第20話 「ラビリンスケイブの宝」

 リン、ルキナ、フィーの治療を終え、ティアの治療をしているとティアが開かれた宝の部屋をみていた。


「何が入っているんでしょうかね?」

「何でしょうね? 私にもわかりません」

「そうですか、開けるのがたの――イッ!!」


 傷に染みたのか、声を上げてから我慢して声を殺す。

 そしてティアの治療を終え、俺はティアに魔法のポーションを渡した。


「飲んどいて下さいね」

「あ、はい。ありがとうございます」


 ティアに渡してから立ち上がり、宝の部屋を見ていると、


「意外とこのダンジョンは狭いのだな」

「ええ、そうなんですよ」

「攻略したことがあるのか?」

「昔に」


 リンが話を掛けてきた。それとアヌビスを倒した後、ラビリンスケイブ迷路が全て砂に変わりただ広い洞窟に変わり果てていた。


「圧巻だな」

「ですねー……昔からこうでしたから」


 砂に変わったダンジョンをリンとみていると、


「アッ!!!!!」


 何かに気づいたフィーが声を上げた。


「どうしたの? フィー」


 気になり、首を横に傾げながら聞くルキナ。

 フィーは少し青ざめた表情で俺らを見て、


「ミノタウロスの角……取ってない……」

「「「あ……」」」


 それから黙り込み、静寂に包まれる。


「あ、や、薬師さん……その……」


 ティアが今にも泣きそうな顔でこちらを見ている。

 俺はベルトバックをわざと漁った。


「おやーそういうば、なんか持っていたような気がするんですが、気のせいですかね」


 そういって俺はベルトバックからミノタウロスの角を落とす。

 勇者御一行はそれを見て驚く。


「そういえばダンジョンに落ちている者は、その人が拾ったらその人の物になりますからねー? それにしても何もないので私は宝部屋にいきますね」


 言うと、ティアの横を抜ける。歩き出す足音が聞こえ、ミノタウロスの角を拾いに行ったと判断した俺はそのまま進んだ。


「別に普通に渡せばいいんじゃないの?」


 フィーが俺の横に着いてから言う。


「責任感の強い人は、自分のミスで失った物を渡されるのは正直心に残り続けるんですよ。それならこの様な形の方がまだ、気が晴れますから」

「なるほど……てか、良く倒したね」

「まぁ、これくらいはどうにかしないと、私の役職はキツイですからね」


 話していると後ろから駆け足で近寄る音が聞こえ、俺はフフと笑い口元を緩めた。


「薬師さんッ」

「なんでしょうか?」


 呼び止められ、振り返る。そこには満面の笑みを浮かべた少女が立っていて、


「ありがとう、ございます……!」

「……なんのことですかね?」


 思わず頬を緩くしながら言った。

 それから全員で宝の部屋に入ると、そこは別空間のようで草やコケが生えていて、部屋の中心に光が差し込み、その下に金色の装飾が施された赤い宝箱が置いてあった。


「薬師さん、あっちに出口」

「ええ、ありがとうございます。あとで出ましょう」


 ルキナの頭をなでてから、俺は宝箱に罠が仕掛けられてないか確認して、


「罠も何もないので、どうぞ」


 ティアは目の前にある宝箱の鍵穴に鍵を差し込み、回す。

 そして、中に入っていたのは、


「……旗?」


 俺と一緒に見ていたフィーがが中を見て言った。


「なぜ、旗なのでしょうか?」


 俺は旗を手に取り、それを見ながら言うティア。


「なんででしょうね?」


 何故旗なのか俺にも分からない。とは言ってもこの旗、先端が鋭利に尖っていて刺したり切ったりも出来る様になっている。それに棒自体も硬く頑丈に作られていた。


「ふむ、面白そうだ。持たせてくれないか? 勇軌」

「どうぞ」


 俺はリンに旗を渡すと、受け取った瞬間にリンはなにかに弾かれた。


「え?」

「な、なんですか……?」

「障壁ですね……」


 俺の発言に全員が俺の方を見る。


「何で旗なんかに障壁が?」


 フィーが俺に聞く。てか、俺も分からないんだよなぁ……まぁ、これか?


