第3話

「あ…ちょっと待って!」


竜神は、もう少しコッチの世界の事を聞こうと少女(?)に手を伸ばした、その時…うっかり足を躓き転倒した…その瞬間、彼は少女(?)のシッポを思いっきり掴んでしまった。


「キャアンッ!」


少女は、これまでとは違う声をあげた。


「あ…イテテ」


起き上がった竜神は、目の前で蹲っている少女(?)の姿を見付ける。

竜神は、自分が少女(?)のシッポを掴んでいた事に気付き急いで離す。


「ゴメン、大丈夫?」


少女(?)は、しばらく身動きできずにいたが…体を震わせながら起き上がる。


「ウウゥ…」


新一は、うっかり彼女の弱点であるシッポを掴んでしまった事により、再び彼女の平手打ちが飛んで来るかと身構えた。しかし…彼女の様子が少し変だった…まるで何か困っている様子にも思えた。その瞬間、無言で少女(?)は竜神に抱きついて来た。


「もう…貴方は、どうしてウチを困らせる事ばかりするのよー…」


少女(?)は、顔を竜神にスリつけて言う。


「どうしたの…急に?」

「私達一族は、シッポを掴む異性の感触が、無心になれる程の相手だった場合は、生涯その相手と一緒になる掟があるのよ…」

「ええー!」

「貴方がシッポを掴んだ感触が、すごく気持ち良かったわ…今までいろんな相手にシッポを触られた経験があるのだけど…こんな感覚になったのは生まれて初めてなの…」


煌めく瞳で少女(?)は竜神を見上げる。その顔は、恋に満ちた乙女の様に思えた。


「あ…でも、君の村には入れないのだろ?」

「フィアナと呼んで…さっきまでのウチの言葉は忘れて…」


初めて竜神は彼女の名前を知った。


「じゃあ…フィアナ、僕は竜神新一って言うんだ」

「では、新一様ね」

「新一だけでもいいけど…」

「分かった、そう呼ばせていただくわ」

「でも…シッポを触られ感触って、人によって違うの?」

「さっきのウチが捕まった姿を見ていて、分からなかったの?」


フィアナは頰を膨らまして言う。


「正直に言って触られる時の感覚は、人に寄って全然違うわね…私達種族はシッポが弱点であるけど…異性との関係を持つのに大事な役割を果たしているの…触った感触で、恋焦がれる相手を探すのよ。どんなに見た目が良い相手でも、シッポを触って貰った感触が不快な場合は、二度とその相手には近付かないわ」


フィアナの話を聞いて新一は、変わったしきたりがあるものだな…と、感じた。


「お願い…」


フィアナは、上目遣いで新一を見る。まるで物をねだる子猫か子供の様な表情だった。


「もう一度ウチのシッポを撫でて、さっきの感触が忘れられないのよ…」


フィアナは両脚を拡げてながら新一に接近して、腰のシッポを上げて新一の顔の近くまで伸ばす。

僅か数分前は「二度と関わらないで…」と、言っていた少女がシッポを触られた感触で…まるで別人かの様に新一に纏わり付き始める

恋愛経験の薄い新一だが…知人が「女性との付き合いは疲れる…」と言っていたのを思い出す。


(例え異世界であろうとも女は女である…と言うべきかな?)


新一は、何気なく少女のネコミミの頭を撫でながら、優しく彼女のシッポを撫で始める。


「アァン…ア〜ン…」


新一には分からないが…彼女の恍惚な表情を見る限り、相当気持ち良いのだろう…と思える。

フィアナは頰を紅潮させて、甘えん坊の子供の様に新一に抱きつく。体の大きな子猫見たいだな…と新一は思った。

ずっとこのままかと思った時だった…フィアナがネコミミをピクピク…と動かして何かに気付いた様子で顔を上げて周囲を警戒し始める。


「ヤダ…また、変なのが近付き始めたわ」


それを聞いた新一が辺りを見渡すと…。

シュルシュル…と、音を立てて何かが近付き始めている。


「さっきのヤツかな?」

「ええ…ウチも、さっきは油断して捕まったけど…場合によっては、餌食になって助からない場合もあるの…そう言う意味では、さっき助けて貰ったのは凄く感謝しているわ。ありがとうね」


フィアナが新一に礼を述べた事に少し驚いた、まさかここまで彼女の気持ちが変わるとは思ってもいなかった。


「色々と話したい事はあるけど…とりあえず、ここを離れましょうね」


フィアナが起き上がり新一の手を引っ張っる、2人は立ち上がるとフィアナが新一を連れて走り出す。

その直後だった、後ろを振り返った新一は、自分達が居た場所に勢い良く触手が飛び着いて来たのを見た。


「あんなに早く動けるのかよ!」

「急いで、コッチよ!」


フィアナは目の前の階段を指して言う。

その時、前方に触手が数匹(?)現れる。それを見たフィアナが手元に風の様な物を作り出して触手に向けて放つ。


グシャァッ!


得体の知れない生物は、一瞬にして散った。


「凄い能力を持っているのだね」

新一は驚きながら言う。


「両手が塞がって居なければ、先程もこの術が使えたのよ」


愛想笑いしながらフィアナは新一を連れて階段を上って行く。

しばらく階段を上って行くと目の前に大きな門が現れる、門の周辺は何処までも続いてる巨大な壁が連なっていた。壁を見ると大分年季が経過しているのが伺える。コケや草木の蔓…周辺に生い茂る木々等を見る限り、軽く数十年以上が経過しているだろうと…新一は考えた。

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