第12話 「マンドラゴラ採取~その1」
新しい武器を買わないフィーの考えは間違ってはいない。使い慣れている武器の方が戦いやすく、本来の力を発揮できる。
と思う俺。そして、今新しい武器を買っている勇者四人組を待っているフィーはあくびを一つ付いた。その後に勇者三人組が扉の前に来た。
「お待たせしましたッ!」
「ん」
「待たせたな」
それぞれが満足な買い物が出来たのか、声のトーンがいつもより上機嫌だ。
フィーは椅子から立ち上がり、背筋を伸ばしてからふぅ……と一つ息をつく。
「さて、行きましょうか」
俺が勇者御一行に言うと、
「はい!」
「ん」
「分かった」
「ああ」
ティア、ルキナ、フィーとリンが同時に言う。
俺は扉を開けて先に勇者御一行を行かせると、少し駆け足で近づいてくるのを感じた。
「ルイス、ありがとう」
「いえ! 旦那様、お気を付けていってらっしゃいませ」
丁寧に深々と頭を下げたルイスに俺は近付く、
「根を詰めないようにな」
「はい!」
元気に笑うルイスを見た後俺は背を向けて勇者御一行が待っている扉の向こうへ向かった。
俺達は店を出てから、三日分の食料を買いに行ってから街を出た。
街を出て数分後にティアが俺に近付いて来る。
「薬師さん、マンドラゴラってそんなに危険なんですか?」
「はぁー!? そんなのも知らないの!?」
「は、はい……すみません」
突然俺の隣にいたフィーが驚きながらティアに言う。
言い方的に常識の事をしらねぇーのかよ! みたいな感じだな。
「マンドラゴラ自体も危ないって言えば危ないけど、その周りが危ないのよ」
「なんでですか?」
「マンドラゴラはここから10キロ先の森の最深部にあって、その最深部までたどり着くのにも難しいのよ。何でかって? それはモンスターが単純に強いの」
「な、なるほど……」
手を顎に当てながら聞くティアに熱弁しながら説明するフィー。
「それだけじゃない。最深部には食人植物、食人虫、ウェアウルフがいて、そこを縄張りのボスとしているのがアラクネ。コイツが本当に危険で、何人もの冒険者達がアラクネにあってケガをしているの」
ティアはフィーの話を聞いて驚いていた。
確かに、アラクネは何人もの冒険者達を行方不明している。上級冒険者も気を抜けば倒される程の危険なモンスターだ。
まぁ、俺達には関係の無い話しなんだが。そう思っていると、フィーが俺を見てきた。
「勇軌、アラクネの対策は出来ているの?」
「そこは大丈夫ですよ。遭遇しても弱点をしっていますので」
俺が言うと、フィーはドヤ顔で俺に親指を立ててグッジョブをしてきた。
俺等はマンドラゴラを手に入れる為に2時間掛け森に向かう。
何故、三日分の食料を買った理由だが、森はとても迷いやすく、戦闘ではぐれればそれは死んだもほぼ同然だからだ。
だからこそ、その時の為に食料を持っておくのが正解。
しかし、二時間では着かず、川の近く木で休憩をはさむ。
勇者御一行は装備を少しだけ外し、休んでいた。ティアとルキナ、フィーは川に行き水を飲んでいる。リンはそれを見守るように川の近くで座っていた。
俺は木陰に勇者御一行の荷物番をしながら休憩をする。
こう見てると、あの子達が唯一この世界を救う事の出来る勇者だと俺は思えない。
本来ならティアは村で暮らして幸せな日々を送っているし、ルキナは友だちと遊んだり、家族と暮らすのが一番だ。
フィーは家族のために頑張っていて、リンは自身の修行の為にやっている筈。
……もっとも俺はそれに関わってはいけない。それが俺の役目でもあり、薬師としての俺でもあるからだ。
「何故そんな悲しそうな顔をしているんだ? 勇軌」
いつの間にか俺の隣まで来ていたリンの方に俺は向く。
「いえ、別に……ただ、今目の前で起きている光景がいつまでも続けば、と思ったのですよ」
「……そのための私達、勇者がいるんだ」
「そうですね。では、この世界をよろしくお願いします」
「任された」
最後に俺は微笑みながらリンに言うと、リンは笑顔で俺に応えてくれた。
「リンと薬師さーん、何を話しているんですかー?」
川でルキナとフィーの二人ではしゃいでたティアが俺達に手を振りながら言う。
俺とリンは顔を合わせて微笑んでから、
「はしゃぐのも良いですけどー、そろそろ行く支度をしましょうー」
俺は大きな声でティア達に届く様に言った。すると、勇者三人組みは「はーい」と言って川から出た。その後ある程度距離を稼ぎ、野宿をすることにした。
火の周り囲む様にティア達は座り、俺は昼間に薬草を採取していたのでそれを調合していた。
「どうしたんですか?」
「え!? あ!? そ、その……」
俺の後ろに居たティアが先に俺に話を掛けられ、驚いてどもってしまう。
だが、俺は調合中は目を離さない様にしているので、ティアの顔は見えない。
「あ、あの。薬師さん、相談が……あります」
「……なんでしょう?」
俺は黙々と作業をしながら話す。
「薬師さんは、何者なんですか?」
ティアの一言に俺は少し手を止めてから、また動かす。
「私は薬師ですよ?」
「それは分かっているのですが、先程みんなと話している時にこの話題が出てきて、それで気になったので……。こういうお話は御法度なのは分かっています……!」
冒険者同士の詮索をしない、聞かないが暗黙の了解である。
冒険者になったものは理由が様々だからだ。
中には元犯罪者、元奴隷などいて聞かれたくないから言わない、聞かない。
この手のお話は本当に心から信頼し、話しても裏切られたり煙たがられ無い仲間以外とは話さないのが基本。
「その、薬師にしては振る舞い、お金があったりなど……。今日あった店員さんの件もそうですが、薬師さんは何処かの貴族ですか?」
まぁ、そう思うのは仕方ないな。振る舞いは店員だから、腰が低いだけだが、心の中では私じゃなく、俺だしな。
これは俗に言う、外面が良いんだろうな、うん。
「貴族じゃ無いですよ。これは本当です」
「じゃあ……なんですか……?」
俺は調合をある程度終えたので、ゆっくりとティアの方を向く。
ティアは不安そうな表情をしていたのに対し俺は立ち上がり、ティアに近付いた。
「ティアさん、人には言えぬ事情はあります」
「はい、ごめんなさ――」
「しかし、聞かなければ知ることも無いこともあります。それでも聞きづらい事を貴方は聞こうと思うその勇気が素晴らしい、その心をいつまでも大事に持っていて下さい」
「――!! はいッ!」
俺は優しくティアに微笑みかけ、ティアは少し顔を赤くしながら嬉しそうな笑みを浮かべた。
その後、ティアが勇者三人組の所へ戻るのを見送り、俺はまた作業に戻る。
「良いんだよ、彼女はあれで」
『ダンナぁ……バレたら面倒だぜ?』
俺は――に言うと――は言い返す。
「 その時はその時だ」
『……まぁ、ダンナのお好きにしたら良いさ。俺は寝る』
「あいよ」
俺は――に言うと――は存在を消す。――は俺にしか聞こえない。
なので、この状態を見られたら完全に独り言で悲しい奴確定だな。
「さて、寝るか」
明日の朝は早いので夜遅くまで起きては、次の日に支障をきたすので俺は寝ることにした。
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