第17話 「ラビリンスケイブ~その3」

 

 同時刻、私達は地面から落とされてリンとルキナ、フィーと一緒に堕ちた。

 全員が大きなケガも無いと分かると、


『ヴオオオオオオオオ!!!!』


 と言うミノタウロスらしき鳴き声が聞こえた。それを聞いた私はリンを見る。


「早く……早く探しましょう! 薬師さんが危ないッ!」

「あぁ、そうだな。だが、先程の鳴き声の聞こえた場所に向かえばミノタウロスと遭遇する確立が高くなる」

「なら、どうしたら……」


 私は不安で胸が張り裂けそうになる。あの人は私に優しく接してくれただけでなく、少しだが強くもしてくれた恩人。

 そんな人を一人にし、ミノタウロスと言う強敵が徘徊するこの場所で単独で行動させている。


「勇軌そんな馬鹿じゃないわよ」

「フィー……」

「勇軌なら、直ぐに逃げると思うし、戦闘は避けると思う。だから、私達は勇軌を捜索しつつ出口を探す。これが一番だと思う」


 フィーが私に言う。私は、いつの間にか目尻に涙が溜まっており、それを拭ってから、


「……そうです。よく考えたら薬師さんは強いし、頭も良い。なら、私達はミノタウロスに遭遇しないように徘徊しつつ、薬師さんの捜索と出口を探すのが最優先ですね」

「そうだな、そうしよう」

「はい!」

「――なにかこっちに来る」


 今まで黙っていたルキナが口を開くと、私達に何かが来ると知らせてくれた。

 私達はルキナの見ている方向を見ていると、横の通路から大鉈を持ったミノタウロスが現れた。

 ミノタウロスはこちらに気付くと、


「ヴモォオオオオオオオオッ!!」


 と私達に向かって吠え始めた。それを見た瞬間から私達は戦闘を避ける為、既に走って逃げていた。

 私達は真っ直ぐ走り、目の前に見える左右に別れている通路を見て迷う。


「どっちに曲がる!?」

「……右」

 近くにいたルキナに聞くと、ルキナは右と答え私達は右に曲がる。曲がった後は薄暗く、先が余り見えないが右にしか行けない通路が見えた。

 私達はそれを曲がり、すぐに左右に分かれる通路を見ると、


「同じ右」


 とルキナが言い、私達は右に曲がり走り抜けた。ある程度走った後に私達は横に入れる通路があり、そこに入りすぐ曲がり角で待機し、ミノタウロスが来ないか確認する。

 確認しているとドン! ドン! と大きな足音を経て、こちらに向かってきた音を確認した。

 曲がり角からミノタウロスを見る私とルキナ。

 私からは薄暗くてほぼなにも見えない。ただ、そこになにかがいる。としか認識出来ていない。

 だけど、ルキナは多分見えていると思うと思った私。


「行った」


 ルキナが言うと、私達は壁を背にそのまま床に座り込んだ。


「つ、疲れたァ……」


 と冷や汗をかきながら言うフィー、私も安心した所で手が震えていた。

 あの迫力、そして殺気。あんなのを前にした私達でここまで疲弊している。これを薬師さん一人が受けていると、考えただけで恐ろしくなる。


「て、それよりルキナ。道分かんの?」


 と私が思っている所でフィーがルキナに聞いた。


「確かに、私達はルキナに付いて来たが、道を把握しているのか?」


 と、リンがルキナに聞くとルキナはいつもの無表情で首を横に傾げた。

 それを見た私達は戦慄する。


「ル、ルキナ? 本当に分からないんですか……?」


 私は恐る恐るルキナに聞くと、


「分からない」


 ときっぱり私達に答えたのであった。私達は頭を抱える。


「どーすんのよッ!! 今から戻ってもミノタウロスは絶対にいるし! 勇軌とははぐれるし!!」


 フィーがルキナに言う。すると、ルキナは手の平を私達に見せる様に手を上げた。


「大丈夫」

「何が!?」


 何が大丈夫なのか分からない私達、それをフィーが代弁して言った。

 するとルキナはクンクンと鼻を利かせて何か嗅ぎ出した。


「こっち」

