第14話 「勇者特訓する、俺時間なくなる」


 俺達はミノタウロスの角を手に入れるため、ラビリンスケイブに向かう

 その途中でテントを張りそこで一夜を過ごす。

 テントの中で今後のルートを確認した後、コーヒー豆を挽いてからお湯を注ぎコーヒーを作った。

 コーヒーをマグカップに注ぎ、外に出て空を見上げる。


「……充実はしてんのかな? 俺」

『そうなんじゃないの? ダンナ』

「そうか……まぁ、楽しいとは思う。てか、起きてたのか」


 俺が呟くと起きていたのか――が応えた。


『まぁ、な。てか、ダンナ分かってんのか?』

「何が?」

『ミノタウロスなんてダルイぜ?』

「……クエストはクエストだ。やらんとな」

『ヘいへい、わっかりやーしたよダンナ。まぁ、頑張なさいな。俺は眠いから寝る』

「お前はいつでも眠いだろうが……」


 そう言って――は存在を消し、俺はコーヒーを飲む。テントに戻ろうとした時、


「フッ! はッ! やぁッ!!」


 少し離れた所から声が聞こえた俺は、声のする方へ向かう。

 向かうとそこはティアが一人で素振りをしていた。


「ハァアアアアア!!」


 素早い動きに鋭い一撃を振るティアに関心しながら俺は見ていた。

 数分後、剣を下ろしフゥ……と一呼吸置いたティアに俺は近付く。

 近づくと気配を察したのか、鋭い視線でこちらを見てきたが、俺を見た瞬間に微笑むティア。


「どうしたんですか? 薬師さん」

「いえ、声が聞こえたのでちょっと来てみたら稽古をしていたのを見ましてね。すみません、見ていました」

「アハハハ……。お声を掛けても良かったんですよ?」

「それは稽古のお邪魔になってしまいますのでしませんよ」

「そうですか」

「はい」


 俺はティアを見てから気になった事があった。


「気になったのですが、ティアさんは何処でその騎士の職を?」

「あ、この職は私の地元に騎士様が居まして、その騎士様に勇者訓練を受ける前から稽古をしてもらっていたのです」

「なるほど、それで剣技も素振りなどもしっかりしている訳でしたか」

「はい!」


 お互いに微笑みながら話していると、ティアがフフと笑い始める。

 どうしたのか、と思っていると、


「薬師さんと会ってたった三日なんですけど、長く感じます」

「そうですね」

「ですよね! 薬師さんにそんな事はない。って言われたらどうしようと思いました」


 俺のマネを少ししたティアがアハハと笑いながら言う。

 この様な時は対外何か悩みがあると。踏んだ俺は、


「なにかあったのですか?」

「え?」


 目を丸くしながら俺を見て驚いているティア。


「え、あ、いえ……その……」


 突然言われたティアは焦って言葉が出てこない。俺は優しく微笑む。


「ゆっくりで良いですよ?」

「……薬師さんに隠し事をしてもバレてしまうんですね……」


 と言いながら微笑むティア。その後深呼吸を二回ほどしてから、俺を見つめる。


「薬師さん、相談があります」

「なんでしょう?」

「私を強くしてください! 正確にはスキルを伝授させて下さいッ!!」

 頭を深々と下げたティア。それを見た俺はティアの肩に手を置く。

「その姿勢は素晴らしい。ですけど、貴方は簡単に頭を下げてはいけませんよ?」

「フフ……はい」


 フフと笑うティアに何で笑っているのか、俺には分からない。すると、顔を上げたティア。


「やっぱり薬師さんは優しいです。最初に会った時の様に私に大切な事を気づかせてくれる」

「大切な事は言わないとダメですからね」

「はい! では、教えて貰えますか?」

「教えると言っても、ティアさんに教えられるのは盾スキルと体術スキルぐらいですよ。後は自分で取っていけるので」

「それでも構いません! 私に稽古をお願いします!」


 ティアが頭を軽く下げて俺に言う。俺はコーヒーを飲んでから、木の近くに置いて立てかけてある木刀を手にする。


「言っておきますが、私のは少し厳しいですよ?」

「構いません。今より強くなれるのであれば」

「では、ラビリンスケイブまでは後二日必要です。その間に今から教えるスキルを手に入れて下さい」

「はいッ!!」


 俺は木刀を片手で構えてティアと向き合う。


「ティアさんは全体的にスキルの修練が足りていない且つ、スキルが少ないのです」

「すみません……」

「修練が足りていないなら、修練をすれば良いのです。ティアさんは盾を装備して、ブロッキングからのパリィを行なって下さい。行きますよ」


 そういってから俺はティアに突っ込んだ。ティアは一瞬反応が遅れてスキルを発動することが出来ず盾で防ぐ。

 俺はパワースラッシュと言う斬撃スキルを使い強烈な一撃をティアに放ち、ティアはスキルを使わずただ盾で受けた為後ろに吹き飛ばされる。

 俺は木刀を肩に置き吹き飛ばれて倒れているティアを見る。


「やめますか?」

 挑発する様に俺はティアに言うと、

「まだ……行けますッ!」


 盾を構えてから言う。そうでなくちゃこっちが困る。


「行きますよ」

「はいッ!」


 こうして暇さえあればティアは俺と稽古することになった。それを見ていた勇者三人組も何故か俺と稽古することになり、俺の時間が無くなっていった。

 何故だ……何故か、


「薬師さん、私も稽古つけて」


 とルキナに言われ、


「勇軌! ティアとルキナが稽古受けているでしょ! 私も稽古つけなさい! まぁ、私一人でも大丈――あぁ!! ごめんなさい! 行かないで! 本当にごめんなさい! 少し、少しだけ見てもらえればいいのッ!!」


 と最後は涙目になりながら言うフィーに、


「勇軌、どうやら他の三人がお前に稽古を付けて貰っているみたいだな。私も付き合って欲しいのだが、ダメか?」


 最後はリンに言われ、俺は勇者一人一人にトレーニングメニューを出し空いた時間で俺は全員を見に行き、そこで俺と一緒に稽古する事にした。

 

 俺の時間が無くなったな、こりゃあ……。

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