第11話 「呼び方一つで疑われる」


「じゃあさ、リンの心眼って何?」


 話が終わった所でフィーがリンに向かって聞く。


「心眼は、相手の殺意とか気を感じ取る事が出来て、一番は制空圏が見える事だな」

「せい、くうけん?」


 聞きなれぬ単語に聞き直すフィー。それはフィーだけで無く、ティアとルキナも同様であった。


「制空圏は自身の間合い、攻撃が当たる範囲、防御出来る範囲の事だ。まぁ、相手の制空圏が見えたりなど攻撃の軌道が読めたりする」

「「「なるほど」」」


 三人が声を揃えてリンに言う。リンは俺の方を見てから俺に近づく。


「今の説明は下手であったか……?」


 どこか心配そうに聞いてくるリンに俺は微笑み、


「実は制空圏は知っていましてね。今心眼で見てみてはどうです?」

「う、うむ……」


 言われたリンは目をつむり一呼吸置いてから開眼した。


「え……」

「どうしましたか?」


 俺は微笑みながら答える。


「制空圏が狭い……」

「はい、そうですよ」

「……最小限の動きのみで全てを捌くのか、勇軌は……」

「今までそうしてきましたから」


 優しく微笑みながら言う俺。それに驚きを隠せないリンであった。

 そして勇者三人組はなんのことだか分かってはいない為、首を傾げていた。

 それに気付いたリンは三人を見る。


「はっきり言えばほぼ目の前に来た瞬間に捌いているんだ。勇軌は……」


 驚きすぎて(゚Д゚)ポカーンとする三人。


「でも、危ないのでそんな事はしたくないんですけどね」


 と俺はアハハハと笑いながら言う。


「まぁ、薬師さんは凄い方なのは知ってますし、レベルも二番目に高いので納得します」

「うん、薬師さん凄い」

「まぁ、勇軌は、ね」

「確かに腰が座っている方だっていうのが分かるからな。十分だ」


 ティアが言うと、全員が上手くまとまった所で俺は立ち上がる。


「それじゃあ、装備とアイテムを買いに行きましょうか」

「「「「おー!」」」」


 勇者御一行みが元気に片手を上げて言った。

 その後、俺達はギルドを出て街にある市場に向かった。

 相変わらず市場は活気に満ち溢れているな。さてさて、俺はあまり知られていない店に行こう。

 そう思い、俺はまずそこへ向かう。


「おい、勇軌。そっちは裏通りで何も無いぞ?」


 目的の店は裏通りに有るため、入ろうとした所でリンに呼び止められた。


「実は、こっちにいいお店があるんですよ」

「え、そんな所にあったの?」

 フィーがひょこっとリンの後ろから出てきてから言う。

「はい。まぁ、知られて無いんですけどね」

「知らなかった」


 ルキナがフィーと同じように出てきてから言う。


「まぁ、裏通りにありますし、店主もドカンと売ろうっていう事では無いので」

「じゃあ! そこなら私たちに合うものがあるかもしれないんですね!」


 とティアが元気に言いながらルキナ、フィーと同じように後ろから出てきた。

 流石の俺も突っ込むというより、見飽きた感が出て黙る。


「……行きましょうか」


 俺は間を置いてから笑顔で三人に向かっていう。露骨な乾いた愛想笑いが見えたリンはフフフと笑い、ティアとルキナはフィーを責めている。


「薬師さんに愛想笑いされましたよ! フィーッ!!」

「……」

「いや、可愛く見せたつもりなんですけどね。それより、ルキナ。ダガーをしまって、怖いから」

「ほら、三人とも勇軌が先に行っている。置いて行かれる前に行くぞ」


 三人はリンにまとめられ、三人は「はーい」と言ってリンの後ろを付いてきた。

 勇者御一行だな。いやむしろ……ドラ○エ的な感じの一列に並んでいるな、うん。

 と思う俺、そんな事を思っているといつの間にか着いていた。

 俺が店の前で止まると、後ろに付いてきていた勇者御一行も止まる。


「ん? ここなのか……勇軌」

「ええ、そうですよ」


 俺の発言に勇者御一行は店を二度見した。


「でも、薬師さん。ここは――」

「はい、喫茶店ですよ。まぁ、中に入りましょう」


 そのまま俺は喫茶店の中に入る。扉を開ける瞬間に扉に付いていたベルがカラーンとなる。

「いらっしゃいませ」

 ピンク髪でサイドテールの女性店員が作業をしながら言う。そして、ある程度終わったのか、俺等の方を見る女性店員。


「――!!」


 俺達をて見て驚いた女性店員は持っていたお皿を落としてしまう。服装はシャツにベストを着て、スカートにエプロンを付けていた。


「だ、旦那様……!」

「「「「えッ!?!?」」」」

「あ……」


 ピンク髪の店員が口元を半分手で覆う様にして、涙を流していた。そして勇者御一行は俺を見て驚いている。俺は「やべ……どう言い訳しようか……」と思う。

 ピンク髪の店員は早足で俺の目の前に来ると、深々と頭を下げる。


「御越しいただきありがとうございます。旦那様」

「毎回言う様にここまで来て頭下げなくていいですよ?」

「いえ! 私は旦那様のおかげでこの生活が出来ています……! だからこそ、最低限させて下さい……!」


 またピンク髪の店員は深々と頭を下げる。俺は頭を軽く掻きながらピンク髪の店員を見る。


「……私の事をそう思ってくれるのは有難いです。しかし、貴方はここの店員です。他のお客様にご迷惑をおかけします。私はそこまでして、ルイスが頭を下げると言うのは好きでは無いですよ」


