第19話 「ラビリンスケイブ~その5」

 

 風花雪月をアヌビスへ放ったリン。しかし、


「グッ!!」


 障壁が復活していて、リンの攻撃が通らずにいた。

 そこへアヌビスが片手にクノペシュを召喚してリンへ振り下ろした。

 瞬時に構えるリンだが、直ぐにその場から引く。


「流石に、あの威力は受け流しはキツイものがある……!」

「私もブロッキングがキツイです……」


 2人は目を合わせてからアヌビスを見る。


「掛ってこんのか? では、こちらから……」



 横からボウガンの矢がアヌビスの障壁によって弾かれた。

 アヌビスはボウガンを放った方へ向く。


「小賢しいぞ、盗賊」

「――!?」


 アヌビスに黒いオーラが纏った瞬間、姿を消してルキナの目の前に現れた。

 そのままアヌビスは魔力の込めたアウス杖を振り下ろした。

 完全に遅れているルキナ。だが、次の瞬間ルキナは異常な速度でアヌビスの攻撃を避ける。

 まさかの事態にアヌビスと勇者3人は驚いて硬直している。


「――ッ!! ハァ……! ハァ……ハァ……!」


 数秒後、ルキナは左目を押さえて床に膝を付けた。

 押さえた手の隙間から血が流れている。


「貴様……魔眼持ちか……」


 リンがルキナを見ているアヌビスに突っ込む。

 先ほど放った連開放だろうか。弓を引く構えで突っ込んだ。


「アサヒ玄人流……連開放ッ!!」


 3段突きは障壁によって防がれる。


「残念だったな、剣士よ」

「残念なのは、お前だ」


 それだけを言い残してから、リンはその場から急いで離れる様に後退している。

 すると、アヌビスの周りに魔法陣が展開された。


「磁力よ、引き合い、引き離し、そして再び引き合う時その力を示せ!」


 黄色い球体がアヌビスの目の前に出現すると、アヌビスは球体の中心へ引き寄せられた。


「マグナティックボムッ!!」


 雷撃が発生してから、爆発を起こし辺りに電撃が走っている。

 上級雷魔法の1つのマグナティックボムをアヌビスへ放ち、すかさずフィーは魔法を発動させた。


「ファイアボール!!」


 炎の球体がアヌビスへ飛んでいき、着弾した瞬間に爆発が再度おきた。

 土煙が舞うなか、赤い瞳が光る。


「き、キサマ……!」

「痛かったからね、倍にしてお返しするわ。良いところだけど……後はよろしく」


 リンとティアがともに駆け出し、アヌビスへ向かう。


「任された!」

「任せて!」


 リンは刀を抜かずに刀に手を掛けながら走る。

 ティアは先ほどと同じく盾を構えながら突っ込む。


「二度は食らわぬ!!」


 アヌビスは先ほどよりも魔力を込め、横薙ぎに振り払う。

 ティアはブロッキングを発動せずに突っ込む。

 ギリギリまで引き付けた所でティアはアヌビスの攻撃を弾いた。

 パリィか、いいタイミングだ! 思わず心が躍る。

 アヌビスの攻撃はティアのパリィによって軌道を大きくずらされて振りかぶる。


「アサヒ玄人流……!」


 リンは未だに抜刀せずに納刀したまま突っ込み、


ぜつ九蓮宝燈ちゅうれんぽうとう……!」


 一瞬で切り抜け、抜刀した状態でアヌビスの背後へ回っていた。


「グゥア……グアァアアアアアアアアアアア!!!!」


 切り抜けた数秒後、閃光が一閃してアヌビスの体が切られた。

 アヌビスから黒いモヤが再び抜けるように発生している。


「しょ、障壁が……なぜ、起動せん……!?」


 手を伸ばすと障壁が消えていることに気づいたアヌビス。

 実はフィーの魔法でほぼ削りきられていて、最後の最後にリンが切り裂いた。

 それに気づいたフィーはだから、「良いところだけど……後はよろしく」と言った。

 ティアが剣を構えると、光がティアの剣に収束されていく。

 光が集まると刀身が変わり、光の大剣へと変わった。

 ティアは光の大剣を構えてアヌビスへ突っ込む。


「オノレェエエエエ!!」


 アウス杖の杖を振り、リンを遠ざけてから正面にいるティアを迎え撃つアヌビス。


「ヤァアアアアアアアア!!」


 ティアが光の大剣を振り下ろした。すると、光りの衝撃波がアヌビスを包み込んだ。


「グアアアアアアアアアア!!」


 断末魔を上げ、数秒後光の衝撃波が消えて、元のサイズに戻っているアヌビスが膝を床に着けていた。

 黒いモヤがアヌビスから出ている。そして、アヌビスの目つきが変わった。


「タダでは……死なんぞ……!」


 アヌビスは黒いモヤを集めて行く。モヤが集まりアヌビスを包み込む。

 まずい、あれは死を覚悟した奴の目をしている。

 何か絶対にやる。それにあの技は瞬時に移動する技だ。


