第3話 雨上がり
扉を開けなかった。
死んだのお姉さんの事なんて彼に聞いたって仕方がない、彼女とどう接点があると言ってもどうせ、私にはわかるわけがない。
雨の帰り道、雨は強さを増し私を傘越しに狙う、誰に何をどうすればいい……
もう私にはここまでしかできないのだろうか。
何も知らないのは確かに嫌だった、でもいくら知ったところで彼が死ぬ理由を止める事はできない、真相に近づけば近づくほど私は余計彼女に振り回されている気しか感じない。
「死なないで」そう一言お願いもできたはずなのに、私にはできなかった、真っ先に出てきたはずなのに、止められたように別の言葉が口から溢れる、どれも違和感だらけで、つくづく自分が嫌になる。
『朱音……林檎君……君たちは何を考えてるの…。』
返事を返して欲しい。
二人の事全然理解ができない、死ぬことを止めたいそれもある、でも死にたくなるようなそんな理由を知りたい。
中学生三年の春に彼女は死んだ。
死ぬ1日前、一度だけ放課後に彼のように夕焼けに照らされながら彼女が言っていた言葉を思い出した。
一つでもいい、私にそれを教えて欲しかった、でも彼から飛んできた言葉は死にたくなるような理由ではなかった、『人を待ってる』それだけ……
初めて話時もそうだった、ずっとそればかり……
暗くなった道にできた水溜まりを踏みつけ体が濡れるのも気にせず走り去った。
『死にたくないのに……』
それはただの気のせいだと思って今まで忘れていた。
あぁ、思い過ごしでもいい、彼女の想いに私は気づいてあげられなかった。
彼女は私の声に気づきあの時また気づけば口癖になっていたあの言葉を吐いた。
『明日は雨が降るかな』
**
嘘みたく晴れきった空が忌々しく見える。
気分が悪い、だから学校に行きたくない……気づけばとっくに登校しなければいけない時間を優に越していた。
今日もきっと彼はいない、また何処かで彼は死のうとしているのだろうか、いや別にだからと言って何だと言う。
私には関係ない。
彼女の死だって結局意味はないのだろう、別にいいんだ別に……
興味なんてない、考えるだけ無駄だ。
『死にたければ死ねばいい。』
どうせ誰もそんな事を教えてはくれない、誰もそんな彼らの事に興味なんてないんだ、死のうが死なないが他人の生き死にに所詮皆どうだっていいんだ、そう、自分だけ、自分だけが良ければそれでいいんだから……
理解だって死にたくなるような理由なんて私には関係ない。
どうだっていい
……
なんて、前の私ならそう言ってたのかもしれない。
嗚呼本当最低だよね。
朱音……貴女はそんな私が嫌いだったんだよね……。
家の中をひっくり返し、彼女の母から頂いた遺品の一つに彼女の日記が合ったことを思い出しそれを引っ張りだした。
今まで怖くて中々読めなかった……
震えた手で日記を開いた。
そこにはどんな言葉が書き残しているだろう、毎日が辛いだとか死にたいだとかそんな悲痛な叫び声のような物が並んでいるのではないかと怖くて仕方がない。
……
見慣れたはずの文字を見て目の奥が熱くなる、今にも溶けてしまいそうな程に熱くて痛い。そこにあったのは変わらず優しかった彼女の言葉ばかり……
思わず手で口を塞ぎその言葉に涙が溢れた、いつもの日常私と過ごした日々、疎遠になった片親や弟の事が綴られていた。
何処にもそんな叫びは見えなかった。
最後の文は滲み頁にシワが出来ている。
【明日の天気はどちらだろう。
雨だったらいいのになぁ、そうしたらまだみつねと遊べるし
もしも、晴れなら…でも晴れでもいっか。
そのほうが皆の顔がよく見えるもんね。】
苦しそうな言葉を濁らせ綴られた文に胸が締め付けられそうだった。
最後に書き残していた、弟らしき人物の名前に驚いた。
【そうだ久々に林檎君に会えるのが楽しみだな】
林檎……君、彼と彼女が姉弟そんな、でも年齢は一緒じゃあ、二人は双子……それなら今までの事だって納得できた。
日記のその先を読み、彼が彼女の死について知ってるのか、もしも知らないのなら彼は……もしも二人が本当に二人なら彼は絶対疑われている、勘違いをしている、身勝手な大人の繰り返すあの言葉に振り回されて……今すぐ、今すぐに彼に会わなくきゃ……会って止めないと……
こんなことになるなら、もっと早く読んでいればよかった、ごめんね。
だからあんな目をしていたんだね。
今更、後悔したって仕方がない、私は自室の扉を開け振り返ることなく慌てて外へ出た。
頭の中であの時の彼女の顔を思い出した。
悲しく変わり果てた彼女の姿を今も鮮明に思い出せる、あの声もあの言葉も……
【明日は雨が降るかな】
【明日【死ぬの】かな】
そんな意味があったなんて……
ごめんね……あぁ少し冷静になればそれくらいわかっていたじゃないか。
雨の日、あの時の彼女の言葉、彼の追い求めて問い詰めるような
晴れたら……晴れたら君は居なくなってしまう、雨なら死なない、自分の中でそう決まりを作って私達がやったようなゲームをあの子は一人でやっていたんだ。
頭が真っ白になり、冷静にそんな考えにたどり着いた。
死にたくない、でも死ななきゃやっていけない彼女はここに居たくない……そう思っちゃったんだね……朱音。
ごめんね……
でも、彼もそうだなんて思ってほしくない。
早く彼の元に一秒でも早く足を前に出した、学校に向かって靴を履き替える事も忘れ教室を無視し階段を駆け上がって行く、あの時のように手を伸ばして彼が止められる、そのうちに息を切らし無我夢中でここまでやって来た、屋上の扉はうっすらと開き、私はその扉に触れた。
貴方はそこにいる、貴女たちはそこにいる。
探し求めて諦めようとする貴方とゲームに負けた貴女が……
お願い……ここにいて……
次は必ず、いや絶対に伝えるんだ。
ここにいてほしいと一人で行かないで、扉を開き日の光が視界を奪う、貴方は必ずここにいる。
隣を空席にしたまま、彼女と同じ景色を見ているのだ。
『林檎君、迎えに来たよ。』
ーENDー
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