第27話 「やるときはやる」

 

 それを見た俺は、ニッと笑う。


『お? どうした? この光景が面白いのかダンナ? 趣味悪いぜ?』


 笑うと――が俺に言う。


『ちげぇよ……勇者は頑張った。最後まで足掻こうとしている』

『そうだな』

『俺は、役目を果たす』

『そうですかい。なら、俺は従うまでだ』

『丁度、結界で街の奴らには見られない。好都合だ』


 そういうと俺は一瞬でその場から俺の体のあるところに転位し、俺の身体に入る。


「お、おい、どうなってんだ!」

「勇者達が消えたぞ!」

「なにがどうなってんだ!?」


 冒険者達が突然消えた勇者達に驚いて騒いでいるが、俺は目を覚まして、固くなった身体を少し動かし、首の骨を二回鳴らしてから転位した。

 一瞬で転位し、勇者御一行の前に立つ。


「え……」


 ティアが抜けた声で言ってから俺は勇者御一行を囲む様に結界を張った。

 白い結界に俺は勇者御一行を包んでから、近付く。


「大丈夫か?」


 もう隠す必要も無くなった俺は丁寧に話すではなく、砕けて話す。

 俺を見た勇者御一行はキョトンとして、目を丸くしている。


「まぁ、驚くよな」


 当然の反応に俺はフッと笑いながら言う。


「な、あ、ど、どうして……?」


 ティアが驚きながらもなんとか俺に言う。


「そりゃあ死んで無かったからだ。そんなことより、全員その場でストップ」


 俺が言うと、その場で止まる。そこに俺はヒーリングを行い、勇者御一行を完全回復させた。


「す、すごい……」

「治ってる……」

「魔力も回復って……」

「どんな魔法だ……」


 それを聞いた俺はフッと笑うと、


「それより、どういう事ですか!」

「見てた」

「え?」

「空から俺がここに来るまでずっと見てた。泣いた事も、ギルドに行ってまとめ上げた事も、旗の力を使った事も、エンシェントリッチにダメージを与えた事も、しっかりと勇者らしく生きようとしてた事も、全部だ」