「魔法がこの旗の中に入っているのでしょうね」

「魔法で作られた武器って」


 ルキナが地面に落ちた旗を見ながら言う。


「古代の帝国の武器」

「その素材はオリハルコンを使い、そして魔法を練り込んだ」


 ルキナが言うとフィーがそれに答える様に言う。

 人と魔具による戦争時代が昔にあり、その時に作られた帝国の武器。

 その性能はこの世界にある武器の性能に後れを取らない。と言われている。

 

「旗となっている布の素材はなんだ?」


 地面にある旗に巻かれた布の部分を見ながら言うリン。


「多分、魔法糸だと思います」


 俺がリンに答えてから、落ちている旗を俺は拾う。


「……勇軌は大丈夫なのか?」

「ええ、問題ないですよ?」

「そうか、私は多分合っていないんだろうな」

「可能性はあります」


 リンと話しているとティアが旗をキラキラした目で見ていた。それを見た俺はフフと笑い旗をティアに差し出す。


「持ってみてはどうでしょう?」

「い、良いんですか!?」

「はい」


 俺は微笑みながら言うとテイアは俺から旗を受け取った。それも弾かれる事無く。


「お、おぉ……!」

「ティア、私も持ってみたい」


 ルキナがティアに言うと、ティアはルキナに旗を差し出す。受け取ろうと旗に触れた瞬間、ルキアの手は障壁に弾かれた。


「じゃあ、私も触ってみるわ。……因みに弾かれると痛い?」


 触ろうとした瞬間にフィーはリンとルキナに聞く。


「いや、痛くはない」

「そうなの。じゃあ――」

「物凄く痛い」


 触れようとした瞬間にルキナがフィーに言う。言われた瞬間にフィーは物凄い速度で手を引っ込めた。


「危ないじゃん!! 嘘言わないでよ! リン!!」

「いや、嘘では無いが……」

「嘘、痛くない」

「嘘なのね!? そこなんで嘘つく必要があった!?」

「面白いから」


 無表情で淡々と答えるルキナ。それを必死に訴えるフィー。

 フィーは疲れたのかはぁ……と溜め息を付いてから旗に手を伸ばした。すると、リンとルキナよりも大きく弾かれ、フィーは手を抑えながらうずくまっている。

 そして、涙目でこちらを見てから、


「痛いじゃんッ!!」


 リンとルキナが爆笑しながらフィーを見る。

 ほんっとなんでこの子はこんなに不幸なのか……。可哀想だ……。と思っていると、フィーがこちらを涙目で睨みながら指を差して来る。


「今可哀想って思ったでしょ!!」

「い、いえ、そんな事は……」


 俺は直ぐにごまかす。すげぇ……完全に読まれたわ……。と思う。

 そんなフィーは手を抑えながら涙目で立ち上がった。


「とりあえず、その旗はティアと勇軌しか扱えないって事が分かったからそれでいいでしょ?」

「そうですね」


 ティアがフィーに応えると、持っている旗を見直すティア。


「一体なんの旗なんでしょうね?」

「多分武器として使われたと思いますよ」

「そんな感じですよね」


 俺はティアに答え、ティアは旗を少し振り回してから地面に旗を立てた。


「――え?」


 突然ティアの持っていた旗が小さくなり、鞄などに入る位の大きさになった。

 ここにいる全員が今の光景に驚きで絶句をする。


「……これは、本当に凄い物なのかもしれませんね」


 勇者御一行が俺の言葉に頷いた。その後俺達はラビリンスケイブを出て村に向かった。

 村に着いた所で俺は勇者御一行と一旦別れて俺は村長の元へ向かう。


「流石薬師さんだ。ラビリンスケイブを攻略してしまうとは」


 村長の家に着き、俺はラビリンスケイブの話をすると、村長は俺を絶賛する。


「いえ、私だけの力ではございません。勇者御一行のおかげですから」


 俺はラビリンスケイブの攻略を勇者御一行とがクリアしたと村長に伝える。


「っと言うことは、明日には出てしまうんですか?」

「はい、その予定です。ですので、こちら新しいお薬の補充って事でお渡ししておきます」


 俺は鞄に入れてあった薬とポーションを村長に渡すと、それを受け取った村長は、村長の妻に渡した。


「いや、本当に薬師さん。助かります。お金も無いのに、こんな小さな村にこれだけのお薬を……本当にありがとうございます」


 村長は足が悪いのにも関わらず立ち上がり、俺に頭を下げる。


「村長! 頭を上げて下さいッ! 俺はただ、自分のしたいことをしているだけですから!」

「そうかい? でも、本当に感謝しているんですよ」


 そういうと村長は杖をつきながら椅子の後ろに置いてある戸棚から数枚の紙を俺に渡してきた。


「これは?」

「うちの村の子供たちからだ」


 俺は手紙を受け取り、その内容を読む。


「薬師さんのおかげで、お外に走れるようになりました。ありがとうございます」

「……本当にありがとうございます。薬師さん」


 村長の言葉に俺は微笑み、


「はい」


 優しく俺は答えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る