと挨拶を交わし、時折親しく会話をする光景もあった。

村を歩き続けて、新一が感じたのは…世界が変わっても生活する文化に大差は無いと、言う事だった。


母親が何かに気付き足を止めた。それを見た新一は、母親の向いている方を見ると、目の前に山があり、その上に異形の建物が一つ佇んでいるのが見えた。


「あれは…何ですか?」

「寺院よ、いずれ教えるわ…とりあえず役所に行きましょう」


母親は、そう言って再び歩き始める。しばらく村を歩き続けると、目の前に不思議な形をした小屋見たいな物が見えて来た。その場所に来ると母親が足を止める。


「この先が役所になるわ」


そう言って母親が立ち止まった場所には、小さな箱の様な建物だった。

新一が、それを見て直感で思ったのは、電話ボックスだった。

そう言っても過言で無いくらい小さな箱の前に二人は立っていた。


「あ…あの、役所は何処ですか?」

「この中に入った場所にあるわ…」


役所と言うから…立派な建物を想像していたが…、まさか電話ボックスが入口だとは、新一は予想もしていなかった。

箱の周囲を見渡すと、その周辺には何も無く、道端にポツンッと電話ボックスの様な箱が置かれているだけであった。


「行きましょう」

「はい…」


母親に連れられて、新一は電話ボックスに入る。

二人が入ると、母親は目の前の木製の扉にある、不思議な造形文字の盤を幾つか押す。木製の盤を押すと…目の前の扉が横に開き、その先に階段が現れた。


「ええー!」


新一は思わず声を出してしまった。


電話ボックスに入る前…周囲には、何も無かったのだが…扉が開くと、その先には階段が続いている。

一体…どんなカラクリになっているのか、知りたかった…。


「先へ行きましょう。遅くなると役所が閉まってしまうわよ」

「は…はい」


二人は、階段を上って行く。階段を上った…その先には様々な獣人達が書類書きに追われている光景があった。

いかにも役所と言う感じの光景を見た新一は、自分がいた世界とさほど変わらないのだな…と思った。


建物は少し古く、石壁の造りで覆われた建物で、天井が高く…目の前に二階三階の部屋があり、橋の様な廊下が複雑に絡まった感じで伸びている。


(一体…どう言った造形で作られたのだろう…?)


建築した人に建物の構造に付いて知りたいと思った。


「こっちよ…」


周囲に目奪われていたら母親が先に歩いていた。


「あ…はい」


急いで追い付く新一に母親が声を掛ける。


「あまり一人にならないでね。貴方は異国の人だから…ここで怪しまれると、色々と面倒になるわよ。現時点で貴方は、私達の籍に入って居ないから…捕まると、数年間牢獄に入ってしまうかもしれないのよ…」


それを聞いた新一は、ゾッとして…なるべく母親の側を離れ無い様にした。


母親が、ある手続き関係の場所へと向かい、その獣人の前で家で書き込んだ羊皮紙を出す。

目の前の獣人は、見た目は年配の男性の様な感じで、ヒゲを生やして、白髪でネコミミも真っ白だった。彼は虫眼鏡の様な物で羊皮紙を眺める。


「居候になる方は…?」

「こちらの方です」


母親が新一に手を差し伸べる。


「ふ〜ん…そちらの方はアルティム族では無いんだね?」

「似てますが…違います」

「成る程ね…アルゴンの月の少女の家に泊まるとは、これまた奇遇だな…」


(アルゴンの月…?)


年配の男性は、大きなハンを押した。それを後ろに回して…しばらくして別の羊皮紙が回って来た。


「はい、コレで…そちらの男性の入国許可は取れましたよ」


年配の男性は、そう言って羊皮紙を母親に渡す。そのまま男性は別の羊皮紙に目を向け始める。


「手続きが終わったから…もう自由よ」

「そ…そうですか?」

「私は、別の用があるけど…家に帰るなら、この羊皮紙を持っていた方が安全よ」


母親は、新一に手続き完了の羊皮紙を渡す。


「あ…あの、アルゴンの月って何ですか?」

「それを知りたの…?」

「まあ…ちょっと、気になったから…」

「そうね…気になるなら、さっき来る途中にあった寺院に行くと言いわ、そこで詳しく話が聞けるから…」

「教えてくれ無いの…?」

「私が説明するよりは、そっちで聞く方が正確だから…」


成る程…と思った新一は、羊皮紙を受け取る事にした。


「今来た道を戻れば、外に出れるわよ」

「分かりました」


新一は、母親と別れて来た道を戻って行く。

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