 俺が優しく全員に言うと、ティアが一歩俺に近付く。


「だから、そういう事を――って、あれ? 涙が……」


 ティアが気が抜けたのか、聞いている最中に涙を流し始める。俺はティアは微笑んでからティアを抱く。


「よく頑張ったな。だけど、大丈夫。君達は頑張った」


 優しくティアの耳元で言うと、


「う……あぁ……あぁあああ……」


 俺の胸の中で泣き出したティア。俺はルキナにおいでと手招きしてから、ルキナの頭を撫でる。


「ひッ……ぐ……うぅ……」


 ルキナも泣き出してから俺の右の肋骨辺りに顔を埋めて泣き出す。そこにフィーも左の肋骨辺りに顔を埋めて泣き出した。

 リンはその場で涙を流し、それを手で拭って俺を見て、


「おかえり、勇軌」


 俺はリンに微笑んでから、


「ただいま」


 優しく言う。その後、直ぐに俺にくっついている勇者三人を引きはがすリン。

 そして涙を拭き、俺は辺りにいるモンスター共を吹き飛ばす。


「言いたいことはあるだろうけど、今はアイツを倒そう」


 俺が言うと、スッキリしたのかいい顔になった勇者御一行は、


「「「「はいッ!!」」」」


 声を揃えて言った。それを聞いた俺は笑ってから結界を解く。

 周りに無数に存在しているモンスターに勇者御一行は武器を構える。


『何故だ……! 何故家畜の貴様が生きている!!』


 驚いて声を上げるエンシェントリッチ。俺はフッと笑う。


「何故って? 死んでないからな」

『ほざけ!! お前に掛けたのはディスペル不可能なレベルの魔法だぞ!』

「そうだな。そのレベルだ」

『なら、どうして貴様が生きている!!』

「確かにお前は俺に禁忌とも言えるデーモンカウントを放った。だが、その前に俺自身が死ねばどうだ? 死者に死ぬ魔法は効くか? 効かない、俺は死んださ」

『だったらぁ……!! 何故生きているとッ!! 聞いているのだぁああああああああああッ!!!!』


 怒号を俺に浴びせる様に言う。その迫力にモンスター共は怯んだ。


「幽体離脱。これなら俺は魂が抜けた事により、俺の身体は死んだ事になる」


 説明すると、勇者御一行はそれで納得した。

『ふざ、貴様ッ! そのスキルは一度死を体験したもので無ければどんな事があろうと、手に入る事がないのだぞ!!』

「あぁ、そうだな。だが、俺は一度死にかけて自身を頭上から見たことがある」

『そこまでの体験をし、私の固有結界に難なく入ってきた。いや、転位すら難しい事を簡単にやってこれる、貴様は何者だッ!!』


 エンシェントリッチが俺に指を差しながら言う。俺はニッと笑う。


「俺? あぁ、いいぜ? 答えてやるよ」


 俺は耳に着けている黒くて四角形を取って握り、黒い長弓をその場に出し、



「俺は八神将が一人! クリエイティス使いの真藤勇軌だッ!!」



 言うと、全員がその場で固まる。数秒後、エンシェントリッチは震え出し、後退る。


『は、八神将だと……!? バ、バカな! おとぎ話では無いのか!?』

「エンシェントリッチ、お前は俺の加護する領域で好き勝手してくれたな。俺は与えられた役目を果たさせて貰うからな」


 俺はエンシェントリッチに言うと、また少し後退る。


「や、薬師さん」

「今のは」

「本当……」

「なのか……?」

「嘘は言わないさ、なんなら……」


 俺は八神将の力を出し、黒髪から白髪になり、黒い鎧の様な物を装着した。


「本で見たことはあるだろう? この紋章を」


 この世界では昔話でクリエイティスの紋章を持つ者は、クリエイティスと言い伝えられて来ている。

 それを見た勇者御一行は事実だと分かり、その場で固まった。


「あー、この事は他言無用で」


 と俺が言うと、


『フハハハハハハハ!!!! だが、八神将。貴様はここで死ぬ』

「はー? なんで?」


 アホな事を抜かすエンシェントリッチに抜けた声で言う。


『ここは何処だ?』

「固有結界内だな」

『そうだ! それだけでは無い! ここには3000の私の兵がいる!! いくら八神将でも、この数は――』

「――御託はいい掛かってこい雑魚」


 人差し指を動かしエンシェントリッチに挑発しながら言う。


『殺せぇええええええええええッ!!!!』


 エンシェントリッチはモンスター共に言うとモンスター共は一斉に襲いかかってきた。

 俺は勇者御一行の周りに結界を張り、


「この兵は俺が片付ける。勇者御一行殿にはやってもらいたい事がある。それまではそこに待機」


 と言うと、


「それは無茶です!」

「そう!」

「3000よ!」

「無理があるッ!!」


 勇者御一行が俺に言うが俺はそれを無視してから、長弓を変形させる。

 レールガン様な物を腕に装備してから、周りに入るモンスターに黒いビームを放つ。 

 それを受けたモンスター共は一瞬で黒色のモヤとなってその場から消え、数百と俺達の周りにいたモンスターが消えた。


