第7話
その日の晩…新一は夢を見ていた…。
大学を上位の成績で卒業した彼は、国立の研究所に配属された。
研究所に入った頃は、研究所の所長に目を掛けられて様々な論文を発表して、周囲からも注目されていたが…数年ほどすると、新しい若手が現れて自分の地位が後ろへと押され、いつの間にか、研究所では忘れられた存在になっていた…。
新一自身も毎日満員の通勤電車が日課だけの日々だと思う様になっていた。
時折り高校や大学で親しくなった友人からメールが来ると、周りの皆は結婚して家庭を築いて行くと…言う内容だった。新一は周りから取り残されて行く…と言う不安があった。
安物のアパートに一人で毎日帰る日々…仕事でもプライベートでも、周囲から取り残される不安の中、彼は大きな賭けに出た。
シンクホールの謎…近年、世界中で起きている、巨大な穴の謎に新一は挑む事にした。一説に石灰岩の侵食が原因とされているが…まだ、本当の理由は不明だった。新一は、地質考古学の1人として、原因解明に挑む事にした。しかし…彼は穴に落ちて目を覚ますと…そこは見知らぬ世界だった。
ー 翌朝
昨日、穴から落ちた後、新一は研究所に連絡していなかったので、スマホを取り出して画面を開くと…スマホは圏外になっていた。
(異世界なら使えなくて当然か…)
少し二日酔いの気分で新一は起きた。ベッドから起きると、部屋には自分一人だけだった。
「アレ…フィアナ?」
二日酔いで少し足元がフラつく中、食堂に行くと母親が居た。彼女は新一の顔をジッと眺めながら挨拶する。
「おはよう新一さん」
「おはようございます」
「昨夜は、あまり上手く行かなかったのね…」
「すいません…酔って、そのまま眠ってしまったようで」
「そう…見たいね」
母親は新一の顔を見ずに言う。
「フィアナが何か言ってたのですか?」
「まあ…あの子、不機嫌そうだったわね、私には特に何も言わなかったけどね…」
「そうでしたか…ところでフィアナは?」
「今日は学舎に行ったわ」
さっきから母親が、新一を見ずに話しをしていた。
「どうしたのです…さっきから変ですよ?」
「え…貴方、自分の顔を鏡で見ていないの?」
「へ…?」
「外に顔を洗うところがあるから見て来たら」
母親が手で口元を抑えながら、笑いを堪えていた。
新一は顔を洗う場所に行き、鏡で自分の顔を見ると…墨の様なインクで顔に文字らしき落書きが描かれていた。
「フィアナのヤツめ〜…」
新一は顔を洗って落書きを消した。
落書きを消して食堂に戻ると、母親がまだ笑っていた。母親は笑いを堪えながら新一の食事を用意する。準備が整うと新一は食事をしながら母親に話す。
「そんなに面白かったのですか?」
「あ、書いてある意味が分からなかったのね…」
「え…ええ、まあ…」
(寝る時は別室で寝かせて貰おうかな…)
食事が終わり、一息着くと…母親が風変わりなお茶を注いでくれて、新一はそれを呑んだ…落ち着いた気分になる、味のあるお茶だった。
「コレをどうぞ…」
母親が差し出して来たのは、銀色の木の実…翻訳の実だった。
「異国から来たのでしょう?外出中に周囲との会話が解らなくならない様に、朝食べて置けば、1日安全よ」
「この国の言葉になれるには…どの位掛かるのでしょうか?」
「まあ一ヵ月居れば大丈夫でしょう…」
「そう…ですか…」
新一は、翻訳の実を食べた。
「そう言えば…昨日、娘さんと家に来た時、何か怒っている雰囲気でしたけど…何かあったのですか?」
「まあね…家の近所に住む、あの娘の幼馴染みと身を結べって…私が、娘に行ったの…そしたら、あの娘怒って「家を出て行く!」なんて言ったの、じゃあ…出て行け…て私が言って、娘が戻って来た…と思ったら貴方と一緒だったのよ…」
新一は森でフィアナと出会った理由が何となく理解出来た。
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