「いや、だから何がッ!?」


 ルキナが私達に背を向けて歩こうとした所で振り返る。


「出口」

「「「えッ!?」」」


 まさかの発言に私達はルキナを囲む。


「えっと、ルキナ?」

「なに?」

「なんで分かるんですか?」

「匂い」


 私が聞くと、ルキナはざっくりと答えた。


「じゃあ、なんの匂いなんだ?」


 とリンが聞くと、


「空気の匂い」


 またもざっくりと説明するルキナ。


「空気なんて、ここにもあるじゃん! なんの匂いなの!?」


 つっ込む勢いでルキナに聞くフィーにルキナは、


「外の空気の匂い。こっちからする」

「「「えッ!?」」」


 驚きの発言大連発で私達は動揺隠せない。


「ル、ルキナ……? さっきお前は道を把握していない。と聞いたら、分からない。とジェスチャーしたな?」

「うん」

「ならなんで、出口が分かるんだ?」

「道は分からないけど、外の空気の臭いで出口が分かるだけ」

「じゃあ、お前に付いて行けば出口に着くんだな?」

「出口さえ閉じなければ」


 絶望に一筋の希望が私達を照らした。私達は顔を合わせてルキナを見る。


「ルキナ、出口までの案内宜しくお願い出来ますか?」

「ん」


 ルキナが答えるとルキナは歩きだした。私達はルキナの後に付いて行く事に決めた。

 ルキナに付いていく私達、私はルキナと並んで歩いていると、何処か不安そうな表情を浮かべる。


「薬師さん、大丈夫かな?」


 と呟く様に言うルキナ。ルキナも薬師さんの事を心配しているんですね……と思う私。

 私はルキナの手を握る。


「薬師さんなら大丈夫ですよ。私達に色々な事を教えてくれましたから」


 ルキナは私の方を見てから少しだけ微笑む。


「うん……ッ」

「行きましょう。薬師さんなら出口を知っているかも知れません」


 私達は出口に向かって進む事にした。




 俺はラビリンスケイブに潜むボスの元へ向かう。

 ちなみに出口なんてこのラビリンスケイブには存在しない。だからこそ、俺は急いでボスの元へ向かう。


『なんでそんなに急いでボスの元へ行く必要がある?』

「分からないのか? ルキナは盗賊でかなり鼻の利く方だ。ここの空気の匂いと外の空気の匂いも分かる位だろうな」

『――そういうことか。ルキナが外の空気の匂いに吊られてその場所へ向かう、と』

「そういうことだ。そこに着いたら間違いなく、あの勇者御一行は壊滅する。いや、そこで命を落とすだろうな」


 ――と俺は会話をしながら走ってボスの元へ走る。普通ならボスの元まで辿り着くのに、三日は掛かるだろう。

 それを俺は後数分でボスの元へ着くように走る。曲がり角を曲がるとミノタウロスが目の前に表れ、突然現れた俺にミノタウロスは少し驚いた。

 俺は驚いたミノタウロスの頭に毒を塗りこんだ棒手裏剣を投げつけ、俺はその横を駆け抜けた。


「ボス部屋の奥に出口があって、そこから外の空気が流れているんだ。ほんの少しの隙間からな」

『ほう? ボスにやられて死ぬ奴が多いのか?』

「いや、その前にボス部屋の前に十字路が存在しててな、左右と後方からミノタウロスが挟み込んでくる形だ」

『それで命を落とす奴が多いのか。そういえば、ここで叫んでみてはどうだ? 勇者に届くかもしれないぞ? ミノタウロスは叫べるしな』

「無理だ。ミノタウロスここで生まれたモンスターで、俺達は部外者だ。それに魔法のせいで俺達侵入者の声は遠くに響く事は無い。むしろ、壁の向かい側に居たとしても声は届く事はない」

『そこは昔と変わらねぇのか、ここ』

「昔は知らないが、無理だぞ」

『はぁ……とりあえず、お好きにどうぞ』


 と言ってから――は俺の中へ消えた。俺は急いでボスの元へ走り、ボス到達を意味する大きめの門を見つける。

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