第21話 「不穏な影」
その後俺は村長の家を出て宿屋へ向かった。
「ハッ! イヤッ!!」
またこの聞きなれた声に俺は吊られ、聞こえた方へ向かう。
聞こえた所へ行くと、そこには旗を振り回していたティアがいた。
「どんなスキルが手に入りましたか?」
「あ、薬師さん! そうですね……槍術と棒術が同時に手に入りました。それと、新しいアーツも増えました」
「ほう、それはなんですか?」
光の大剣の事だろうと思うが黙っておく。
「スピリット・ブレイブと言うアーツです。光が集まって、凄い威力を出すんですよ! 薬師さんにも見てもらいたかったです」
「ハハハ、いずれ見れますよ」
「そうですね!」
それからティアは旗を槍の様に持ちながら俺と話す。
「それにしてもなんでしょうね。この旗」
「それは私にも分かりませんので、すみません。ただ言えるのは魔法武器と言うことだけですね」
「そうですね。でも、これなんか剣よりも使いやすいんですよね。それに何故が剣のスキルも使えるんです」
「ほう、それは本当に素晴らしい武器ですね」
「はいッ」
満面の笑みで答えるティアに俺は微笑む。それにしても剣に槍、棒と来たか。この武器は何だ?
と思った所でティアが欠伸をした。直ぐにハッ! と気付き、欠伸を隠す様にしている。
それをみた俺はフフと笑う。
「寝ましょうか。明日は早く出て明後日には着くようにしましょう」
「そうですね、すみません」
「いえいえ」
そういって俺とティアは宿屋に戻り、寝ることにした。
次の日の朝、俺達は朝早く起きて村を出ようとしていると、
「薬師さん、勇者の皆さん。どうかお気を付けて」
「はい!」
と勇者御一行が答え俺はそれを聞いてから、
「村長もお元気で」
村長に言った。
「最近は魔王軍の幹部がこの近くまで来ていると噂がありますので、どうか。どうか、お気を付けて」
それを聞いた俺達は片手を上げて、村を出た。村を出て数時間が経ち、街の近くまで来ていた。
今は午前11時、お昼時だな。と思う俺。
「皆さん、一旦お昼にしましょう。街はすぐそこなので」
「はいッ」
「ん」
「やった!」
「そうだな、いい時間だ」
俺が言うとそれぞれが答えた。俺は草の上にシートを敷き、そこに自分の荷物を置いた。
勇者御一行も自分の荷物を置いてシートの上に座り込む。
「はぁー疲れた。タコできそう……」
とだるそうにしながら言うフィーにフフフとティアが笑う。ルキナはシートに座るとボーッと空を見上げ、リンはたまに服そよ風に当てられながら髪がなびき、リラックスしている。
俺は鞄の中から箱をを取り出し、蓋をとってサンドイッチを取り出した。
「皆さんでどうぞ」
俺は予め用意しておいたサンドイッチを出して食べる。勇者御一行は俺の作ったサンドイッチを取り、食べた。
「あ、美味しいです!」
「美味しい」
「トマト最高!」
「うん、シャクシャクして
絶賛されながら俺はサンドイッチを口に運ぶ。うん、美味しいな。
と思う俺。そしてお昼ご飯を済ませた俺達は少しだけ休憩する。
「薬師さん、街に戻ったらどうするんですか?」
となりにいたティアが俺に話を掛けてきた。
「そうですね……マンドラゴラとミノタウロスの角と持っている材料を使ってレベルアップのポーションを作る。ですかね」
「……それで私のクエスト終了。ですね……」
「そうですね。ティアさんはどうするんですか?」
「私は、ポーションを貰ったら街を出て違う場所へ行こうかと思います」
空を見上げながら言うティア。俺はティアの顔を見てからフフと笑う。
「なにか悩みでも?」
俺に言われたティアはばつが悪そうな笑みを浮べながら俺を見る。
「バレちゃいましたか……流石、薬師さんです」
俺は微笑むと、はぁ……と一つ溜め息をつくティア。
「私、この旅が楽しかったんです。フィーと会って、ルキナと会って、リンとも会った。それで一緒に冒険もした。とても楽しかったです」
「……」
「それが終わってしまうと考えると少し寂しい、です」
と言いながら頬を少し掻きながら言うティア。俺は優しく微笑む。
「別にフィーとルキナさん、リンとは離れなくても良いと思いますよ? 貴方達は勇者なのですから。どうか、この世界を救って下さい勇者さん」
「はい! それは頑張ります。が……薬師さんはどうするんですか?」
ティアが俺に聞いてくる。俺はうーんと悩みながら考える。
「そうですね、とりあえず。あのお店で過ごしますよ」
俺はティアに答えると、ティアは何かを決意した様な顔つきでこちらを見る。
「あの! 私達と一緒にた――」
「――二人で盛り上がるのは良いけど、私達もいるって忘れないでね?」
割って入る様にフィーが俺とティアの間に顔を入れながら言う。
「も、もう! フィー! 大事な話をしようとしたんですよ!」
手を上下にブンブン振りながら可愛く起こるティア。
「アーハイハイ、どんな話なのー?」
「そっ、それは……」
言われたティアは何も言えず、目を逸らしながら言う。
「ほら、言えないじゃん」
「む、むぅ……」