 ピンク髪の女性の名はルイス。ルイスは俯いて申し訳無さそうな表情を浮かべる。


「ルイス。貴方の行動は素晴らしいですが他の方に迷惑をお掛けしないように」

「でも――」

「これは命令です」


 俺はここでルイスに強く言っておく、命令は普段使わないし、使いたくない。それを分かっているからこそ、ルイスは俯いて黙り込む。


「でも、先程も言いましたが、貴方の行動は素晴らしい。ですが、それを毎回やってしまいますと、他の方に迷惑を掛けてしまいます。ですので、次からカウンターで軽く頭を下げてくれるだけで、私はとても嬉しいので、それでお願い出来ませんか?」


 俺は笑顔でルイスに近付いて肩に手を置いてから言う。言われたルイスは顔を上げて俺の顔を見てから笑顔になる。


「――! はいッ」


 ルイスは俺に笑顔を返しながら元気に言う。


「え、あの薬師さん。どういう……?」


 今まで驚いていて黙っていたティアが俺に言う。

 あ、やべぇ……どう説明しようか……。と思う俺。


「まぁ、少し助けましてね。それでですよ」

「え、でも……」

「いえ、本当ですよ。助けて頂きました。それも外で」


 笑顔で言うルイスに俺は心の中で「ナイス」と思うと、ルイスはニコッと微笑んだ。


「あ、そうなんですか!」

「ええ」


 それを信じたティアはルイスに笑顔で言い、ルイスはニコニコしながら言う。だが、それを疑いの目で見る勇者三人。だが、リンがため息を一つ付くと、


「で、ここがオススメで何があるんだ? 勇軌」


 気を利かせてくれたのか、俺になにも追求せずに俺に近付きながら言う。


「ええ、ここはポーション。武器、防具を置いてあるんですよ」

「ほう、そうなのか。それにしては武器や防具、ポーションが無いが?」

「いえ、〝ここ〟には無いんですよ」

「ふむ……どういう?」


 リンが言うとルイスは奥にある扉を開けた。


「こちらへどうぞ」


 そう言って奥にあった扉を開けると、武器、防具、ポーションが棚に並んでいた。

 俺達はその部屋に入ると、勇者御一行それぞれが自分の見たい物を見に行く。

 近くにいたルキナに俺は近づく、


「このダガー凄い……」


 見ていたのはプッシュダガーとメリケンと複合のナイフを見ていた。そんなルキナに俺はある物を見せにきた。


「ルキナさん丁度良いですね。後、このアームガードをどうぞ」


 俺はアームガードをルキナに渡すと、受け取ったルキナは首を傾げて俺を見た。


「これ、ナイフじゃない」

「いいえ、これはですね」


 フィンガーガード付きのアームガードに魔力を注ぐと、


「――!! 手首からブレードが出た……!」

「そうです、これは魔力を込めると魔力で作られた刃が出るんですよ。それに腕、手、手首を守れる優れ物で他のナイフを持ちやすい様に設計されていますので、オススメします」


 ルキナは手の甲の方から出るブレード付きアームガードを目をキラキラさせながら見ている。

 だが、何故か暗い顔を見せたルキナ。


「どうしたんですか?」

「……これ高いハズ……今回の報酬でも買えない」


 そんなルキナの頭を優しく撫でながら耳元まで近付く。


「実はそれ、私が作ったんですよ?」


 と小さな声で言う俺。


「え!?」


 思わず大きな声で驚くルキナに俺はしーっとジェスチャーした。


「ここの物は大半が私の作った作品で、それを売ってもらっているのです。それにそこまで苦労して作った物でも無いので安いですよ」


 俺は値段の札を見せるとそこで目を見開き驚くルキナ。


「8000Gって……安すぎる」

「そこまで苦労もしてませし、素材もそこまででは無いので」

「耐久は大丈夫?」

「はい。大男の大剣を受けても切れませんよ」


 ニコッと俺が笑いながらアームガード渡すと、ルキナは受け取った。


「買ってくる」

「はい。分かりました」


 ルキナは普通の声のトーンで俺に言い、俺もいつも通りに言う。

 俺はルキナがカウンターに行ったのを見てから、他の勇者の場所へ行く。

 盾を見ていたティアと刀を見ているリンに俺は近付いた。


「良い物はありましたか?」

「これにしようかと思いまして」


 ティアはカイトシールドを持って俺に見せる。


「良いと思いますよ。ティアさんが使うには丁度良いかと」

「それにこれは安いし、硬く、軽いので本当に素晴らしいです! ですので、買ってきます」

「はい」


 俺は優しく応え、ティアはカイトシールドを持ってカウンターへ向かった。行ったと同時にリンが俺の方へ来た。


「勇軌、この小太刀なんだが……」


 ん、俺どこか間違えたか? と思う俺。


「かなりの業物だと思う……! この波紋、そしてこの光りに持ち安さ。何より、この重みッ……!」


 興奮しながら話すリンに俺は心で「良かった……」と思った。


「そして、この装飾も品がある……! 匠の品だな! これを私は買う」


 そう俺に言ってからリンはカウンターへ走った。俺は最後に残しているフィーの元へ行く。

 フィーを探すが何処の棚にも居らず何処にいるのかと思うと、扉の近くの椅子に座っていた。俺はフィーに近付く、


「どうしたんですか?」

「いえ、買うもの殆ど無かったので」

「ほう、なるほど。魅力的な商品が無かったと言う事で?」


 これは聞いておきたい。だって、少しでもお客様のニーズに応えたいからだ。


「そういう訳では無いんですよ。ただ今使っている杖と魔ほんが使い慣れているので、それを使っていこうかと。まぁ、魔力ポーションと回復薬と傷薬は買いましたけどね」

「……なるほど」


 やはり、普段いじられたり、少しアホな行動をするがそこはしっかり考えているのか。俺はフィーへの見方が少し変わった。

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