「なんか言ったか?」


 俺は勇者御一行に言うと、口を開けて驚いている。それを見た俺はフッと笑ってから後ろにいるエンシェントリッチの方を見る。


「この程度か?」

『舐めるなよ。そいつらは下級モンスターだ。次のは……上級モンスターだッ!!』


 エンシェントリッチはまた、魔方陣を展開してモンスターを召喚した。


『さぁ! いけ!! 八神将を殺せぇ!!』


 エンシェントリッチが言うとモンスター共は俺に向かって走ってくる。俺はレールガンの様な物を変形させ、長弓に戻して空に向かって放つ。

 その後、俺は再び構えて黒いビームを放った。それも先程より出力を上げて。

 極太い黒いビームに前線にいたモンスター共が黒いモヤとなって消え、数秒後に黒い魔力玉が空から降り注ぎ、モンスターの大半を消した。

 それを見たエンシェントリッチはまた後ろへ後退する。


『そん、な……バカなッ!! 3000の兵の中に私と同じ障壁を持つ上級モンスターが1000はいたんだぞ!! それを一瞬で……消し飛ばすだと!?』

「惜しかったな」


 俺は長弓を地面にして、エンシェントリッチに言う。


『なにがだ……!!』

「俺を足止めするのにあと3000は必要だったぞ? と言ってもあのレベルなら持って数秒だがな」

『こぉおのぉおおおおおおおおおおッ!!!!』


 エンシェントリッチは怒りをあらわにして、俺に怒鳴る。


『いけ!! 兵共! 奴を倒せば、一生不自由の無い暮らしを貴様らに提供しよう!!』


 エンシェントリッチがモンスター共に言う。だが、大半を失い残り900位のモンスター共を足を動かさず、その場に止まって怯えていた。


『どうした!! いけ!! でなければ、殺すぞ!!』


 圧政を行い、エンシェントリッチはモンスター共を強制的に動かそうとした。


「一つ言おう。貴様らモンスターに今から二つの選択肢をやる」


 そこに俺がモンスター共に二本指を立てて言う。


「一つ、この場から立ち去り二度と、俺の加護無いで悪さをしない事。二つ、今この場で私に立ち向かってくるか。俺はお前たちの賢明な判断に期待しよう。ああ、それと言い忘れていた……」


 俺はモンスター共を睨みつけると同時に殺意と気迫も同時に放ち、


「もし、俺の加護内でなにか悪さをした時は、一切の容赦はしない。その場で追い詰めて、追い詰めて、極限の絶望を与えて、殺す……!!」


 俺は言ってからニマッと笑顔になり、


「さぁ、決めてくれ」


 言った。すると、一部のモンスター共はその場から逃げ始めた。


『き、貴様ら!! 反逆行為だぞッ!! この、クソどもがぁああああああああああああああああッ!!!!』


 怒鳴ってエンシェントリッチは逃げ始めたモンスター共を皆殺しした。


『ハァ……! ハァ……ハァ……クソォオオオオオ!!!! 八神将ォオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!』

「おいおい、そんな怒んなよ。そりゃあ逃げたくなるだろ? 目の前に神様がいればな、それも3000だぜ? 3000のモンスターを俺は一人で大半を片付けたんだ、殺されるって分かってたらそんなとこに行くはずがないだろ。馬鹿かお前?」

『――ッ!! ガァアア!! クソガァアア!! 行けぇ!!』


 残った90ぐらいのモンスターは俺につっこんできた。


「指揮官をしっかりと信用している奴らが残ったのか、もしくは操られているのか分からんが。どちらも言える事は、愚かだよ。お前ら、勇気はあるかもしれないけどな」


 俺は長弓から剣に変え、モンスター共に向けて横ナギに一閃した。その瞬間、モンスター共の上半身と下半身が別れた後黒いモヤとなり消えた。

 それを見たエンシェントリッチは地面を思いっきり踏んで下に当たった大岩を砕いた。


『殺してやるッ!!』


 言ってエンシェントリッチは俺に突っ込んできた。そして魔力の刃を俺に振り下ろす。

 俺はそれを受け止めてから弾いて、剣を変形させてガントレットにしてエンシェントリッチの胴を殴り飛ばした。


『グォオオオオオオオオオオオオ!!』


 殴り飛ばされたエンシェントリッチはそのまま後ろにあった大岩に激突する。

 俺は振り返って、勇者御一行の周りの結界を解除して勇者御一行を結界の外に出す。


「いいか、皆アイツはもう障壁は使えない。それにこの空間は俺が支配した。アイツは自分の力だけで戦わなければいけない」


 俺の言葉を黙って聞く勇者御一行の武器に触れる。


「光属性のエンチャントだ。これで奴を倒してこい。アイツを倒すのは俺じゃない、君たち――勇者だ」


 俺が優しく微笑みながら言う。


「「「「はいッ!!」」」」

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