「アイツ魔力を高めている……何か大きいのくるよ!」


 フィーが勇者達に警告した瞬間だろうか、


「――貴様だ、魔法使い……!」

「――!?」


 フィーの背後へ転移してフィーを捕まえようと腕を伸ばした。

 俺は急いで幽体離脱を解除して起き上がろうとしたが、目の前の光景の驚愕する。


「――な」


 アヌビス腕が宙を舞う。その後、腕が床に落ちて黒い煙となって消える。

 思わず、声を漏らすアヌビス。


「なぜ、キサマがここにいる!!」


 ユラユラと後ろへ下がりながら指を差す。


「騎士!!」


 ティアがアヌビスの腕を切り落としていた。

 なぜ、ティアがそこにいるのか俺には分からない。

 誰を狙うなんかは、アヌビスが決める事でそれを予知することは至難の業である。


「び、びっくりした……てか、アイツまさか自爆しようとしてた!?」

「……かも、しれませんね」

「てか、ティア……ありがとう」

「いえ、何故か嫌な予感がしてフィーに寄った瞬間でした」


 まさかの直感で動いたとは……これも勇者としての力か?

 そう考えると、勇者ってやっぱり凄い。

 

「おのれええええええええええええええええええええええッ!!!!」


 やけになったのか、アヌビスはティアへ突っ込む。

 ティアは光の大剣でアヌビスを一刀両断した。

 一刀両断されたアヌビスはゆっくりとティア達に近づく。


「なぜだ……なぜ、ただの冒険者に……この私が負ける……!?」


 黒いモヤがアヌビスの全身から勢いよくあふれ出ている。

 すると、ティアが1歩前に出る。


「私たちはただの冒険者ではなく、勇者です! 消えなさい、ラビリンスキーパー!」


 ティアがアヌビスへ一喝すると、アヌビスは、


「フハハ……ハハハハハ!」


 突然笑い出す。まだ、何かやると感じた勇者御一行は構える。


「勇者か……そうか、なら……これを、受け取れ勇者よ」


 アヌビスは手のひらから鍵を差し出す。

 勇者達は警戒するが、ティアのみ警戒を解いてアヌビスへ近づく。


「ティ! ティア!」

「あぶない」

「戻れ、罠かもしれんぞ!」


 3人が当たり前の反応を見せる。そりゃそうだ、先ほど自爆をしようとした奴なのだから。

 けど、3人共それは間違いだ。奴にはもう――


「――悪意を感じられないので、大丈夫ですよ」


 もはや、それも分かるのかティアは。成長したな。

 振り返りながら言うティアはアヌビスの方へ向き直し、アヌビスへ近づく。


「勇者よ……これからさき、途方もない苦難がお前達を、理不尽の襲うだろう……それでもお前は進むのか?」


 ティアは強い信念を籠った目でアヌビスの目を見ている。


「進みます。もう、私のような子は増えてほしくないのです。それに平和が1番ですから」


 最後の部分でアヌビスに優しく微笑み、それを見たアヌビスはフッ……と鼻で笑い、鍵をティアに差し出す。


「進め……この先に何があろうと迷わず進め……それに……」


 アヌビスが何故か俺の方を見ている。なんだ?


「見守ってもらっているんだ……間違えば正してくれるだろう……」

「え? 何がですか?」

「その答えは……お前らなら分かるだろう……では、さらばだ……」


 アヌビスは浄化されたのか光の粒子になり、姿が消えた。

 ……アヌビスの奴はまさか、俺の事に気づいて?


『――多分な』


 ――が突然話を掛けてきた。いや、驚くからやめろ。


『すまんな。けど、奴は気づいていたと思うぞ?』


 どこで?


『お前の障壁を見た瞬間だろうな』


 あそこか……。


『まぁ、良いんじゃないか? アイツは察して言わなかった』


 そうだな。


『んじゃ、俺は寝る』


 はいはい、お休み。

 そう言ってから――は眠りについた。

 俺はゆっくり体を起こし、勇者御一行を見る。


「みなさーん」


 俺の声に全員振り返り、駆け足で近寄ってくる。


「薬師さん! ケガは!?」

「大丈夫?」

「異常はないの!?」

「落ち着け、勇軌なら自分でみれるだろう!」


 先ほどの戦い時の姿はどこにいったのやら……と思うが、今の光景を見てからフッ……と笑う。


「どうしました?」


 ティアが首を横に傾げながら聞く。


「いや、賑やかだなって思いまして」

「は、はぁ……」

「さて」


 俺は立ち上がり、体に着いた砂ぼこりを払い落して、


「皆さんの治療でもしますか」


 勇者御一行の治療を始めた。


つつく


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