と黙り込むティアに笑うフィー。そこへ、
「フィー、ティアをいじめるの良くない」
と言いながらルキナがフィーの首筋にナイフを押し付ける。
「じょ、冗談ヨォー! おほ……オホホホホホホー……」
棒読みになりがちながら言うフィーにルキナはナイフをしまう。
それを見ていたリンが静かに笑った。俺も吊られて笑う。
俺はこの時、本当に充実しているんだな。と思った。まさか、こんな日が来るとは思ってもいなかったからだ。
笑いながら俺は不意に街の方を見た。その瞬間俺は戦慄し、立ち上がる。
「……嘘だろ」
小さく俺は呟く。
「どうしたんですか? 薬師さん」
少し笑いながら言うティア。
「皆さん、急いで支度してください。街が大変な事になっています!」
「えっ……」
その後俺達は急いで片付け、街へ走って向かう。
向かうと黒い雨が降っていて、街の外にある外壁が半壊していた。
外壁を復旧する筈の職人達はそこにはおらず、外壁が半壊したままの状態で放置されていた。
この現状に俺達は戦慄する。
「これは、一体……なにが……」
あまりの光景にティアは驚きながら言う。
「……ギルドへ向いましょう」
俺は嫌な予感を胸に秘めながらギルドへ向かった。
ギルドに着くとそこは包帯の巻かれた冒険者達が集まっていた。受付のお姉さんが俺を見つけると、こちらへ走って向ってくる。
「薬師さん! 酷い怪我をした冒険者さんがいます! 手当してもらえませんか!?」
「分かりました! あと、治療しながらなにがあったのか教えて下さい!」
「はい!」
俺は酷い怪我をしている冒険者の元へ行き、治療を行う。それに付いてきた勇者御一行。
この状態を見た勇者御一行は戦慄していた。
「一体なにがあったんですか」
「じ、実は昨日突然魔王の幹部の一人がこの街に来て、この一帯を拠点とする。と言って攻撃をしてきたのです……」
受付のお姉さんは俺に説明する中俺は治療をしながら話を聞く。
「それで、攻撃されこの街にいた冒険者全員で立ち向かったっていう事ですか?」
「は、はい。その通りです……」
俺は歯を強く噛み、ギリッと音を立てる。
「幹部に対抗するには、上級冒険者30人パーティーの完全装備且つ、王都近衛騎士団とバリスタ2、魔導砲2の支援が無い限り勝ち目はほぼ無いのです……!」
俺は一人目の治療を終え、布をキツく結び固定させた。
「それでも冒険者達は、この街の人々と可能性があるなら倒そうとしていたのです。私達ギルドも防衛のクエストを出しました」
俺は二人目の治療に入りながら話を聞く。
「それでも無謀なのはあります……ちなみに、相手はなんでしたか?」
「エンシェントリッチです……」
俺はそれを聞いた驚き、勇者御一行は戦慄する。
「エ、エンシェントリッチ……」
「最上位種族……」
「魔力はリッチの何十倍と言われていて」
「近接戦闘も出来る。最上位アンデットか……!!」
勇者御一行は驚愕しながら言う。
「わ、私外に怪我人がいないか探してきますッ……!!」
ティアが言うと、勇者三人もそれに続こうとした。
「――ッ!!」
そして、俺は黒い雨で思い出す。
「皆さんッ!! 外に出てはいけません!!」
扉に手をかけた瞬間俺はなんとか勇者御一行を止める事が出来た。
「な、何故ですか!」
「今降っている黒い雨に長時間当たってはいけません。水滴もです。あれはブラックレインと呼ばれる闇魔法の一つで、雨にうたれている物を少しづつ破壊していく魔法なんです」
「じゃ、じゃあ、どうしたら!」
「落ち着いて下さい。魔力障壁を張れば効果は消えます。ただの雨に闇魔法を付与しているだけなので」
「分かりましたッ!」
勇者御一行は自分で障壁を張ってから外へ出てまだ、負傷者が居ないか捜索しに行った。
俺はその間にギルド内にいる怪我をした冒険者達を治療していく。
それから数時間が経ち、今は午後15時、ほぼ全員の治療を終えた俺とギルド内にいた医療スタッフ。
俺は椅子に座りふぅ……と一つ息をついた。流石に疲れた……。
俺だけで11人は診た。他のスタッフは俺以上に診ていた筈だ。そう思うともう少し早めに帰ってくれば良かったと心の底から思った。
「薬師さんはなにも悪くないですよ」
やつれた顔で言う受付のお姉さん。
「顔に出てました?」
俺も少し疲れながら言う。
「珍しく出てましたよ」
受付のお姉さんは優しく言う。そうか、俺そんなに顔に出ていたのか……。と思う。
「薬師さんは薬師さんのやるべき事があったのです。それを誰も咎めたりはしませんよ」
「……ありがとうございます」
俺は受付のお姉さんに言うと、同時にギルドの扉が勢い良く開かれた。
「おい! 雨が晴れてるぞ!」
「って、事はまさかッ!!」
「来たのか!!」
一人の男冒険者が言うと、それに反応した他の冒険者達は武器を取り、外へ駆け出した。
「な、何が……」
「来たんです……!」
「――! まさか」
「はい――エンシェントリッチです」
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